南砺の病院家庭医が勉強記録を始めました。An archive of medical articles summarized by a family physician from Nanto Municipal Hospital.

An archive of medical articles summarized by a family physician from Nanto Municipal Hospital.富山県にある総合病院で働く病院家庭医です。勉強の記録を少しずつ書いていきます。

プライマリケアにおけるうつ病の検出と治療に関する構造化アプローチ:VitalSign6プロジェクト

A Structured Approach to Detecting and Treating Depression in Primary Care: VitalSign6 Project

doi: 10.1370/afm.2418 Ann Fam Med July/August 2019 vol. 17 no. 4 326-335

 

ここ最近は病院総合医らしいというよりもプライマリケア寄りの投稿ばかりしています。この方が投稿がかぶりにくいというニッチなところを意識した打算もありますが、咀嚼して文章に書くことで病院ではしっかり学ぶ機会が少ないプライマリケアを勉強するいい機会になっています。もちろん病院総合医にとっても実臨床に役立つ内容を提供していきますので、どうかお付き合いください。

 

今回もAnnals of Family Medicineからの紹介です。

テキサス州ダラスにあるUTサウスタンメディカルセンターのManisi K.Jha先生が取り組まれている、米国のクリニックにおける品質改善プロジェクト(VitalSign6)の紹介です。

品質改善の取り組みとしても参考になりますが、うつ病のアプローチとしても大変参考になりますので、自分の勉強のために訳と解説をつけておきます。この論文をしっかり読むだけで基本的なところは身につくのではないでしょうか。ご意見をいただければ幸いです。

 

そもそもうつ病は依然として大きな健康問題です。

うつ病と自殺は帰国する退役軍人の間で問題を増大させています。プライマリケアクリニックで見られる患者の10%から14%が大うつ病を患っていると推定されています(Pignone et al。2002 )。残念なことに、これらの患者の半数は鬱病であると認識されないだろうという報告も示唆されている(Coyne et al。1995 、Kessler et al。2003 )。

抗うつ薬で治療された患者の場合、5人の患者のうち1人だけが適切な投与を受けることが示唆されています(Young et al。2001; Kessler et al。2003 )。

上記の報告された欠点にもかかわらず、STAR * D研究からの研究は、プライマリケア環境で高品質治療を提供することが可能であり、その結果は専門医療と同等の結果であることを示しています(Trivedi  et  al。2006; Gaynes et al。2009   )。これらの理由から、MBCのアプローチはプライマリケアの設定に強くお勧めします。

成人の6人に1人は生涯にうつ病を経験し、最初のエピソードは小児期または青年期によく起こる(Hales et al.2014)。

大うつ病性障害に対するPCPの診断感度は約50%である傾向がある(Pence etal。2012  )。

うつ病を治療するための最善の努力にもかかわらず、多くの患者は適切な治療を受けていません。(Kessler et al。2003 )

 

UT サウスタンメディカルセンターのHPに紹介があるので、それも参考になると思います。(資料も充実しています)

www.utsouthwestern.edu

 

ところでなんでVital Sign6っていうのか分かりますか?

VitalSign6: Dallas Depression Center - UT Southwestern, Dallas, Texas

を見るとうつ病のスクリーニングを誰でもできる6番目のバイタルサインにしたいという思いのようです。ちなみに5つは体温、脈拍数、呼吸数、血圧、痛みのようです。意識状態かと思ったら痛みかー。動画でiPadアプリを使用している場面もあり患者さんの入力しているイメージが湧きました。

 vitalsign6ã¦ã¼ã¶ã¼feedback.png

 こんなのを使って入力しています。

https://www.michaelvantruong.com/vitalsign6より

アプリの入手はできないようです。確認できず。

 

前置きが長くなりましたが、論文読みます。

(すでにお腹いっぱいですが頑張ります)

f:id:MOura:20190727233332j:plain

 

