南砺の病院家庭医が勉強記録を始めました。An archive of medical articles summarized by a family physician from Nanto Municipal Hospital.

An archive of medical articles summarized by a family physician from Nanto Municipal Hospital.富山県にある総合病院で働く病院家庭医です。勉強の記録を少しずつ書いていきます。

【献本御礼】多疾患併存患者を臓器横断的にみる!外来・病棟でのマルチモビディティ診療

【献本御礼】多疾患併存患者を臓器横断的にみる!外来・病棟でのマルチモビディティ診療

 

天理よろづ相談所病院の石丸裕康先生より,素晴らしい本をいただきました。

多疾患併存患者を臓器横断的に診る! 外来・病棟でのマルチモビディティ診療 | 石丸 裕康, 石丸 裕康 |本 | 通販 | Amazon

 

私が最も興味のある,マルチモビディティの日本初の医学書です。

(正確には,雑誌であれば藤沼先生の総合診療が日本初なのかなと思います。)

総合診療 2015年 12月号 特集 外来で「複数の疾患」をもつ患者を診る-マルチモビディティの時代のプライマリ・ケア | |本 | 通販 | Amazon

 

Amazonの紹介にはこのように記されています。

マルチモビディティ患者について、その考え方や診療実践の指針となる、研究と実践の書
マルチモビディティ患者の診かた、考えかたをベースに、臓器横断的に診療するために必要なエビデンスや経験知をまとめたプラクティカルな入門書。
基本編では「対応の原則」「複雑な病態の整理方法」「マルチモビディへの介入方法」など、おもにマルチモビディティ(多疾患併存状態)を理解するうえで必要なセオリーを収録。
実践編では、症例解説を中心に、一般・救急外来や病棟管理でのマルチモビディティ診療の最善策を実践に移すための指針を収録。
多疾患併存患者の増加・常態化が予想される今の時代に求められる“maltimorbidity"のスターターブックとして読み逃し厳禁!

 

maltiではなくmultimorbidityですが,早めに修正されるのではないかと思います。

 

金芳堂のHPでは石丸先生による序文も公開されています。

多疾患併存患者を臓器横断的に診る! 外来・病棟でのマルチモビディティ診療 | 株式会社 金芳堂

 

序文

医師として仕事を始めておよそ30年、病院を場として診療に従事してきた。振り返ってみると、この間に病院の現場の風景は大きく変わった。約30日程度であった平均在院日数は10日前後と短縮され、皆とても忙しそうにしている。さまざまな新しい技術や新規薬剤が日々導入され、病棟ではとても複雑な医療が展開されるようになっている。医師・看護師に加えて、薬剤師やリハビリテーション技師など多くの職種が患者のベッドサイドを入れ替わり立ち代わり訪れるようになっている。

医療を受ける患者はどうであろうか。明らかに患者は高齢化し、その多くが、複数の疾患を持ち、機能的にも多様な状態を呈している。家族のありかたなど、患者をとりまく社会的な状況も大きく変わった。

医療の姿が大きく変わる中、われわれは30年前には想定していなかった新たな問題に直面している。その一つが本書のテーマである、マルチモビディティである。

本書でも随所で述べられるように、マルチモビディティは単に疾患が複数ある、という状態にとどまらず、それぞれの疾患・状態が複雑にからみあい、さまざまな問題を引き起こす一筋縄ではいかない状態である。このマルチモビディティについては、地域のプライマリ・ケアを主なフィールドとする家庭医療の世界でまず注目され、ここ数年急速にその研究が広がり、その実態の解析や臨床実践の蓄積が進みつつある。

病院の診療現場に目を向ければ、やはりこのマルチモビディティの問題が、外来・病棟・救急などさまざまな局面で、診療への影響を増しつつあることは明らかであろう。

マルチモビディティの研究・診療実践は端緒についたばかりであり、病院の現場で直面している問題の対応について、参考となる文献やテキストは少ないのが実情である。本書はそのような問題意識から、病院の診療現場で出会うマルチモビディティ患者について、その考え方、診療実践に指針となることを目的に企画され、日々診療現場でマルチモビディティ患者の診療に取り組んでいる先生方に執筆いただいた。ますます複雑化する診療現場で、マルチモビディティを深く理解し、実践に役立つものとなったのではないかと期待している。

マルチモビディティについてはその評価や介入が確立している領域とは言えず、今後の研究・実践の発展が望まれる状況であり、本書がこの領域の研究と実践の向上につながることを願っている。

2020年9月
天理よろづ相談所病院 救急診療部部長・総合診療教育部副部長
石丸裕康

 

帯のところに【研究と実践の書】と書いてあったのが何故だろうと思っていたのですが,評価や介入についての研究,実践の向上につながる事が期待されます。

 

本の目次を拝見すると,この本の網羅性が分かると思います。

キーワードを勝手に赤字にしてあります。

 

目次

基本編 マルチモビディティ患者の診かた・考えかた

1 対応の原則
– 1.マルチモビディティとは何か?
– 2.複雑性の判断とゴールの設定
– 3.マルチモビディティにおける診療ガイドラインの考え方

2 複雑な病態を整理する
– 1.ポリファーマシー
– 2.高齢者総合評価
– 3.フレイル/サルコペニア
– 4.慢性疼痛の評価と治療
– 5.慢性臓器障害のとらえ方
– 6.心血管疾患リスクの評価と対応
– 7.担がん患者のshared care
– 8.メンタルアセスメント

