南砺の病院家庭医が勉強記録を始めました。An archive of medical articles summarized by a family physician from Nanto Municipal Hospital.

An archive of medical articles summarized by a family physician from Nanto Municipal Hospital.富山県にある総合病院で働く病院家庭医です。勉強の記録を少しずつ書いていきます。

処方カスケードについて簡単にまとめてみる

処方カスケードについて簡単にまとめてみる

 

ブログをいつかやろうと思っていて,原稿を理由に放置していました。

自己研鑽のアウトプットするためにブログを書いていたのに,原稿を理由にサボるというのはいけないということで,今回は処方カスケードについてまとめてみました。

 

今回も当直終わりかけの朝6時からできるところまで書いてみます。

2時間ぐらいで完成すると良いなぁ…。

 

ちなみにケースで学ぶマルチモビディティーでも

パーキンソン病に関わる処方カスケードについて紹介したことはありました。

抗精神病薬による遅発性ジスキネジアやドパミン関連薬剤によるジスキネジアとなり,症状緩和のためアマンタジンを投与した結果,副作用で下肢浮腫が出現し,浮腫を改善するため利尿薬のフロセミドを使用すると尿意切迫となり,神経因性膀胱の診断で抗コリン薬の投与を行った結果,転倒・骨折するという悪循環に陥ります。

 

www.igaku-shoin.co.jp

 

すでに日経メディカルなどでも紹介されているので,概要はご存じの方も多いのではないでしょうか。

例えば、食欲不振を訴える高齢患者にスルピリドを漫然と長期処方すれば、錐体外路症状が生じやすくなるが、その原因が薬剤と気付かないままパーキンソン病を発症したと考え、抗コリン作用を有する抗パーキンソン病薬を追加する。さらに、その副作用としての認知機能低下を認知症の発症と捉え、アルツハイマー病治療薬を追加するという例がある。

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有名な処方カスケードの例は、尿失禁につながるコリンエステラーゼ阻害剤とその後の膀胱抗コリン作用薬の使用(後述)や足首浮腫に利尿薬の使用につながる高血圧のカルシウムチャネル遮断薬です。

Savage RD, Visentin JD, Bronskill SE, Wang X, Gruneir A, Giannakeas V et al (2020) Evaluation of a common prescribing cascade of calcium channel blockers and diuretics in older adults with hypertension. JAMA Intern Med.

 

ポリファーマシーは認知症のある人や、高齢の人に不利益をもたらす可能性があるという指摘は、以前から多く報告されています。

2019年にKhezrianらが、ポリファーマシーは認知機能、身体機能、感情機能の障害に関与すると報告しています。

Khezrian M, McNeil CJ, Myint PK, Murray AD. The association between polypharmacy and late life deficits in cognitive, physical and emotional capability: a cohort study. Int J Clin Pharm. 2019 Feb;41(1):251-257.

2019年にPorterらは、ポリファーマシーが認知機能障害のある高齢者の死亡率上昇と関連があると報告しています

Porter B, Arthur A, Savva GM. How do potentially inappropriate medications and polypharmacy affect mortality in frail and non-frail cognitively impaired older adults? A cohort study. BMJ Open. 2019 May 14;9(5):e026171.

 

そして,ポリファーマシーが生じる過程の1つに処方カスケードがあります。

処方カスケードとは,1995年にRochonらによって記述,報告された概念で,服用薬に対する有害な反応が,新たな病状と誤認され,それに対して新たな処方が生まれるというものです。

図サムネイルgr1

Rochon PA, Gurwitz JH. The prescribing cascade revisited. Lancet. 2017 May 6;389(10081):1778-1780.

