南砺の病院家庭医が勉強記録を始めました。An archive of medical articles summarized by a family physician from Nanto Municipal Hospital.

An archive of medical articles summarized by a family physician from Nanto Municipal Hospital.富山県にある総合病院で働く病院家庭医です。勉強の記録を少しずつ書いていきます。

総合医療について NHKジャーナル文字おこし(2019年7月24日(水)) と私見

総合医療について NHKジャーナル文字おこし

(2019年7月24日(水)放送)

 

Facebookで総合診療医の先生方が話題にしてくださっていたので、拝聴しました。

www.nhk.or.jp

 

非常に興味深い内容なので配信が消えてしまうのは大変勿体ない。

というわけで文字おこししてみます。

(著作権的にNGなんだろうか。消してしまうかもしれません。)

f:id:MOura:20190728183211j:plain

(音声ファイルの-33:48~-25:21と-3:39~-0:17が該当する部分のみ)

誰かがするだろうと思って待っていてもいいのですが、配信が7/31までとのことなので、これはやはりやっておいたほうが良いと判断しました。重複してもしかたない。

 

水曜日のジャーナル医療と健康

今夜は高齢化が進む日本で重要な役割を果たす山、果たさなければならない総合医療についてです。あまり聞きなれない方が多いかもしれませんけれども、総合医療を担う医師というのは、かかりつけ医とか家庭医と呼ばれることもあります。今夜はこれから日本で求められる総合医療について、内閣府専門委員で医師の土屋了介さんにうかがいます、よろしくお願いいたします。

 

よろしくしくお願いします。

 

あの、総合医療、日本ではあまりなじみがないとは思うんですけどね、イギリスをはじめヨーロッパでは日本のように最初から専門医にかからず、ほら病院に行ってね専門医にかかることって多いじゃないですか。そうじゃなくって、総合医療の医師に必要性、どこにいけばいいか、どんな医師にかかればいいか、そういうことを判断してもらう。それによって日本のように患者がどこの病院にでも行けるっていうメリットはなくなるんですけども、必要な医療を入り口で判断することで、医療費を抑えるという事もできますし、本当に非常に重要な役割を担う医師という事が言えますよね土屋さん。

 

そうですね。ヨーロッパにおける総合医あるいは家庭医の調査では、医師全体の中で総合医・家庭医の占める割合は30~50%であることが分かっています。欧米ではまず家庭医に診療を受け、必要と認めたら高度医療機器が整備され入院設備もある病院の外来を受診するシステムが確立しています。ことにイギリスでは古くからシステムができていました。イギリスではこの制度をグループ診療の利点を活かし、病院設備や人材への投資を行い、医療システムを改善しました。この仕組みはいま最も進歩した医療システムの一つに挙げられています。

 

では土屋さん、日本の総合医療の現状っていうのはどうなっているんでしょうか?

 

厚生省によれば、2016年の我が国の医師総数は32万人で、そのうち診療所に12万人います。つまり診療所に勤務する医師を総合医・家庭医とすると医師総数の32%になります。

 

少なくはないわけですね。

 

そうですね。ヨーロッパの中では少ない方に属しますね。少ないけれどもいることはいると。それも総合医としての専門的知識がある医師は非常に少ない。

 

総合医としての専門的な知識。とはどういうものなんですか?

 

これはですね、あの通常日本ではですね、大学を出ると外科の医局とか内科の医局、それも胸部外科とか腹部外科とか分かれてますので、いわゆる外科であれば臓器別、内科であれば疾患別の専門医の教育を受ける方が大半なわけですね。ですから今申し上げたようにですね、非常に専門医として、家庭医の専門医として教育を受ける方が非常に少ない。

 

つまり、外科や内科やどこに受診すればいいのかを判断する、そういう専門知識、広い専門知識を持った医師という事ですね。で、日本の開業医の平均年齢は非常に高いと。

 

そうですね、ですから卒業してしばらくですね、専門医として活躍する、10年20年活躍してから、ご自宅のですね開業の、お父様がいる方はその跡を継いでやりますので、それから家庭医的な活動をするというので家庭医の年齢が高いと。原因がそこにあります。

 

やはりそういう、総合医療の専門医としての知識としては、なかなか難しいものがあるということですね。

 