3 マルチモビディティへの介入
– 1.価値に基づく診療の考え方
– 2.チーム医療/多職種による介入

 

実践編 症例に学ぶマルチモビディティ診療

1 一般外来・救急外来
症例 1.慢性疾患合併例での急性増悪
症例 2.痛みの背景にメンタルのある患者と慢性疼痛の考え方
症例 3.慢性疾患合併例での治療上のジレンマ
症例 4.腎障害での疼痛管理
症例 5.慢性臓器障害(心臓・呼吸器)の合併
症例 6.関節リウマチ、慢性心不全、甲状腺疾患をそれぞれ別のDrが診ている例
症例 7.透析患者の治療拒否+社会的問題
症例 8.高齢者、フレイルの患者の入院のメリットとデメリットの比較

2 病棟管理
症例 1.出血傾向 vs 血栓治療のバランス
症例 2.合併症例での糖尿病管理の調整、急性期のセッティング
症例 3.抗がん剤の有害事象による血栓症を招いた場合
症例 4.相反するアウトカムのコントロール
症例 5.標準治療が合併症のため困難な場合の治療の考え方の原則
症例 6.マルチモビディティの患者の急性期入院で、基礎疾患の治療の中止・中断・継続
症例 7.閉塞性動脈硬化症(ASO)の治療の場合に考慮するべき因子
症例 8.高齢、フレイル、心不全のある患者が肺炎で入院
症例 9.高齢、骨粗鬆症、骨折歴のある患者の巨細胞性動脈炎
症例 10. 悪性腫瘍終末期のマルチモビディティ患者をどうマネジメントするか?

 

私の連載でも繰り返していますが

医学書院/週刊医学界新聞(第3391号 2020年10月12日)

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マルチモビディティー(以下マルモ)の,診療ではバランスが大事です。

どうしても難しく捉えがちなのですが,バランスを以下にとるか。それに尽きると言っても良いと思います。

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この書籍でも,複雑性,ポリファーマシー,高齢者総合評価(CGA),フレイル/サルコペニア,価値に基づく診療,チーム医療/多職種介入,ポリドクター,相反するアウトカム,基礎疾患の治療中止などを取り扱っておられ,このバランスを構成するところに一致するフレームでありますが,あくまで各論です。

 

マルモの総論はこの80000文字相当のブログをご覧いただき

 

複雑性についてはこちらのブログに色々書いています。 

 日本のマルモの最新論文でもCGAが重要ではないかという論考が紹介されていますし

最近話題のあめいろぐ高齢者医療も老年医学を学ぶにはおすすめです

 

フレイル/サルコペニアに加えて最近はオステオサルコペニアという概念もありますし 

多職種チーム介入は当院が最も得意とするところで

多職種協同を総論的に学ぶならこの記事がおすすめです。

ポリファーマシーの概念や介入方法はあくまで各論なのですが

最近のBMJに世界で初めて,Multimorbidityにおけるポリファーマシーの服薬関連体験を調査した質的研究の統合的なレビューがでていたので,紹介しています

相反するアウトカムや基礎疾患の中止などは個別性が高いので,どうしてもクリアカットなスコアリングが出来ないもどかしさがあると思います。(ここを私の連載でカバーしようと考えています)

 

価値に基づく診療は,大西先生と尾藤先生が訳されたVBPの本もおすすめです。

価値に基づく診療 VBP実践のための10のプロセス | 大西弘高, 尾藤誠司 |本 | 通販 | Amazon

 

疾患別では

心不全マルモ 

 

パーキンソン病マルモ

がん疾患のマルモも

スピリチュアルペインに関するまとめも役立ちます

マルモの評価についても 紹介していますが,これはまだ情報が足りない領域です。

 このブログにない視点として

 

石丸先生の,慢性疼痛の評価と治療

佐藤先生の,慢性臓器障害の概念が新規性が高いと感じました。

 

慢性疼痛を医学的に網羅的に鑑別疾患を考え,ゴールを痛みの消失とするのではなく,機能的能力,身体的・精神的健康を向上させ,QOLを向上,有害転帰を最小化することが重要であり,疼痛管理は薬物療法以外に認知行動療法などの非薬物療法を紹介されているのも重要な指摘です。

 

(次回のマルモ連載8回目は,疼痛管理です。(宣伝))

 

佐藤健太先生の慢性臓器障害はこのスライドが秀逸です。

(が登録しなければ全文読めません)

この枠組は是非本書をご覧いただきたいのですが

『慢性臓器障害の診かた考えかた』(佐藤健太,中外医学社,2020)という本も出ます。佐藤先生の勢いは留まる所を知りませんね。

 

後半のケーススタディーは,臨床でよくあるケースを網羅的に紹介されています。

大事なのは各論の知識ではなく,全体像をどう考えるかだと思います。

なるべく大局的に,そしてなるべくシンプルに考える必要があります。

 

個人的には頭の中にバランスモデルと四則演算のフレームが有るのですが,皆さんも本書を読むことで自分の中にフレームを作って,大局的な視点でバランスを意識していただくことをおすすめします。

 

 

ここまでで本の内容を一切説明していない事にお気づきだろうか。

 

是非,本書を読んでいただき,自分ならどうするかを考えて,病院総合医たちのアプローチと比較していただければ幸いです。

これは今後の医師の必読書になると思います。

 

(COI:献本をいただきました)