南砺の病院家庭医が勉強記録を始めました。An archive of medical articles summarized by a family physician from Nanto Municipal Hospital.

An archive of medical articles summarized by a family physician from Nanto Municipal Hospital.富山県にある総合病院で働く病院家庭医です。勉強の記録を少しずつ書いていきます。

看護師と医師が一緒に回診をした方がよい6つの理由 患者さんのベッドサイドで医師と看護師が一緒に過ごす時間はどれぐらいなのか?

Original Research

How Much Time are Physicians and Nurses Spending Together at the Patient Bedside? 

J. Hosp. Med. 2019 August;14(8):468-473  PMID:31112496

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今日は何を読もうかなとJHMを斜め読みしていましたが、このタイトルをうっかり勘違いして、「医師と看護師がベッドでどれだけの時間を過ごすのか」と読んでしまい、こんな研究がJHMにアクセプトされるのかとびっくりしましたが、落ち着いて訳すと「患者さんのベッドサイドで医師と看護師が一緒に過ごす時間はどれぐらいなのか?」という研究のようです。そりゃそうだと思いつつ、そう思った方は世界に10人ぐらいはいるはずと信じています。でも新規性がよくわからん。なんとなく看護師と医師のコミュニケーション研究ありそうですけどね。なんだか読みたくなってまいりました。

(そして、気が付けば力作ができてしまっていました。)

 

ところで、皆さんは看護師さんと回診していますか?私は看護師から状態報告を受けたときには、一緒に来てもらうようにしています。その方が呼んだ方も安心でしょうし、患者さんと看護師の信頼関係を築くのにも有効ではないかと思います。ですが、普通の回診は一緒に回るわけではないので、意外と少ないのではないかと予想しました。あとは採血採れないと言われた時ぐらいでしょうか?するとそれほど長くないだろう…5分以内?でも看護師さんやリハビリスタッフに雑談がてら患者さんの事を聞くと本当にいろいろなことを教えてくださいますので、本当はもっとたくさんお話をしなければならないのでしょうね。では読み進めていきましょう。

 

本研究はスタンフォード大での研究です。

背景:医師と看護師でベッドサイド回診をすることは、患者とスタッフに多くの利点があります。しかし、医師と看護師(MD-RN)が同時に患者のベッドサイドにいる時間についての正確な定量的なデータは不足しています。

目的:本研究は、看護師と医師がベッドサイドで一緒に回診する頻度と、その頻度に影響する要因を調べることが目的です。

デザイン:ウェアラブル無線周波数識別(Radio Frequency Identification:RFID)による技術によるタイムモーションデータで生成された前向き観察研究です。

設定:単一施設の学術病院。

測定:医師のラウンドの長さ、ベッドサイドで看護師が同時にいるラウンドの頻度、MD-RNオーバーラップの長さは、病棟、曜日、病室とナースステーション間の距離によって測定・分析されました。

結果:90日間連続で測定し、739の医師の回診イベントが記録されました。これらのうち、267件は個室でした。MD-RN重複の頻度は30.0%で、調査した3つの病棟に差はありませんでした。全体としてすべての医師のラウンドの平均時間は7.31±0.58分でしたが、看護師同席の場合は医師のみよりも長く続きました(9.56分 vs 5.68分 P<0.5)回診の長さや平日・週末のMD-RN重複の頻度に違いはありませんでしたナースステーションから遠く離れた病室ではMD-RN重複の可能性が低かったです。(ピアソンのR値 -0.67, P<0.05)

結論:RFIDによる技術は正確で自動化されたタイムモーションのデータを提供し、看護師と医師の活動をキャプチャします。本施設ではラウンドの30.0%に看護師が同席しており、ベッドサイドの学術的ラウンドへの潜在的な障壁を強調しています。

 

この研究は簡単に言うと、そもそも看護師と医師がコミュニケーションをとるといいとはわかっているが、実際にどう測定したらいいのか分からん。そうだ看護師と医師にRFIDタグをくっつけたら、本当にコミュニケーションをとっているのかの行動を正確に測定できるのではないかというところが新しいのかもしれません。

 

少し余談

位置情報を用いて調べた研究は以前にもあります

www.ncbi.nlm.nih.gov

また、医師と看護師のコミュニケーションがあると特にレジデントと看護師の理解が深まるという研究もありました。

www.ncbi.nlm.nih.gov

RFIDを用いての研究手法はヘルスケア領域で2017年に紹介されています。輸血の品質管理の論文や、動物の行動科学の領域で使われているようです。人でも運動領域や行動科学で多職種の行動範囲の研究などもあるようですが、やはり看護師と医師がコミュニケーションを図っているのかいるのかをICタグで研究しようとしたというところが新規性高いのかもしれません。

www.ncbi.nlm.nih.gov

 

RFIDをご存じない方に参考資料を提供しますURL: https://www.intage.co.jp/gallery/rfid/(2019.8.9現在)

RFIDとは、「タグ」と「読み取り装置」の間で電波の一種である電磁波を交信させて、情報を読み取ったり情報を書き換えたりするシステムです。

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利点は

  1. RFタグとの距離が遠くても読み取りが可能
  2. 複数のRFタグの一括読み取りが可能
  3. RFタグが箱の中にはいったままでも読み取り可能
  4. タグ表面が汚れていても読み取り可能

デメリットは

  1. コストがかかる
  2. 金属が通信に影響を与える
  3. タグ同士が重なると読み込めなかったり認識スピードが落ちたりすることがある

のようです。

動画をみて、ピンとくる方も多いのではないでしょうか。あれを臨床研究に使ったわけです。


NRF 2019: Fujitsu RFID Gate Self-Checkout

 