目的

米国大都市圏の16のプライマリケアクリニック(6つのチャリティークリニック、6つの州立のヘルスケアセンター、2つの低所得者向けの私立診療所、2つのメディケアや私的保険利用者向けの診療所)が、うつ病患者の認識、治療、転帰を改善するために進行中の品質改善プロジェクト(VitalSign6)の結果を紹介します。

 

方法

2質問票(PHQ-2)でスクリーニングし25000人の12歳以上の患者を対象にした後方視的分析を行いました。PHQ2 2以上の陽性患者に自記式、臨床による評価がなされました。2014年8月から2016年11月までに収集されたデータは、(1) 初回のPHQ-2スコア(n=25000)、(2) スクリーニング陽性(n=4325)、(3) うつ病と診断された18週以上の通院患者(n=2160)の3つのレベルで利用可能でした。

 

結果

17.3%(4325/25000)がうつ病のスクリーニングで陽性になり、56.1%(2426/4325)がうつ病の診断となりました。18週以上の通院で64.8%が薬物療法を開始され、8.9%が他院へ紹介された。薬物療法を開始された1400人の患者のうり、45.5%は追跡調査のための来院はなく、30.2%は1回、12.6%は2回、11.6%は3回以上の追跡調査のための受診をしました。1,2,3回以上の追跡調査を受けた患者の寛解率はそれぞれ20.3%(86/423)、31.6%(56/177)、41.7%(68/163)でした。ケアとの摩擦が強い傾向がある患者(再度受診しなかった)の特徴は、非白色人種で、薬物依存のスクリーニング陽性で、うつや不安症状の症状が軽い、若年者でした。

 

結論

スクリーニングやうつ病の治療後に3回以上の訪問をすると寛解率は向上するものの、ケアからの摩擦は転帰に悪影響を及ぼす重大な問題でした。

 

そしてここからが長い…。

疲れたので余談です

持論を言いますが、この手の論文は、結果だけ読んでも全然面白くないのです。

本文を熟読して、知らなかった知識を孫引きして新たな知識を増やすことに醍醐味があります。きっと知らないこといっぱいあるんだろうな。楽しみです。

 

はじめに

大うつ病性障害(Major Depressive Disorder:MDD)は毎年米国製人の5~10%に発症します。MDDの半分は抑うつ症状を呈さず、5人に1人しか適切な治療を受けていません。検出されず未治療のうつ病がいることは、スクリーニングの勧告に繋がっています。プライマリケアの現場では5~10%がMDDに理解していますが、その2~3倍は診断基準を満たさないうつ症状を持っています。診療所におけるうつ病のスクリーニングおよび追跡評価はうつ病の認識不足の問題を解決するはずです。2009年以来のスクリーニング率の緩やかな改善にもかかわらず、外来診療セッティングの全国調査では、わずか3%しかうつ病のスクリーニング陽性患者はいませんでした。

過去20年の研究ではうつ病と診断された患者をどこでどのように治療するかという事が決定してきました。診療所はうつ病スクリーニングや陽性者の管理に理想的です。診療所で同一の体系的な治療(measurement -based care:MBC)を受けているうつ病患者は精神科セッティングと同等の治療効果がありました。MBCアプローチは(1)症状、副作用、および治療遵守の標準化された評価、(2)治療のためのポイントオブケアの意思決定、(3)継続的なフォローアップ訪問、(4)意思決定を支援するための臨床医へのフィードバックがあります。MBCの使用は、標準治療と比較した場合、寛解率が2倍高くなり、うつ病の治療ガイドラインに採用されました。臨床医はほとんど、一連の測定をしていないため、MBCのアプローチは、うつ病のスクリーニングと管理の両方を、患者の自己報告の評価に依存しています。

スクリーニングと治療開始の例ではうつ病の治療の必要はないかもしれない患者の特定も含んでいます。それゆえ治療開始率は低く、ケアの消耗率は高いかもしれません。現在の推定では治療を希望しているうつ秒の外来患者の中でも、最初の急性期抗うつ薬治療中に1/4以上が治療を中止していることが示唆されています。抗うつ薬治療の遵守はケアの継続のうち問題であるといえます。臨床現場における抗うつ薬治療の転帰は不明ですが、うつ病患者の6%未満はコミュニティーを設定する事で寛解を達成できると推定されています。