 

この論文によると,Rochon先生は1995年のLancet誌で初めてPrescribing Cascadeの概念を説明し,1997年のBMJ誌でこの概念を発展させ,2017年にこの論文をまとめたようです。

 

例えば、非ステロイド性抗炎症薬(NSAID)療法の使用と降圧療法の新規開始または強化を結びつける処方カスケードが確立されています。

GurwitzJH,Avorn J, Bohn RL, Glynn RJ, Monane M, Mogun H. Initiation of antihypertensive treatment during nonsteroidal anti-inflammatory drug therapy. JAMA 1994; 272: 781–86.

 

またオンタリオ州では、ほぼ20種類のNSAIDと40種類以上の降圧療法が用意されており、1つの処方カスケードに多くの薬物療法が関与しうることが強調されています。さらに、NSAIDsと降圧剤は、高齢者の有害事象と一般的に関連しています。

Canadian Institute for Health Information. Adverse drug reaction-related hospitalizations among seniors, 2006 to 2011. March, 2013. https://secure. cihi.ca/free_products/Hospitalizations%20for%20ADR-ENweb.pdf (accessed April 20, 2017).

 

実際に,認知症管理のためにコリンエステラーゼ阻害剤を服用している患者が尿失禁を起こした場合,医療従事者が失禁の治療のために抗コリン剤を処方しようとした時点でポイントオブケアの電子警告によって処方カスケードを回避することができます

Gill SS, Mamdani M, NaglieG, et al.A prescribing cascade involving cholinesterase inhibitors and anticholinergic drugs. Arch Intern Med 2005; 165: 808–13.

 

コリンエステラーゼ阻害剤による治療が、胃腸症状の発生と市販のサリチル酸ビスマスによるセルフメディケーションにつながっていますし

Rosenberg J, Rochon PA,Gill SS.Unveiling a prescribing cascade in an older man. J Am Geriatr Soc 2014; 62: 580–81.

 

徐脈の発生とそれに続くペースメーカー装置の挿入につながるケースもあるようです

Gill SS,AndersonGM, Fischer HD, et al. Syncope and its consequences in patientswith dementia receiving cholinesterase inhibitors: a population-based cohort study. Arch Intern Med 2009; 169: 867–73.

 

処方カスケードへの対応法には3つの質問を確認するとよいと言われています。

①以前に処方された薬物療法による有害事象に対処するために、新しい薬剤が処方されているのか?

新たな病状を治療するために薬物療法を開始する前に,その病状が薬物に関連した有害事象である可能性を考慮するとよい。具体的には,新しい薬物療法を処方する際には,新しい薬物療法が処方されていないか,市販薬が使用されていないか,あるいは処方カスケードの結果,不要になる可能性のある医療機器や処置が検討されていないかを考慮しましょう。

②処方カスケードの原因となった最初の薬物療法は本当に必要なのでしょうか。

処方カスケードが確認されたら、一連の質問をしてみてください。具体的には、最初の薬物療法は絶対に必要だったのか、最初の薬物をより安全な代替品に代えることができたのか、あるいは用量を減らしてその後の薬物療法の必要性を減らすことができたのかです。

③処方カスケードの原因となった薬物療法を継続することの有害性と有益性は何か?

意思決定プロセスを共有する一環として、患者さんと一緒にリスクとベネフィットを検討してください。

 

薬剤の追加をしていないか,元の薬剤は本当に必要か,リスクベネフィットはどうか。

の3点を確認すると対応できると思います。

 

余談はここまで

ここからが,最近の論文の紹介です。

 

慢性疼痛の治療には、オピオイド、非ステロイド性抗炎症薬、コルチコステロイド、神経障害性疼痛に用いられる抗痙攣薬、抗うつ薬、抗精神病薬、ベンゾジアゼピン系薬剤、プロトンポンプ阻害薬、制吐剤、下剤などの既知の有害事象を予防する薬など、さまざまな薬理学的選択肢があります。特に、ベンゾジアゼピン系の鎮静剤や、薬物の誤用や乱用が多いことから「オピオイド危機」と呼ばれているオピオイドの有害性など、大きなリスクを伴います。このような多臓器不全とポリファーマシーのシナリオでは、処方カスケードが興味深い役割を果たすかもしれません。

 

疼痛治療に最も頻繁に関与するカスケードと薬物療法の処方:レビュー

Prescribing cascades and medications most frequently involved in pain therapy: a review

Eur Rev Med Pharmacol Sci. 2021 Jan;25(2):1034-1041. doi: 10.26355/eurrev_202101_24673.