読むべきポイントが分かったところで、方法論を中心にまとめてみたいと思います。

 

まずは医師と看護師がコミュニケーションをとる利点です

①患者の転帰を改善します。(Knaus, 1986)

②患者満足度が向上します。(Larrabee, 2004)

③看護師の満足度も上がります。(Rosenstein, 2002)

④チームワークも向上します。(Ratelle, 2016)

⑤ケアの改善にもなります。(Rimmerman, 2013)

⑥在院日数や医療費削減になります(Curley, 1998)

もうこれだけでも看護師さんと回診したくなりますね。それが実際できているのか。

 

これまではフォーカスグループやアンケートの定性的方法しかされていなかった。これでは主観的であり、定量的研究も観察者バイアスが働きがちであり、手動観察法には測定日数や部屋の配置で限界がありました

そこでRFIDなのですが、同様の研究はあるものの、医師と看護師を同時に正確に定量的に行動を観察した研究はこれまでなかったようです。

 

方法:単一の学術病院で行われました。データは3つの内科外科急性期病棟から集められました。ナースステーションを中心にして、19個の個室または複数部屋がありレイアウトが同じでした。

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医師(研修医や医学生もいます)と看護師はヒル・ロム・ホールディングスのPFIDタグが付いた服を着てもらうようにし、患者に受信機をつけたようです。医師の参加は患者には開示されていませんでした。看護師と話すように奨励したが強制はしなかったとあります(でもこれって結構なバイアスではないか?)実際には看護師と医師が一緒になる時間や患者のケア内容について毎日のルーチンはそれほど変化してなかったようです。

 

データ収集は、夜間や週末など90日連続、3つの病棟で収集しました。患者に受信機をつけて時間的・空間的データをリアルタイム取集しました。 24時間すべての看護師や医師の活動がスプレッドシートに記載されました。

 

回診の定義は「医師が10秒以上の患者のところにいた」とし、短いスパンで部屋を出たものもまとめられました。看護師と医師が同時に10秒以上患者の部屋にいた場合を一緒にいたと定義しました。間違えて看護助手、秘書が着たもの、廊下で収集したデータは除外されました。

 

結果です。 

90日間の観察期間で、739件の回診が1日平均8.2回ありました。平均時間は7.31±0.27分でした。個室での267回のイベントを調べたところ6.93±0.27分で平均6.93±0.27分でした。(図1)

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 3つの個室で調べたところ、6.40±0.73分、7.48±0.94、7.02±0.54分であり統計学的に有意差なしでした。

MD-RNの同室の頻度は、267件中80件(30.0%)でした。先述した3つの個室では37.0%(30/81)、28.0%(14/50)、26.5%(36/135)でした(P>0.05)

それぞれの時間は34.3±0.38、3.00±0.70、3.69±0.92分でした。(P>0.05) 同室の平均時間は3.48±0.45分でした。

 

週で長さが変わるのかですが、医師だけでは平日が7.26±0.32分で、休日が7.47±0.52分で(P>0.05) 大きく変わりませんでした(図2a) 看護師と医師同室でも平日土日で差はありませんでした。565回の平日の医師回診のなかで238は看護師同席(42.1%)で、173の週末回診は73が看護師同席でした(42.2) (図2b)

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回診の長さとナースの有無の影響 

医師のみ平均5.68±0.24分

看護師同席だと9.56±0.53分(図3)

統計学的に有意差ありでした(P<0.001)

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病室の場所と医師看護師同室の関連性

病室のレイアウトは(図4a)のような19病室で真ん中にナースステーションがあるまっすぐに並んだレイアウトです。部屋の距離に応じてランク付けしましたが、距離が離れたからといって、病棟ごとでは看護師が同席する割合に差はありませんでしたが、すべてを合算すると、統計学的に負のピアソン相関がある傾向がありました(R=-0.670, P<0.05)

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ディスカッション

RFIDベースで医師看護師の重複を正確に調べた研究は初めてでした。

・これまでの滞在時間研究については本文をご参照ください。

新規性のあるデータは、平日と週末で差が出なかったことでした。これまでは週末の方が有意に短かったようですが、平日でも休みでも回診の時間は差はないという事が示唆されました。

 

結論:RFID技術は医師・看護師の回診を正確に定量的に客観的に測定できることがわかりました。病院の指標にも使える可能性があり、改善に取り組むきっかけになるかもしれません。

 

まとめ

・RFIDでの測定は今後の品質研究のスタンダードになるかもしれない。

・土日だろうが平日だろうが、看護師が一緒にいてくれる時間に差はない。

・ただし、病室から離れると、一緒にいてくれる可能性は低くなりやすい。(ですが、因果関係があるわけではないことに注意です。重症度は病室の遠さとは関係がないようでした。)

・ただ、医師のみだと回診時間は平均5.68±0.24分だが、看護師同席だと9.56±0.53分と有意に長いので、結果的にコミュニケーションが発生しているのかもしれません。

・だいたい3~4割は同室してくれているようです。皆さんのところではどうでしょうか?

 

そして最後にもう一度確認

医師と看護師がコミュニケーションをとる利点

①患者の転帰を改善します。(Knaus, 1986)

②患者満足度が向上します。(Larrabee, 2004)

③看護師の満足度も上がります。(Rosenstein, 2002)

④チームワークも向上します。(Ratelle, 2016)

⑤ケアの改善にもなります。(Rimmerman, 2013)

⑥在院日数や医療費削減になります(Curley, 1998)

 

看護師さんとの回診は非常にありがたいので、来てくれたら感謝しましょう。

 

最後まで読んでいただきありがとうございました。