南砺の病院家庭医が勉強記録を始めました。An archive of medical articles summarized by a family physician from Nanto Municipal Hospital.

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プライマリケアにおける多疾患併存の罹患率、特徴、パターン:カナダにおける後ろ向きコホート研究

Prevalence, characteristics, and patterns of patients with multimorbidity in primary care: a retrospective cohort analysis in Canada

Kathryn NicholsonAmanda L TerryMartin FortinTyler WilliamsonMichael Bauer and Amardeep Thind
プライマリケアにおける多疾患併存の罹患率、特徴、パターン:カナダにおける後ろ向きコホート研究
 
multimorbidity(多疾患併存)に関する論文はとりあえず押さえておきたいところです。
この研究は国の電子カルテデータベースを用いて計算し多疾患併存の組み合わせや順序を調べた最初の研究です。
 
背景:多疾患併存は現在医学における複雑な問題であり、この現象がどのように起こるかの理解が必要です。
 
目的:この研究では多疾患併存を有する患者の罹患率、特徴、パターン、特にプライマリケアにおける多疾患併存の特有な組み合わせ(順不同パターン)および特有な順番(順列パターン)を決定したい。
 
方法:カナダの電子カルテデータベースCPCSSN)から1990年~2013年までの間に収集されたデータを後ろ向きコホート分析し、18歳以上の成人プライマリケア患者を経時的に追跡しました。多疾患併存の罹患率を検出するために、20の慢性疾患カテゴリーのリストを使用しました。多重罹患率クラスター分析ツール(Javaプログラム)を用いてコンピュータ分析を行い、すべての組み合わせ及び順列を同定した。
 
結果:多疾患併存の罹患率は2人以上および3人以上の慢性疾患状態と定義され、成人のプライマリケア患者に多く見られ、これらの患者のほとんどは65歳未満でした。2つ以上の慢性疾患がある女性患者の間で6075の組み合わせと14891の順番が検出された。3つ以上の慢性疾患がある男性患者の間で4296の組み合わせおよび9716の順番が検出されました。特定のパターンが確認された一方で、慢性疾患状態や患者の年齢の総数が増加するにつれて、組み合わせおよび順番は稀になりました。
 
結論:本研究では多疾患併存がプライマリケアでは一般的であることを確認し、臨床管理には患者に合わせて調整したアプローチが必要である。多疾患併存の有病率は年齢の増加とともに増加するが、多疾患併存を最も有するグループは65歳未満でした。
 

 はじめに

多疾患併存は現在医学においてもっとも複雑な問題の1つです。長期の入院など健康上の有害な転帰をたどったり、機能面での低下や、潜在的に害となるポリファーマシーとなたり、患者の安全が損なわれたり、QOLの低下や負担、医療費が高額になったり、死亡率が上昇します。

多疾患併存が経時的にどのように発生するかを調べ、メカニズムを解明し、有病率の推定などを行います。計算が複雑なので計算しやすい2つ、あるいは3つの組み合わせを調べる事にしました。実際はもっと複雑ですが、重要な予測因子があるかもしれないことを調べることは重要です。ここでは多疾患併存の罹患率の計算から、多疾患疾患の次元を明確にして一次予防や二次予防のために調整されたするための知識を増やします。

本研究の目的は、①多疾患併存患者の有病率および特徴を明らかにして、②多疾患併存の罹患率の特定な組み合わせや独自な組み合わせについて調べる事です。

この研究では多疾患併存患者の大部分は65歳未満であることを見出し、多疾患併存はもはや高齢患者にとっての問題ではなく、若年患者の間でも適切に管理されなければならないことが言えます。また、患者年齢や慢性疾患の総数が増えるにつれて、多疾患併存のパターンが独特な組み合わせや順番になることが分かりました。
 
方法
CPCSSNデータベースから多疾患併存の組み合わせをMultimorbidity Cluster Analysis Toolで調べました。組み合わせの例は順番関係なく同じ3つの慢性状態(例えば、癌、肥満、および高血圧)と診断されたりします。順番は問わず同じセットになっています。それに対して、順番での分類は罹患した順番でカテゴリーされました。
 
結果
367743人の成人プライマリケア患者が対象となりました。
 
Figure 1.
 