本報告は無保険または保険未加入の少数派集団にサービスを提供している16のプライマリケアクリニックにおけるうつ病の認識と治療を改善する品質改善プロジェクトの一環として25000人のスクリーニングされた患者の臨床転帰を説明します。この報告は、スクリーニング、診断、および治療の推奨手順、並びに非メンタルヘルス関連状態のプライマリケアクリニックで治療を受けている患者の観察コホートからうつ病が陽性であるとスクリーニングされた人々に対するスクリーニング来院後の18週間にわたる治療結果について説明します。

この報告は大規模なスクリーニングとうつ病の治療を実装するために健康情報技術の進歩を組み込んだ品質改善プロジェクトであるということが新規性があります。本研究では、(1) うつ病について陽性とスクリーニングされたプライマリケア源波患者の割合、(2)うつ病性障害と診断された陽性スクリーニング患者の割合、(3)患者にMBC療法を開始され、積極的なサーベイランスをうけた、または外部専門家に紹介されたうつ病性疾患と診断された人の割合、(4)今後18週間で経過観察のために戻ったうつ病性疾患と診断された人の割合、(5)18週間の間に1回以上のフォローアップ訪問があった患者で初回に薬物療法があった割合や症状改善を達成した患者の割合はどれだけなのか、の5項目を測定することを目的としました。

 

方法

この報告はMDDのマネジメントの中でも25000人のうつのスクリーニングの中で得られたデータを用いた品質改善プロジェクトです。2014年8月から2016年11月までの自記式フォームと医療者による評価と、人口統計情報を診療所でアプリに登録された患者情報を利用しました。

 

品質改善プロジェクト

慢性疾患としてのうつ病に対する質改善プロジェクトです。プライマリケアにおけるうつ病の管理に対する新しいエビデンスに基づいた協調的ケア、コロケーション、遠隔診療などを用いた統合行動医療に基づいています。

訳注:統合行動医療(IBHC)は患者と家族が協同して体系的に患者中心のケアを提供することです。薬物乱用、行動変容、生活上のストレスの危機、ストレス関連の身体症などに適応されます。これを勉強するだけでも勉強になりそうです。

integrationacademy.ahrq.gov

このプロジェクトでは(1)スクリーニングを行い、(2)スクリーニング陽性患者のうつ症状をモニタリングし、(3)MBCを使用した指導を行うためにWebベースのアプリを利用しポイントオブケア(患者に近いところで行うケア)を行います。このプロジェクトではすべての診療所スタッフがうつ病に関する訓練(有病率、負担、医学的障害と併存症、MBCアプローチを利用した治療法)を含めた最大4時間の対面でのトレーニングに参加する必要があります。加えて医師、APN(advanced practice nurses 高度実践看護師)、PA(Physician assistant 医療補助師)はうつ病の治療アルゴリズムについてWebペースのアプリを用いたオンライン学習を3時間行っています。質改善チームメンバーは都市部の医療機関への紹介や連携の補助も行います。

 

医療機関

16のプライマリケアクリニック(n=25000)には6つのチャリティークリニック(n=9947, 39.8%)、6つの州立のヘルスケアセンター(n=11556, 46.2%)、2つの低所得者向けの私立診療所(n=3081, 12.3%)、2つのメディケアや私的保険利用者向けの診療所(n=416, 1.7%)で実施されました。医療者は医師(内科、家庭医療科、小児科)、医療補助師、高度実践看護師です。一部の診療所では診療所内で(2/16)、または遠隔診療(4/16)を介して行動カウンセリングも利用可能でした。品質改善プロジェクトの開始前には、その診療所も系統的にうつ病をスクリーニングしていませんでした。