そうですね。ですから、今専門医制度というのが議論されていますけども、19の基本科というものがありますけれども、その中に家庭医というのが入っております。しかしながら、これはですね2019年度の今募集している総合診療科の専門医の採用数というのは179名です。ということは、卒業したてのお医者さんの総数は8515名いますので、わずか2%が卒業してすぐ、いわゆる総合医・家庭医のトレーニングを受けているということで、ヨーロッパではですね、今言った30~50%の方がですね、大学を出てすぐですね、そういう専門医の教育を受けて、いわゆる開業医、あるいは家庭医として活躍していると。そこが大きな違いがあると思います。

 

日本にはだから、総合医療のできる医師はほとんどいない。だから入り口でどんな医療が必要かを判断できる人が少ないと。

 

そうですね。

 

とはいえ、日本は今高齢化が進む中でその総合医療のニーズは増してきているわけですよね。これはどんな点が具体的に挙げられますか?

 

そうですね。あの今仰ったようですにね、数多くの病気を持っていて、医師が扱うべき健康問題の広さ、多様性がありますので、日本でもぜひ必要であるという事がお分かりいただけたと思います。で、病院ではですね、入院時にはチーム医療っていうのが盛んになっているというのはご承知の通りですが、診療所の外来とかですね、訪問診療、あるいは訪問看護、さらには介護分野も含めたですね、外来や在宅分野でのチーム医療、介護が必要になりますが、まだ日本ではその体制ができていないという事ができます。

 

今の総合医療の専門医がいないからそれができないと、そういう事ですね。

 

そうですね。ですから医師による疾患の処置だけではなく、精神的な事はカウンセラー、臨床心理士、あるいは身体的なところは作業療法士、理学療法士、そういう様々な職種と連携することによって、患者さんの課題が解消していくと思います。

 

つまりそういういろんなことを判断できる、どの専門家にどれを任せればいいかっていうことが判断できる、そういう医師が必要だと。そういうことなんですね。

 

そうですね。

 

私ですね、十数年前にNHKスペシャルで医療再建という番組を作ったんですが、そのときからもう総合医療の必要性、痛感しましてそれ以来必要性を訴えてきたんですが、どうしてもこの専門医を育てるシステムが整備されない、これ問題どこにあるんですかね。

 

これはですね、日米の医者の診療科ごとの分布をみると分かるんですが、卒業する人数は対10万人に対して、日米では差がないんですけど、いわゆる専門医ですね、脳外科医とか心臓外科医、この数が日本では非常に多いんですね。だいたい1.5~1.7倍、人口比に対しているわけです。

 

アメリカより1.5~1.7倍多いと。例えば脳外科とかそういう専門医が多いという事ですね。

 

そうですね。ですから卒業時にそういう分野の卒業生が吸収されてしまうので、家庭医のコースに行く方がいない。あるいは家庭医のコースも整備されていないことがありますので、そういう方がなかなか育ってこないということですね。

 

その、家庭医・専門医、総合医療の専門医を作っていくために、いったい何をやっていけばいいんですか。

 

あの今話題になっている専門医制度をしっかり整備をしてですね、本物の専門医を作ること、ということは一人当たりの経験症例数を欧米並みの多くの症例数にするとですね、そう沢山のトレーニングドクターは養えないわけですよ。で、そうしますと自ずから、欧米の数に近づいていく。そうするとそこから減らされた人数は家庭医のコースに行かざるを得ないというようなかなり荒療治になるかもしれませんが、そういうことをしないと、国民のニーズに合った専門医制度ってのはできてこないと思っております。

 

必要な科に必要なだけの医師がきちんとこう行き渡るような、そういう制度をこれから日本は整備していく必要があるということですね。

 

そうですね。そのためにはですね。高度医療はやはり病院を集約化して一か所の病院に沢山の医師がいないとですね、24時間同じ科を診療できない。ということで、今働き方改革がありますけれど、これは集約化をしないとですね、三交代で医師が勤務するなんてことはできなくて、三交代制にしないと1800時間なんて馬鹿みたいな残業時間をいつまでも認めるという事になろうかと思います。

 

本当にねこれ医療のすべての制度を見直さなければ育っていかないという事になると思います。ジャーナル医療と健康、今回は日本で求められる総合医療について内閣府専門委員の土屋了介さんにうかがいました。ありがとうございました。

 

(中略)

 

本日のジャーナル医療の健康は総合医療について、患者に専門的治療が必要かどうかを最初に判断する総合医療、医療費削減の決め手の一つもと言われています。普及のためには何が必要なのか、内閣府専門委員の土屋了介さんにお話を伺いました。スタジオには再び土屋さんです。ツイートをいただいています。ご紹介します。お答えください。

