南砺の病院家庭医が勉強記録を始めました。An archive of medical articles summarized by a family physician from Nanto Municipal Hospital.

An archive of medical articles summarized by a family physician from Nanto Municipal Hospital.富山県にある総合病院で働く病院家庭医です。勉強の記録を少しずつ書いていきます。

入院中の子供のケアを改善する6つの実用的な方法(小児病院医学の最新情報レビュー)

REVIEWS

www.journalofhospitalmedicine.com

 

久しぶりに家庭医の論文ではなくJournal of Hospital Medicineからお送りします。

 

小児病院医学の最新情報:入院中の子供のケアを改善する6つの実用的な方法

本日は医学的知識だけのUpdateなので気楽にご覧下さい。

 

今回の論文は2018年に発表されたもっとも影響力のある6つの論文の紹介です。

 

2018年1月から12月までに発表された病院医学、小児科、救急医療、医学教育の18の英語雑誌(Table1)から、新規性、研究デザイン、結果の重要性、地域病院と学術病院の両方の観点からこれまでのプラクティスを変える可能性があるものが選ばれました13296論文をレビューし、10論文まで絞られました。その中の6論文が影響力が高いと判断されました。

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6つの研究とは?

 

 

①Interventions to Reduce Over-Utilized Tests and Treatments in Bronchiolitis. Tyler A, et al. Pediatrics. 2018;141(6):e20170485. 

細気管支炎の過剰検査と過剰治療を減らすための介入

www.ncbi.nlm.nih.gov

 

米国小児科学会(AAP)の2014年小児細気管支炎診療ガイドライン(CPG)ができたにもかかわらず推奨されていない検査や治療がなされています。

この研究は品質改善プロジェクトです。胸部Xp(CXR)を20%以下に、ウイルス検査(RVT)を15%以下に、気管支拡張薬の使用を20%以下に減らすのが目的です。

小児救急のある小児専門病院での研究です。細気管支炎の診断を受けてICU入院の必要がない1~23カ月の患者を2013年~2014年のシーズンのみで介入前データを集めました。介入期間は2015年12月から2016年4月までです。介入方法はCXRとRVTと気管支拡張薬のオーダー使用率をリアルタイムに表示できるデータダッシュボードを作成しました。

結果は

CXRは39.5%→27.2%

RVTは31.9%→26.3%

気管支拡張薬34.2%→21.5%

の統計学的に有意な減少でした。

再入院率に差はなく、入院期間も差はありませんでした。

 

②Development and Validation of a Calculator for Estimating the Probability of Urinary Tract Infection in Young Febrile Children. Shaikh N, et al. JAMA Pediatrics. 2018;172(6):550-556.

発熱性小児における尿路感染の確率を推定するための予測ツールの開発と検証

www.ncbi.nlm.nih.gov

 

救急部門にくる2歳未満の尿路感染症(UTI)の有病率は7%です。これは臨床所見に基づいてUTIの検査前確率を推定し、検査結果に基づいてUTIの試験後確率を推定するUTICalcの開発についての研究です。

 

2007年1月~2013年4月までに単一施設の救急部門に発熱で受診し、尿検査を受けた2-24カ月の542人の子供を後ろ向き研究です。次にUTIのない無作為に選択された子供と、尿路感染患者を照合して、トレーニングデータベースを作成しました。

 

臨床モデルのAUCは0.8(感度95%特異度35%)でしたが、他の4つのモデルは0.97~0.98(感度93~96%特異度91~93%)でした。2015年7月~2016年12月に発熱で受診した子供のコホート(UTIの有病率は7.8%)を使用してモデルを検証しました。最後に1000人の仮想コホートを用いてUTICalcが8.1%に尿検査を減らし、UTIのガイドラインをAAPのガイドラインに従うよりも3%→0%に減らしました。

これ面白いですね。

uticalc.pitt.edu

 

③Lost Earnings and Nonmedical Expenses of Pediatric Hospitalizations. Chang LV, et al. Pediatrics. 2018;142(3):e20180195.

小児入院の失った収入と非医療費

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入院医療費だけでも家族への負担は多いですが、それだけでなく、交通費、駐車場代、食事、仕事を休んだことによる収入の損失などの非医療費を考慮する必要があります。退院後のフォローアップや退院支持の遵守に課題をもたらす可能性があり、病院の再入院に繋がります。

この研究はHospital-to-Home Outcomes Study(H2O)に参加した独立した小児病院の分析を行ないました。

 

1372人の子供で、滞在期間が13日以上の子供は除外されました。親との直接面談が実施され、親の教育、雇用状況、病気休暇の柔軟性、財政的・社会的困難に関する質問が含まれました。推定された非医療費に基づいて総入院費(TCB)が計算されました。総入院費には賃金損失と経費が含まれます。入院期間の長さに基づく1日の費用負担(DCB)および1日の収入(DCBi)の割合としての1日の費用負担が計算されました。TCBの中央値は112.8ドル、DCBの中央値は51.4ドルでした。DCBiの中央値は、1日の収入が45%減少したことを示していました。貧困層はDCBiの中央値が高値でした。3つ以上の経済的困難が報告された場合は、世帯収入の86%が失われました。

入院中、入院後の両方で家族を支援するシステムが必要です。

 

④A Prescription for Note Bloat: An Effective Progress Note Template. Kahn D, et al. Journal of Hospital Medicine. 2018;13(6):378-382.

