南砺の病院家庭医が勉強記録を始めました。An archive of medical articles summarized by a family physician from Nanto Municipal Hospital.

An archive of medical articles summarized by a family physician from Nanto Municipal Hospital.富山県にある総合病院で働く病院家庭医です。勉強の記録を少しずつ書いていきます。

英国のプライマリケアにおける炎症マーカー検査の付加価値とカスケード効果:臨床診療研究データリンクからのコホート研究

 Added value and cascade effects of inflammatory marker tests in UK primary care: a cohort study from the Clinical Practice Research Datalink.

Jessica Watson, Chris Salisbury, Penny Whiting, Jonathan Banks, Yvette
Pyne and Willie Hamilton
British Journal of General Practice 2019; 69 (684): e470-e478.

英国のプライマリケアにおける炎症マーカー検査の付加価値とカスケード効果:臨床診療研究データリンクからのコホート研究

 

前回紹介した論文は

Use of multiple inflammatory marker tests in primary care: using Clinical Practice Research Datalink to evaluate accuracy.

Jessica Watson, Hayley E Jones, Jonathan Banks, Penny Whiting, Chris Salisbury and Willie Hamilton

British Journal of General Practice 2019; 69 (684): e462-e469. 

moura.hateblo.jp

でしたが、この論文を紹介した後に、亀田ファミリークリニック館山の岡田唯男先生から、既に類似論文を含めてジャーナルクラブで取り上げていらっしゃると資料をいただいてしまいました。既出の記事を訳するのは無駄な労力と思う反面、これをUPしなければ一流の家庭医と同じ興味を持てていた事には気づかなかったでしょうし、より深い洞察を得られなったのではないかと思い、今は感激しています。

岡田先生の許可をいただき、そんな論文を読み込んでいこうと思います。

 

背景:炎症マーカー(CRP、ESR、PV)は2つの機能があります。1つは炎症性疾患(感染症、自己免疫疾患、癌)の診断のため、2つ目は疾患の進行や治療反応をモニターするためです。実際には骨髄腫・PMR・肺炎の第一検査として使用されています。しかし、3つ目の用途があります。それは深刻な疾患を除外し患者とGPの安心を提供するための非特異的テストです。たとえば慢性疲労症候群、認知症、IBSなどで他の疾患を除外するための非特異的なマーカーとしての使用が増えてきていますが、そのエビデンスは明らかではありません。また、二次医療機関からは炎症マーカーのエビデンスが多く、特定の疾患を想定したものばかりで、多くの疾患がありうる状況での非特異的症状だけで検査がされる状況では役に立ちません。

 

目的:プライマリケアにおける炎症マーカーによる追加検査やGPの予約や紹介に関して検査のカスケード効果すなわち偽陽性で不安増大することで更なる検査を誘発し、偽陰性は誤った安心と診断遅延につながることがどのぐらい発生するか測定します。

 

方法:Clinical Practice Research Datalink(CPRD)の英国プライマリケアデータを使用して、2014年に炎症マーカー検査(CRP、ESR、PV)を受けた16万人の患者および年齢、性別、および診療をそろえた未実施群4万人を合わせた前向きコホート研究です。主要評価項目は感染症、自己免疫疾患、および癌を含む関連疾患の発生率、プロセスアウトカムはGPの再受診、追加の血液検査、紹介です。

 

炎症反応はCRPは6.8mg/L(日本は0.68mg/dL)、PVは1.72mPa/s、ESRは性別、年齢によって層別化されました。分析方法は、検査を受けた患者と受けていない患者と炎症マーカーが上昇した、正常であった患者を測定しました。ROC曲線、感度、特異度、PPV、NPVNPを計算された。

 

結果:

1つ以上の炎症マーカー検査を受けた136961人が登録されました。CRPは71.0%、ESRは58.0%。PVは10.1%、未試験は37539名でした。コホートのうち27.8%が1つ以上の炎症マーカーを惹起しました。炎症マーカー上昇に続く疾患発生率は15%(感染症6.3%、自己免疫疾患5.6%、癌3.7%)でした。

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炎症マーカーが上昇した38010人のうち、疾患発生率は持続的に炎症マーカーが上昇した人の間で最も高く、炎症マーカーが正常化した患者に続きました。炎症反応が正常であった人たちは、繰り返し検査を受けなかった患者(3.6%)よりも病気の危険が低かった(2.1%)


検査結果が陽性の人のうち、85%が偽陽性で、感染症、自己免疫疾患、癌の証拠は見られなかった。全体の感度は50%未満でした。

炎症マーカーレベル

CRP>100mg/L(n=1552)では501(32.3%)が1つ以上の関連疾患を発症した。

113(7.2%)の癌、99(6.4%)の自己免疫症状、317(20.4%)が感染症でした。

ESR>100mm/h(n=389)では141(36.3%)が1つ以上の関連疾患を発症した。59(15.2%)が癌、60(15.4%)が自己免疫疾患、そして36(9.3%)が感染でした。

PV>2 Pa/s(n=276)では、81(29.3%)が1つ以上の関連する疾患を発症しました。30(10.9%)が癌を発症し、38(13.8%)が自己免疫症状を発症し、15(5.4%)が感染書を発症しました。

検査を誘発する症状は、疲労やめまい、低気分では試験は陰性、対照的に咳、UTI、胸部感染などの感染症状は炎症マーカーの上昇と関連している可能性が高かった。

 

初期炎症マーカー検査後の診断活性

6か月以内の血液検査、予約、紹介は真陰性よりも偽陽性の方が多く、1000の検査あたり236の偽陽性があり、その6か月以内に、710件GPの追加診察、229件静脈切開術の予約、24件紹介がおこりました。

 

結論:炎症マーカーは感度が低く、安心のためや除外試験として使用するべきではない炎症マーカー上昇に続く疾患発生率は15%(感染症6.3%、自己免疫疾患5.6%、癌3.7%)でした。偽陽性の結果が一般的で、その後のGP相談、検査、紹介の増加につながってしまう。検査をするということは、患者が病気であることを疑っていたという事になるため、GPは反復陰性炎症マーカーによって過度に安心してはいけない。

 

感想:CRPに振り回されないように、検査特性をよく利用しましょう。