 

「コンシェルジュの役目も果たす総合医。医局重視の医療体制を変えなくてはならない」という風にいただいています。

 

非常にあの核心を突く質問だと思います。ホテルにコンシェルジュがいらっしゃいますけども、彼らの仕事を見るとですね、非常に幅広い分野に対応していることが分かります。その裏打ちとなるですね、知識、知恵、そして問題解決能力を備えているという事で、大変専門性の高い職種であることがわかります。家庭医はまさに医療におけるコンシェルジュの役割を果たしているので、これはやはり専門医の一つであるということがよくご理解いただけると思います。この家庭医を増やすにはですね、先ほども述べましたように、いわゆる医局重視のですね臓器別、疾患別の専門医ばかり育てるような専門医制度ではよろしくないので、やはりですね家庭医のコースに入る方をですね、できればですね卒業生の40%、多ければ50%がそのコースに進むような早急に整えるべきだと思います。

 

あとやはり患者側の意識も変えるべきだと思いますよね。専門医にかかる方がいいとか臓器別専門医の方が偉いとかそういう意識を持つと、その振り分け、最初のゲートを守る人たちがこうねやる気を失っちゃいますからね。

 

そうですね。ですから医師側もきっちりと専門医としての教育を受けた方を増やしていく事が大変大事だと思います。

 

そしてこちらもツイートです。「総合医の質と量の向上にAIは活かされないんですか?」

 

これも鋭いご質問だと思います。家庭医・総合医の仕事の一部は振り分け作業とも言えますので、これについてはAIの活用は非常に有用で期待が持てると思います。さらに将来はですね、患者さんからの質問にですね応答機能を備えたロボットのお手伝いなんかも有用ではないかと期待しています。

 

メールです「医療の将来を考えると、少々強行でも早めに手を打って対策を立てた方がいいと思います。たらいまわしなどで被害を受けるのは患者の側でもあるのですから。」

 

これは大変耳の痛い事ですね、これは誰がですね強行にやるのかということで、これはいわゆる医療の専門家集団がリードしてオピニオンリーダーとなってやるべきだと思います。とかくあの医師集団もですね、厚労省がと厚生労働省を責めますけれども、そうではなくてですね、一番の原案は医療の専門家が考えるべきだろうと。まだ私も医師免許を持っていますので、責任の一端を強く感じる次第です。

 

今夜のジャーナル医療の健康

内閣府専門員の土屋了介さんでした。土屋さんどうもありがとうございました。

 

打ち込み終了。

あまり見直ししていませんが、内容は概ね合っていると思います。

そんなにひどい言われようではなくて安心しました。

 

もちろん、あまりゲートキーパーとか言われると、田舎の病院総合医ではそんなことないよと思う事もありますが、大学病院の総合診療部で働く先生のお話などを聴くとそういう側面もあると思います。決していいとか悪いとかいうわけではないのですが、どうしても優劣で語られやすい構図だと思いますので、そもそも役割のベクトルが違うという事を強調できればいいなと思います。多職種連携もなんとなくニュアンス違う気がしますが、それはまたおいおい語ります。

 

あと話題に挙がっていた40%~50%は卒業して家庭医療に進めというのは少々乱暴かもしれませんが、そもそも私の時代は家庭医療という科目が医学部の授業にはなかったですし、診療研修病院に家庭医療科がない病院がほとんどなので、学生が卒業後に進むなんて考えられないのだと思います。大学病院でローテーションしてもゲートキーパーだと思われるかもしれませんし。コテコテの家庭医療に触れると何人かは興味が出てくるのではないかと思っています。

 

そもそも私もそんなに崇高な理念を持って家庭医療に進んだわけではないのに、今となっては医師11年目で家庭医療専門医というレアな資格もいただいて、色々と役に立てていると思っています。それもこれも医学部時代に地域の病院で長期間実習をしたことがきっかけであったと思います。「こんなところに、家庭医ってのがいる」という発見がきっかけですし「家庭医というのが病院にいてもいいのか、むしろ必要と思われている」という稀有な環境に出会えたことが幸運でした(それが今の職場の南砺市民病院な訳ですが)そういう出会いが学生時代にあればいいのでしょうね。

 

というわけで、医学教育のカリキュラム的にナッジを効かせて早くから地域に出て継続的に患者さんに関わっているうちに家庭医療を身近なものと感じてくれる人が増えてくるといいなと思っています。