 

うつ病のスクリーニング

PHQ-2(2-item Patient Health Questionnaire)を用いて自記式スクリーニングをしました。このスケールは抑うつ気分と興味意欲の喪失(アンヘドニア)に関する0-3までのスコアで合計0-6点です。3点以上で陽性とすると高い感度(83%)と特異度(92%)で、MDDをプライマリケアの現場で見つけることができます。12歳から17際にはPHQ-A(patient health questionnaire for sdolescents)の最初の2項目を用います。陽性であれば追加アセスメント(PHQ-9)を行い、陰性であれば1年ごとに確認します。

訳注釈:

Patient Health Questionnaire (PHQ-2) for Depression Screeningについて
最近 2 週間に以下のような問題がどのくらいの頻度でありましたか?

Q1. 何かやろうとしても、ほとんど興味がもてなかったり楽しめません 

       全くない(0) 数日(1点) 2 週間の半分以上(2点) ほぼ毎日(3点)

Q2. 気分が重かったり、憂うつだったり、絶望的に感じます
       全くない(0) 数日(1点) 2 週間の半分以上(2点) ほぼ毎日(3点)

2 つの質問への回答の合計が 3 点以上の場合に陽性と判定します。
(Whooley ら: Case-finding instruments for depression. Two questions are as good as many. J Gen Intern Med, 12:439-45, 1997 より引用翻訳)

PHQ-Aは青年期用ですが質問1,2はほぼ同じです。

https://intermountainphysician.org/_layouts/Custom/KnowledgeRepository/KrDocumentFetch.aspx?target=document&ncid=522981530&tfrm=default

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陽性者のスクリーニング

PHQ-9という大うつ病性障害モジュールの9質問法で自記します。各0-3点で合計0-27点で、0-4はなし、5-9が軽度、10-14が中等度、15-19が中等度から重度、20-27が重度です。

またGAD-7(Generalized Anviety Disorder 7-item scale)は不安障害に関わる質問項目を抽出し自記式質問票として開発したものです。各項目0-3点で21点満点です。

訳者注:PHQ-15やGAD-7やその日本語版も気になる方は文献紹介しておきます。http://nirr.lib.niigata-u.ac.jp/bitstream/10623/46001/1/7_35_39.pdf

CAST-SR( Concise Associated Symptom Tracking SelfReport)は16質問の自記式調査で、不安、いらだち、躁病、不眠、パニック障害の発見に使用されます。

https://www.utsouthwestern.edu/edumedia/edufiles/departments_centers/depression/vitalsign6/measures/cast-sr.pdf

P-FIBS(The Pain Frequency Intensity and Burden Scale)は痛みに関する4項目の自記式調査で、各0-8店で32点満点です。

https://www.utsouthwestern.edu/edumedia/edufiles/departments_centers/depression/vitalsign6/measures/p-fibs.pdf

アルコールと薬物については飲酒量をスクリーニングするための2つの自記式質問で構成されます。それは「過去1年間に1日に5回以上飲酒しましたか?(女性は4回以上)」「一年で何回違法な薬を使用したり、非医療的な目的で処方薬を使用しましたか?」で1回以上であれば陽性です。

FIBSER(The Frequency, Intensity, and Burden of Side Effect
Rating Scale)は3項目の自記式で各0-6点で全体的な頻度や強度、抗うつ薬に関連する副作用の評価をします。

PAQ(The Patient Adherence Questionnaire)は過去7日間に抗うつ薬の服薬を忘れた日数うや変更した日数を尋ねる2項目の質問票です。

 

診断の評価

臨床医はDSM-5のWebチェックリストに基づいて診断を行いました。診断にはうつ病(大うつ病性障害、適応障害によるうつ症状、持続性抑うつ障害(気分変調症)、特定不能の抑うつ障害)が含まれ、すべての精神障害の除外や追加のフォローアップの必要性を判断します。