 

目的:人口の高齢化と慢性的な痛みは、先進国の局所的な問題を表しています。これらはしばしば多剤併用、不適切な投薬、および有害な薬物イベントに変換され、これらの後者を​​新しい病状と誤解して、処方カスケードと呼ばれるものを生成するリスクがあります。カスケードを処方すると、新薬の処方につながる可能性があり、個人や医療システムに新たな潜在的な副作用や不必要なコストを引き起こす可能性があります。したがって、私たちのレビューの目的は、臨床医が薬物関連の臨床転帰を最小限に抑えるのを助けるために、疼痛治療薬を含む多くの処方カスケードの例を収集することでした。

材料と方法: MEDLINEデータベースでPubMedを検索します。これには、31の研究と80の異なる処方カスケードの例が含まれます。

結果:処方された最初の薬物療法を最も一般的にもたらす薬物療法は、精神鎮痛薬によって表されました(27 / 80、33.7%)。薬物の有害事象の中で、新しい病状と誤解された最も一般的なものは、振戦と錐体外路症状によって表されました(20 / 80、25%)。薬物有害事象に対して処方された新薬療法に関して、処方された新薬療法を最も一般的にもたらす治療サブグループは、精神弛緩薬(12 / 80、15%)および抗パーキンソン薬(12 / 80、15%)によって表された。 )。

結論:この研究は、鎮痛薬のカスケードを処方するいくつかの例のリストを提供し、それらがすべての患者集団に関与する可能性のある潜在的な危険性の認識を高めるために不可欠です。臨床医と臨床薬理学者の間の協力は、より適切な多剤併用計画につながる可能性があります。

 

80の処方カスケードの例

https://www.europeanreview.org/wp/wp-content/uploads/Supplementary-Table-I-10136.pdf

 

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鎮痛薬に対する80もの処方パターンからまとめた表です。

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鎮痛薬を処方する際には,振戦,錐体外路症状,高血圧,関節炎,めまいに注意し,それに対して安易な対症療法をしないことが重要です。

 

もう1本紹介したい論文はこちらです

Identifying key prescribing cascades in older people (iKASCADE): a transnational initiative on drug safety through a sex and gender lens-rationale and design

Shelley A Sternberg et al . Eur Geriatr Med . 2021 Jun;12(3):475-483. doi: 10.1007/s41999-021-00480-w. Epub 2021 Apr 9.

 

目的: 性別および性別のレンズを通して処方カスケードに取り組むことにより、高齢者の医薬品の安全性を向上させることを目的とする国際コンソーシアム(iKASCADE)の目的、方法、および予想される影響について説明します。

方法: 高齢者に影響を与える処方カスケードの包括的で国際的に関連する目録を作成するために、コンソーシアムは、高齢者の薬物療法の処方と管理の国際的な専門家が臨床的重要性に関して処方カスケードのリストをランク付けする修正デルファイ手順を作成しました。高齢者の管理データと臨床データを使用して、国際的に、病院、介護、地域社会での性別によるカスケードの処方頻度を評価します。最後に、半構造化面接法と現実的な国別のビネットを使用し、それぞれに性差が特定された処方カスケードを組み込んで、社会的に構築された性別の役割が処方カスケードの経験、提示、管理にどのように貢献するかを探ります。

結果: コンソーシアムは、定量的および定性的な結果を統合して、学内外の知識ユーザーを対象とした、処方カスケードの特定と防止における性別の側面の統合の重要性を高めるように設計されたポジションペーパーと製品を作成します。

