南砺の病院家庭医が勉強記録を始めました。An archive of medical articles summarized by a family physician from Nanto Municipal Hospital.

An archive of medical articles summarized by a family physician from Nanto Municipal Hospital.富山県にある総合病院で働く病院家庭医です。勉強の記録を少しずつ書いていきます。

不眠症の認知行動療法:睡眠アウトカムのシステマティックレビュー

Cognitive behavioural treatment for insomnia in primary care: a systematic review of sleep outcomes

Judith R DavidsonCiara Dickson and Han Han
最近、外来で不眠症の患者さんに認知行動療法をする機会が増えてきたので、BJGPの不眠症に対する認知行動療法のレビューを読んでみようと思います。実は地元の医師会の飲み会後なので、結構眠たいですが、習慣とは恐ろしく、ブログを書かないと寝てはいけない気がしています。まぁよりによって、不眠治療のレビューを眠い目こすって書くというのもシュールですね。
 
背景
診療ガイドラインでは、不眠症には認知行動療法(Cognitive behavioural treatment fot insomnia CBT-I)を最初に選択することを推奨されています。睡眠導入剤はCBT-Iが失敗したときにのみ考慮されます。研究ではCBT-Iの有効性のエビデンスはあるが、プライマリケアにおける効果のシステマティックレビューが不足しています。
 
目的
プライマリケアでのCBT-Iによる睡眠効果のレビューを行います。
 
設定
世界中で出版された論文のシステマティックレビューです。
 
方法
1987年~2018年までのMEDLINE, PsyclNFO, EMBASE, CINAHLでプライマリケア設定でCBT-Iの使用された論文を検索しました。2人の研究者が独立して評価し、含まれた研究データを抽出した。Insomnia Severity indexと睡眠日記の結果についてCohen'dが使用されました。
 
結果
13研究が含まれました。CBT-Iは6の論文で大きな正の効果が見られました。改善点は治療後3-12カ月、維持されました。従来のCBT-Iから方向転換したフォーマットやコンテンツによる介入研究は決定的ではありませんでした。本来はCBT-Iは看護師、心理学者、ナースプラクティショナー、ソーシャルワーカー、カウンセラーにより提供されますが、GPによるCBT-Iの研究はわずか3研究でした。6研究では、睡眠薬からの退薬についてのアドバイスも含まれていました。
 
結論
本結果はプライマリケアにおける多面的なCBT-Iの有効性を支持しました。さらなる研究では、標準的な睡眠測定を使用し、昼間の症状を調べ、CBT-Iと共に提供される睡眠薬の退薬の効果を測定する必要があります。
 
CBTのコンポーネントについて(外来で実践するとよいです)
①刺激制御(stimulus control) 睡眠とベッドを関連付けます。目が覚めているならベッドから離れましょう。
②睡眠制限(sleep restriction) 睡眠の密度を高めるためにベッドにいる時間を減らしましょう
③認知療法(cognitive therapy) 睡眠の損失に関する考えについて警告するよう試みて
④弛緩訓練(relaxation training) リラックスしましょう
これら単独でなく、全部すること(full CBT-I)が効果的です。
 
検索用語は

f:id:MOura:20190807233610p:plain

で、対象となる言語は、英語、フランス語で発表されたものでした。レビュアーは独立した2名でした。
 
その中の条件は
①CBT-Iの効果に関するオリジナルの研究であること(レビュー除く、プロトコル、推奨、学会抄録、臨床アドバイスの論文)
②一般的なプライマリケア集団に基づいている
③少なくとも18歳以上が10名以上対象
④睡眠結果の定量的尺度を持っている
ことでした
 
④の睡眠の定量的尺度は
Insomnia Severity Index(ISI)スコアあるいは少なくとも下記のうち1つでも睡眠日記に記載されていることでした。ISIはプライマリケアでも検証されている自己記述型尺度です。
・入眠時間の遅延(sleep onset latency SOL)
・入眠後に目を覚ます(wake after sleep onset WASO)
・総睡眠時間(total sleep time TST)
・睡眠効果(sleep efficiency SE)
これらの指標は不眠症の問診でも聞かれますね。 
 
結果

f:id:MOura:20190807231957p:plain

155の検索同定された論文
タイトル関係ないのが78、記事関係ないのが57
20を慎重にレビューし、測定結果が欠けていないものが13。
 
RCTの論文は10本で、2本はケースシリーズでした。
平均年齢は50歳代の女性が多かったです。

f:id:MOura:20190807232304j:plain

4つの結果で、入眠時間の遅延(SOL)の効果は大きく9-30分を短縮、入眠後に目を覚ます(WASO)は22-36分の平均減少でした。総睡眠時間(TST)と睡眠効果(SE)は効果が少なかった。2つの論文でISIは対照群0-1点に対してCBT-I群は6-8点でした。
 睡眠衛生と比較して睡眠制限プロトコルの影響を調べた研究では、SOL,SE,TSTは差はなく、ISIはわずかな低下でした。
 
下表はプライマリケアにおける高齢患者のCBT-Iのランダム化比較試験4件の研究です。
f:id:MOura:20190807232317j:plain
 

2/3が女性で、平均年齢は60~70歳でした。

変形性膝関節症を持っている方も目立ちます。

WASO,TST,SEの大きな効果がありました。

具体的には入眠時間を23~25分早めて、24~37分入眠後の覚醒を遅らせるという結果が得られました。

 

2つのケースコントロールスタディーで睡眠薬を減らすようアドバイスをされました。15人の患者に刺激制御療法を行い、入眠時間SOLを44分短縮できました。

 

睡眠薬への介入について

13研究のうち6本において睡眠薬の段階的減少のアドバイスがありました。

例としては冊子で睡眠薬の一般的情報を提供、または催眠薬退薬音補助プログラムを提供しました。催眠薬は4週間以内に減らせました。

 

まとめ
CBTのやり方が大きく異なっていなくて安心しましたが
①刺激制御(stimulus control) ②睡眠制限(sleep restriction)
③認知療法(cognitive therapy)④弛緩訓練(relaxation training)
をすべてしっかりすることに意味があるというのは初めて知りました。
 
・CBTは具体的には入眠時間を23~25分早めて、24~37分入眠後の覚醒を遅らせるという結果が得られました。睡眠の改善も3-12カ月持続しています。具体的数字で説明できると話を聞いてくれるかもしれませんし、過剰な期待もかからないかもしれません。
・冊子による睡眠薬減薬の取り組みは効果があるようですね。ネット上に何かないかな。今度探してみよう。
・ただし、この結果は自記式のアンケートです。実際の睡眠の質を測定する必要があるのかもしれません。
・ 出版バイアスも排除できていないのと、対象者が高齢者なのでCBT-Iが全般的に有効なのかは検証が必要です。