電子カルテのノート膨張のための処方箋:効果的なプログレスノートテンプレートについて
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電子カルテは文章化の速度と読みさす差を改善させましたが、重要でない情報もたくさん入りがちであり、ノートの膨張と呼ばれています。品質改善研究で、教訓的指導、ノートの質、長さ、適時性に関する電子進捗ノートテンプレートでバンドルされた介入を調査しました。

 

介入前、介入後のノートは、ノートの一般的な印象、検証済みの医師文書の品質測定(PDQI-9)、大学院医学教育コンピテンシーノートのチェックリストに基づくアンケートツールで評価しました。200件のノートを分析すると、すべてのPDQI-9の項目と13のノートコンピテンシーアンケートで6項目の有意な改善がみられました。ノートの行数は25%減少し、平均完了時間は1時間15分早くなりました。

 

盲検化されていないので、バイアスを最小限にするために評価者を複数にしています。テンプレートは研修医の70%が使用していましたが、テンプレートの使用が少ないにもかかわらず改善している施設もありました。研修医の成熟による影響もあるかもしれません。

 

⑤Time to Pathogen Detection for Non-Ill Versus Ill-Appearing Infants ≤60 Days Old with Bacteremia and Meningitis. Aronson PL, et al. Hospital Pediatrics 2018;8 (7):379-384.

菌血症と髄膜炎を患っている60日以下の非病気の乳児と病気の乳児の病原体検出までの時間

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 生後60日以下の熱のある乳児の評価には、血液検査と脳脊髄液(CSF)がされ、多くの乳児は培養結果を待っている間に入院されます。以前の研究では病原体の91%が24時間以内に血液培養で特定でき、96%が36時間以内に特定できることが知られています。存在する病原体の81%が36時間以内にCSF培養で検出されました。

 

本研究は5年間に10の小児病院の救急部門での大規模他施設共同研究です。菌血症と細菌性髄膜炎、病気でない乳児と病気の乳児で検出時間が異なるか調べました。病気の有無は、13のキーワードを調べる身体所見のカルテレビューによって決定されました。

 

合計381人の乳児のうち、病原体の88%は24時間以内に血液培養で検出され、95%は36時間以内に検出されました。CSFでは89%が24時間以内に検出され、95%g36時間以内に検出されました。

 

全体が何人なのか記載はありませんでした。非病気の乳児の15%も24時間後に血培陽性になっていました。

 

生後60日以下の乳児のほとんどの血液、CSF培養では24時間までに結果が得られ、95%が36時間以内に検出できることが分かりました。 外観が悪い熱の乳児を24時間で帰宅させると菌血症の15%を逃す可能性もありますが、そもそもの罹患率の低さも考慮すべきです。

 

⑥The High-Value Care Rounding Tool: Development and Validity Evidence. McDaniel CE, et al. Academic Medicine. 2018;93(2):199-206.

ハイバリューケアの包括ツール:開発と有効性のエビデンス

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患者にHigh value care(HVC)を提供することは、医師にも医療システムに重要です。研修医にHVCの実践を教える医師は、コスト意識の高いケアを増やす効果的な方法かもしれませんが、HVCを教えるためのベストプラクティスは不明のままです。このギャップを埋めるために、観察可能なHVC指導の頻度と内容を測定するツールを開発し、小児入院患者設定内でのツールの妥当性を評価しました。

 

HVC包括ツールは、構想から検証までのいくつかのフェーズを通じて開発されました。修正Delphi法を使用してHVC分野の専門家、米国の様々な専門分野、経験レベル、地理的領域からの意見を合意形成プロセスで11項目のHVCツールを構築しました。

 

148人の診療の観察に基づき、内的妥当性と評価者の信頼性が確立されました。このプロセスから、品質、コスト、患者の領域を含む、最終的な10項目のHVC包括ツールが登場しました。不必要な検査を行わないことに対する肯定的なフィードバックの提供と、患者が入院を続ける必要があるのか、退院基準を満たしているのかを話し合い、家族の価値観と目標に合わせてケアプランをカスタマイズします。再評価時には品質と患者の価値領域で評価の意見の相違はなく、領域内での意見の相違は1つだけでした。

 

単一の小児科で検証されたため、ツールの一般化は確立されていませんし、外科のメンバーが含まれていないことも注意です。ですが、価値の高いケアがベッドサイドで議論されているかを評価できるという意味で革新的です。

 

まとめ

①検査実施率が表示されると細気管支炎の過剰検査と過剰治療を減らせる。

②UTI Calculatorが小児の尿路感染診断と除外に有効

③小児入院は入院費だけでなく親の収入損失も気にしましょう

④電子カルテが長くならないようにする取り組み

⑤血液、CSF培養では24時間までに結果が得られ、95%が36時間以内に検出できる

⑥ハイバリューケア(HVC)包括ツール:小児領域では開発と有効性あり

High Value Careの評価は他の診療科でも使用できないかな。

非常に興味深いです。

 

以上、2018年の小児病院診療における必読6論文を紹介しました。

興味のある分野は精読をお勧めします。

 

最後まで読んでいただきありがとうございました。