結論: 調査結果は、薬物の有害事象が年配の女性と男性の間でどのように異なるかについての理解を深め、処方カスケードの頻度と影響を減らすために調整された知識翻訳製品の開発と普及に情報を提供します。

 
“Identifying Key Prescribing Cascades in Older People (iKASCADE)” 
iKASCADEというコンソーシアムがあるんですね。(全然,略になっていない)
そこで処方カスケードのリストを修正デルファイ法でランク付けした研究のようです。
処方パターンが男女でどう異なるかも半構造化面接法で調べられています。
 
どうやらこの論文によると,女性の方が有害事象を経験することが多く,薬が有効でなかったことも多いというのです。
Watson S, Caster O, Rochon PA, den Ruijter H (2019) Reported adverse drug reactions in women and men: aggregated evidence from globally collected individual case reports during half a century. EClinicalMedicine 17:100188.
Alturki A, Alaama T, Alomran Y, Al-Jedai A, Almudaiheem H, Watfa G (2020) Potentially inappropriate medications in older patients based on Beers criteria: a cross-sectional study of a family medicine practice in Saudi Arabia. BJGP Open
Rydberg DM, Mejyr S, Loikas D, Schenck-Gustafsson K, von Euler M, Malmström RE (2018) Sex differences in spontaneous reports on adverse drug events for common antihypertensive drugs. Eur J Clin Pharmacol 74(9):1165–1173.
Sørup FKH, Eriksson R, Westergaard D, Hallas J, Brunak S, Ejdrup AS (2020) Sex differences in text-mined possible adverse drug events associated with drugs for psychosis. J Psychopharmacol (Oxf Engl) 34(5):532–539.
胃容量や体のサイズの違いなどが関係しているのではないかという考察のようです。
また,女性の方が処方薬について真面目に飲まれるという意見もあるようです。
今まで全く考えたことがなかったですが,そういう視点はたしかに面白いですね。
 
このプロジェクトの目的は以下の3つだそうです。
1高齢者に影響を与える処方カスケードの包括的で国際的に関連性のある目録を作成する。
2臨床および管理データを使用して、ケアの3つの主要な設定(病院、介護施設、およびコミュニティ)で、性別および国ごとにカスケードを処方する頻度を調べて比較する。
3性別と性別が、処方カスケードの開発と影響にどのように関連しているかを調べる(定量的データと定性的データの両方を使用)。
図1
 
分析のコンポーネントも新鮮です。

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この研究に必要な処方カスケードが私の知りたかったところです
 
 

私たちのチームは、大規模な行政データベースを使って処方カスケードを特定する専門知識を持っています。その証拠に、次のような出版物があります:失禁に対するコリンエステラーゼ阻害剤[21]ナトリウムグルコースコトランスポーター2阻害剤と尿路感染症[38]カルシウム拮抗剤と利尿剤[39]。これらすべての研究において、処方カスケードにつながる薬剤Aと薬剤Bの処方の関連性を実証することができました。因果関係を特定することはできません。治療的な処方カスケード(薬剤Aの有益性が、その後の副作用や薬剤Bの開始による懸念を上回ると考えられるもの)を誤って問題があると分類するリスクは、調査された各特定の処方カスケードに適した方法で管理されます。例えば、カルシウム拮抗薬(CCB)が浮腫とそれに続く利尿薬の処方につながるという研究において、Savageら[39]は、心不全の患者が、高血圧の治療のみではなく、心房細動や頻脈性不整脈のレートコントロールのために特定のCCB(ベラパミルやジルチアゼムなど)を処方され、CCBによる負の強心作用のためにその後の利尿薬の処方につながるという、潜在的な治療カスケードを特定した。このような「治療的」カスケードは、これらの人々をコホートから除外することで管理された。

 

SGLT2で尿路感染症とか特定のCCBで心不全悪化というカスケードも興味深いですね。

 

このコンソーシアムの続報に期待しつつ,勉強を終えてみます。

(幸いにも2時間でこのブログが完成しました。よく頑張りました。)