訳者注:もう少し勉強を深めたい方は、日本精神神経学会からDSM-5翻訳ガイドラインもご参照ください。https://www.jspn.or.jp/uploads/uploads/files/activity/dsm-5_guideline.pdf

 

フォローアップの方法

診断後には、(1) MBCを用いた薬物療法、(2) PHQ-9, GAD-7, CAST-SRを用いた症状モニタリング、(3) メンタルヘルスカウンセラーによる認知行動療法、(4) 専門クリニックに紹介、(5) 患者が拒絶された場合は文章化してフォローアップ中止の判断をします。

 

薬物療法

患者は来院時に症状(PHQ-9, GAD-7, CAST-SR)、副作用(FIBSER)、遵守(PAQ)の評価を行いました。臨床医はMBCアルゴリズムで議論し評価することを勧められました。追跡調査は2週間ごとに推奨されましたが、患者の好みや臨床医の利用可能性に基づいて行われました。処方薬に制限はありませんでした。

訳者注:MBCアルゴリズムは上でも軽く説明しましたが、ガイドラインにも載っていますしこの研究で大事になってくるところなので補足。

Trivedi MH, Rush AJ, Wisniewski SR, et al; STAR*D Study Team. Evaluation of outcomes with citalopram for depression using measurement-based care in STAR*D: implications for clinical practice. Am J Psychiatry. 2006;163(1):28-40. (PMID 16390886)

www.ncbi.nlm.nih.gov

Guo T, Xiang YT, Xiao L, et al. Measurement-Based care versus standard care for major depression: a randomized controlled trial with blind raters. Am J Psychiatry. 2015;172(10):1004-1013. (PMID 26315978)

www.ncbi.nlm.nih.gov

簡単に言うと、連続的に症状、副作用、および治療遵守を評価し、適宜治療のための意思決定をして、継続的なフォローアップ訪問をして、臨床医へのフィードバックを行う事です。上記研究では薬物はこの研究ではパロキセチン(20〜60 mg /日)またはミルタザピン(15〜45 mg /日)に限定されていますが、本研究では使用薬剤は問わないというわけです。

 

統計学的分析

PHQ-2スクリーニングの25000名、PHQ-2陽性の4325名、18週間登録したうつ病性障害2160名のデータを用いました。18週間というのは薬物療法の急性期経過を反映するために4か月間データ収集するためです。ベースラインの社会人口統計学的特徴を対象にして各データを比較しました。

 

結果(ここからは流していきます)

17.3%(4325 / 25000)がうつ病のスクリーニングに陽性でした。

個々の診療所での割合は6.7%から25.5%の範囲でしたhttp://www.annfammed.org/content/17/4) / 326 / suppl / DC1

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ベースラインは小さくてみにくいですが、詳細は本文をご参照ください。

2〜17歳、18〜65歳、65歳以上の患者の割合は、それぞれ6.99%(n = 1748)、87.4%(n = 21850)、および5.61%(n = 1402)でした。参加者の平均年齢は40.88歳で、標準偏差(SD)は15.52でした。陰性群と陽性群でも年齢に有意差はありませんでした。英語を使用している人々(21.1%)および非ヒスパニック系(29.7%)の民族性の人々では、より高い陽性スクリーニング率が認められました。スクリーニング陽性の人の平均PHQ-9スコアは13.92(SD = 5.89)でした。陽性のスクリーニングを受けた患者のうち、75.3%が中等度から重度のうつ症状でした。

訳者注:PHQ-9では重症~軽症までバランスよくいらっしゃいます。プライマリケアの疾病構造を把握するというのも参考になります。(あくまで米国都市部ですが)