2疾患以上併存するのは195838人(53.3%) 平均59.0歳
3疾患以上併存するのは121864人(33.1%)] 平均62.7歳
年齢が増加するほど有病率が増加していました。
患者が最大になっているのは45歳から64歳の間でした。
Figure 2.
 
組み合わせと順番について
2疾患以上併存している患者は女性6075名、男性4296人でした。
年齢層別にした場合、65~84歳の女性の間に最大数の組み合わせが検出されました。
多疾患併存を有するすべての年齢の女性・男性の中で検出された順番の総数は14891および9716でした。順番も65~84歳の間で最も検出されたことから合併症をもって暮らす65~84歳の人々の複雑さを表しています。
Figure 3.
 
多疾患併存の組み合わせと順番について

2疾患併存のすべての女性患者の間で、最も一般的な組み合わせは、不安またはうつ病と肥満(n=3991; 3.5%)であり、順番では、不安またはうつ病とそれに続く肥満(n=1160; 2.4%)でした。対照的に2疾患併存のすべての年齢の男性患者の間で、最も一般的な組み合わせは高血圧と肥満(n=3866; 4.7%)であり、順番は肥満とそれに続く筋骨格系の問題でした(n=10.51; 3.5%)

最も若い年齢層での組み合わせは、不安またはうつ病及び肥満であり、18~34歳および35~44歳で識別されました。男性患者のうち35~44歳の高齢患者の間でも最も一般的な組み合わせは筋骨格系の問題と肥満(10.2%)でした。

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AD=不安またはうつ病、CA=癌、CD=心血管疾患、COPDA=慢性閉塞性肺疾患または喘息、DB=糖尿病、DE=認知症、HL=脂質異常症、HT=高血圧、MP=筋骨格系問題、OB=肥満、ORA=変形性関節症または慢性関節リウマチ。組み合わせは順不同です。
 

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初診が高血圧である65歳以上の患者は若年者と比較して多いですが、一般的な最初の診断が不安またはうつ病である18~65歳以上の患者は年齢で区別はありませんでした。最も多い高血圧の65歳以上の患者と比較して、18~64歳は不安またはうつ病が最も多かったことになります。
 
個々の慢性疾患の有病率と、パターンの発生頻度
最も一般的な慢性疾患の診断は肥満、高血圧、筋骨格系の問題、そして不安やうつ病でした。両群の中で最も多かった慢性疾患は脳卒中、一過性脳虚血発作、肝疾患、腎疾患でした。高血圧、肥満、筋骨格系の組み合わせも順番も女性と男性の50%に見られました。特に高血圧は20%以上の方で最初に現れた慢性疾患でした。
 
概要
成人患者のうち2人に1人が2疾患以上併存で、3人に1人が3疾患以上併存でした。
多疾患併存を有する最大の割合は65歳未満でした。
もっと多発のパターンでも固有な組み合わせと順番に収束する可能性があります。
 
既存の文献と比較
本研究の有病率の推定値は、多くの国際的な推定値と同等でした。例えば、英国は58.0%、米国は45.2%、オーストラリア47.4%など。最大値が65歳未満であったのも過去の文献と一致しています。ドイツのプライマリケアデータでも高頻度の慢性疾患は高血圧、慢性腰痛、糖尿病、関節炎などで非常によく似ています。
 
感想
多疾患併存にパターンがあり、その順番もおおよそ決まっている可能性があるという研究です。しかもそれは若年から傾向があり、その疾患も特徴的かもしれません。コモンな多疾患併存が決まってくれば、そのアプローチも見えてくるのではないでしょうか?