南砺の病院家庭医が勉強記録を始めました。An archive of medical articles summarized by a family physician from Nanto Municipal Hospital.

An archive of medical articles summarized by a family physician from Nanto Municipal Hospital.富山県にある総合病院で働く病院家庭医です。勉強の記録を少しずつ書いていきます。

Multimorbidityがネガティブな印象を患者に与えるかもしれない。

‘Multimorbidity’: an acceptable term for patients or time for a rebrand?

Carolyn Chew-GrahamLiam O’TooleJane Taylor and Chris Salisbury
今回は当直中なので、BJGPのEditorialを軽くまとめようと思いました。
 
ところが軽くまとめたつもりが、結構私の中ではガツンとくる内容で、こりゃいいものを読んだ気になりましたので共有します。毎日が勉強だな…。
 
Multimorbidityの定義と意味
複数の病態が同時に存在している状態が一般的です。併存疾患のことをFeinsteinは『診ている疾患の臨床経過中に存在した、または発生する可能性がある任意の異なる追加の病態』と定義しています。Multimorbidityとは、複数の慢性疾患が長期間存在することです。
 
多疾患併存を持つ人が悪い経過をたどっているという報告があります。臨床医が多疾患併存の患者を管理するために、Muthらはアリアドネの原則を提唱しています。それは「患者の状態、治療、性格、背景の相互作用評価」、「患者の嗜好を考慮に入れた健康問題の優先順位付け」、「診断、治療、予防におけるケアの最善の選択肢を実現するための個別化されたマネジメント」を含んでいます。
 
ここでお勉強
Christiane Muth. The Ariadne principles: how to handle multimorbidity in primary care consultations. BMC Medicine 2014, 12:223
多疾患併存の患者さんがガイドラインを遵守していると、その治療の負担から生じる衝突が生じるというジレンマがあります。それを改善するために2012年10月にドイツ・フランクフルトで国際シンポジウムが2日間にわたって開催されて意思決定の基準を作りました。ギリシャ神話の登場人物アリアドネ(迷宮から脱出する道標を担った王女)から名付けられた
JC20180523æäº1
 
 
多疾患併存に関するNICE(米国国立衛生研究所)のガイドラインでは、患者を中心とした総合的なアプローチで患者のケアを行う必要性を強調し、多疾患併存の患者を管理する際に考慮すべき重要な原則についての手引きを提供しています。このガイドラインでは、臨床家が複数の疾病を有する患者と共に、自身の個人的な目標や価値観や、優先事項を含めて、彼らにとって重要なことを明確にするように推奨しています。これらの話し合いをすることで、現在の治療法と、当人の価値を考えることに役立ちます。MairとGallacherは複数の状態を持つ人とその介護者にとって最も重要なことを探求し、複雑なケア課題により効果的に対応できるように臨床医を支援する必要があると提唱しています。
 
一方で、否定的な認識
 
リッチモンドの慈善団体、セントトーマスの慈善団体、RCGP(Royal College of General Practitioners)で構成された、多疾患併存に関するタスクフォース、横断的パートナーシップは、複数の長期的な健康問題を抱える人々ができるだけ長く暮らすことを目的として2018年に設立されました(https://richmondgroupofcharities.org.uk/taskforce-multiple-conditions)
 
タスクフォースでは、民族誌調査の結果を発表しました。『Just one thing after another’ — living with multiple conditions』これは様々な条件を持つ人々が直面する課題を示しており、この重要な議論で前例のない発言が出ていました。報告された調査結果の中には「多疾患併存」が有用・許容できる用語ではなかったという言葉が聞かれました。
 
セントトーマスの慈善団体による研究では、「多発性」の枠組みについて調査し、「多発性」という用語を含む医学用語が、否定的で落胆すると感じる可能性があると確認されました。複数の病状を抱えて生活することの複雑さは、単一疾患を示すと考えている「多発性疾患」という用語によって対処されるとは考えられず、むしろ生物医学モデルとして強化されました。タスクフォースは、システム全体の複雑さを記述するためには共有言語が必要であると示唆しています。
 
精神的ー身体的多発性罹患率に焦点を当てたミーティングでは、参加者が「多疾患併存」という用語の使用についての議論に貢献しました。ある参加者は「なぜラベルが必要なのか」と尋ね「致命傷のように深刻に聞こえます」とコメントされた。「多疾患並存」という用語の否定的な関連性を強化しています。
 
患者さんの体験
実際の生活の中で設定された様々な病状の組み合わせを持つ個々の経験を要約するための1語はどうすればよいのでしょうか。明らかなのは、人々が自分の病状や、処方された薬(副作用や相互作用をふくめて)の関連性を理解し、明確な優先順位と好みを持っているということです。
多くの患者は自分の予約にプロブレムリストを持ってきます。そしてそのようなリストを通じて臨床医は相談が患者中心であることを実感することができます。

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この図は患者が診察に持ってきたメモの例です。患者がこのサマリが臨床医が「多疾患併存」または「生物心理社会的」フレームワーク内の問題として描写する可能性があることを患者がどのように経験かを理解するために取り上げました。明らかにこの患者は、自分たちの状態の間に関連を作り、優先順位がなんであるかを占めています

 

さらに積極的になる方法とは

ことばを正しく理解すると臨床医と患者の間で共感される効果があり、間違った使われ方をすると妨害されます。それぞれが介入を必要とする複数の医学的に診断された状態での生活の複雑さを反映するためにどのような用語が使われればよいのでしょうか?

 

Keeleカンファレンスに参加した人からの提案は、状況やニーズに焦点を当てていました。タスクフォースの経験がある専門家は、「multiple health conditions 複数の健康状態」および「living with a number of conditions 多数の状態での生活」を使用するのがより適切な用語であることを示唆しています。さらに「multiple health needs 複数の健康上のニーズ」、「coordinated care needs 調整されたケアのニーズ」、「complex needs 複雑なニーズ」はすべて「多疾患併存」を置き換わってもよいのではないかと提案されました。

 

したがって、我々は「多疾患併存」という言葉は、多くの患者にとって受け入れ可能な言葉ではないことを示唆しています。改善された言葉がよいコミュニケーションと健康アウトカムに繋がることを願っています。

 

感想:Multimorbidityが医学的問題が多いというネガティブな印象を患者に与えるというのは斬新でした。代わりにmultiple health conditionsやliving with a number of conditions、あるいはmultiple health needs conditions、coordinated care needs、complex needsという表現は、Ariadne principlesである「患者の状態、治療、性格、背景の相互作用評価」、「患者の嗜好を考慮に入れた健康問題の優先順位付け」、「診断、治療、予防におけるケアの最善の選択肢を実現するための個別化されたマネジメント」にも即した表現であるといえます。

 

こういう話題を先に学べるというのは非常に有意義なブログですね(と自画自賛)

個人的にはmultiple health needsの語感と健康ニーズを含有した単語が好みです。