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64.8%がMBCを用いた薬物療法でした。

6.4%が外部専門医療のために紹介されました。f:id:MOura:20190728125730j:plain

18週以上のデータ(n = 2160)のある患者のうち、52.0%は1回も来院されず、3回以上の追跡調査訪問をしたのは9.3%しかいませんでした。初回スクリーニングから最初の経過観察訪問までの平均日数は、経過観察訪問が1回のみのものについては50.8±32.4日、追跡調査訪問が2回では33.2±21.0日でした。フォローアップ訪問が3回以上では22.0±14.8日でした。より多くの追跡調査訪問を有する鬱病患者は、より重度な鬱病および不安症状でした。薬物療法が選択された患者は、心理療法を選択した患者より再診率が高値でした(54.5% vs 36.6%、P<0.0001)。MBCを使用して薬物療法を開始した人のうち(n = 1400)45.5%は1度も受診されず、1回訪問は30.2%、2回訪問は12.6%、3回以上の訪問では11.6%が受診しました。

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改善率は3回以上の訪問でより高く、1,2回よりも3回以上の方が有意に改善していました。(P<0.001)

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(訳者の素朴な気持ち:このグラフ、いるのかな?? 寛解率と非寛解率は合わせて100%になるんだから、精神科診療との比較でもしたほうがよほど有益だと思うが…)

 

議論の抜粋

・スクリーニング陽性患者の3/4が来院時に診断を下せた。うつ病性障害は56.1%。

・スクリーニング陽性患者の7%は初回で診断できず、20.8%が最終診断を確認できませんでした。

・PHQ-9で15未満であったのは63-75%でした。

・追加訪問が1回以上では27.5%、3回以上になると41.7%でした。

・これは精神科センターでの初回抗うつ薬の治療効果である15%の寛解率を上回っていました。

・消耗が激しく1/3が脱落してしまったという無作為試験もあります。

・1回も戻ってこない傾向があったのは若く、少数民族で、落ち込みが軽度で、薬物処方がある場合でした。

・ヒスパニック系、スペイン語圏の患者はPHQ-2陽性率が低くPHQ-9も低め。

・1回または2回の受診患者でさえ、間隔があきすぎていました(5~7週間)

・その結果は、投与量を調整でき、副作用も最小限に抑え、遵守率も上がることを来していました。

・MBCされなかった原因は、患者が希望されない、時間がなかった、臨床医の理解がありませんでした。初回薬剤は調整不要という態度、行政上の理由もあったかもしれない。

消耗の理由(子育て、保険の損失、家族のストレス、転職、リマインドコールを受けるための電話回線の有無、提供者が不在)を解明し、催促状や玩具、食物、交通費の補助など小さいインセンティブや予約をしやすくする取り組みも重要でした。

(再受診率を上げる研究も多数引用されています。本文をご参照ください)

・MBCを用いた薬物療法は2/3に実施されたが、認知行動療法は8人に1人推奨されました。結局16人に1人が紹介され、10人に1人が拒否されました。

・制限は診療所での人口動態的データが抜けていた。治療オプションを制限していたことも関係していたかもしれませんし、観察研究なので因果関係が推定できません。そもそも母集団が社会的経済的地位が低く、少数派の患者なので一般化しにくいです。

・診療所なのでリソースも不足していた。時間も十分に取れませんでした。アルゴリズムを作っておくことが期待されます。

 

改善案

・消耗を減らすために、入力を簡単にする(音声入力システムなど)

・リアルタイムにやり取りするためのWebツールと電子カルテとの統合

・時間をかけて意思決定すると定着率が高くなるため、患者のナビゲーションの工夫が必要。

・MBCの管理は遠隔診療でもできるのではないか。

 

感想

プライマリケアクリニックにおけるうつ病のスクリーニング、MBCによる介入、再診率改善に向けた構造化アプローチでした。薬物療法に限らない治療介入オプションがある疾患は他にもたくさんありますので、受診率向上や再診率改善、アドヒアランス向上に向けた取り組みの参考になると思います。

 

割と真面目に読んだので大変頭を使いましたが、良い勉強になりました。

最後まで読んでいただきありがとうございました。

 

追記

素晴らしいと思っていたVitalSign6ですが、入力に時間がかかるという問題があり、それも業務改善が計画されていました。先行ってますね。

www.michaelvantruong.com