南砺の病院家庭医が勉強記録を始めました。An archive of medical articles summarized by a family physician from Nanto Municipal Hospital.

An archive of medical articles summarized by a family physician from Nanto Municipal Hospital.富山県にある総合病院で働く病院家庭医です。勉強の記録を少しずつ書いていきます。

プライマリケアにおける複数の炎症マーカー検査の使用:精度を評価するための臨床実践研究データリンクを利用する

Britishi Journal of General Practiceより

Use of multiple inflammatory marker tests in primary care: using Clinical Practice Research Datalink to evaluate accuracy

プライマリケアにおける複数の炎症マーカー検査の使用:精度を評価するための臨床実践研究データリンクを利用する (炎症反応マーカーは重大疾患の除外の訳に立たないだけでなく、過剰診療を生む

 

注)この記事をUPしてから亀田ファミリークリニック館山の岡田先生から同じ論文をジャーナルクラブで紹介していると教えていただきビックリ。取り扱ったテーマが一流家庭医と同じであることに感動しつつ、先にこのことに気づいていればブログに紹介せずにTwitterにでも紹介していたのに残念です。というわけで岡田先生からの情報提供も肉付けさせていただきました(ありがとうございました)

 

この文献は私の診療を変えそうなインパクトがあります。CRPをいつ取るか、ESRをいつ取るかを考えさせられました。ちなみにCRP(C反応性蛋白)、ESR(赤血球沈降速度)は分かりますがPVが何か分からず真性多血症polycythemia veraしか浮かびませんでした。血液粘稠度というもののようです。

 

要約

目的:CRP、ESR、PVの診断制度を比較して、2つの炎症マーカーを組み合わせることで精度が向上するかどうかを調べた。

方法:英国のプライマリケアにおける研究データリンクを使用した前向きコホート研究。任意の感染症、自己免疫疾患、がんとして定義される関連疾患について、炎症マーカー(CRP、ESR、PV)の診断成績(感度、特異度、PPV、NPV、AUC)を計算しました。

結果:2014年に炎症マーカー検査を受けた136961人の患者で構成され、83671人(67.1%)は単一のマーカー、53200人(38.8%)は多数のマーカーを同日検査していました。AUCは0.659~0.682の範囲で、CRPのAUCが最も高値であった(AUC CRP 0.617 vs ESR 0.589、P<0.001) 2つ検査を追加してもAUCの改善は限定的であった(CRP+ESR 0.688 VS CRP 0.682 P<0.001) 単一の炎症マーカーのNPVは94%であった(多重陰性試験でも94.1%)

結論:複数の炎症マーカーを同時に検査しても疾患を除外する能力は高まらないので避けるべきである。CRPは感染症に対して診断上の精度がわずかに優れており、自己免疫疾患やがんと同等であるため、一次検査として使うべきである。

 

炎症マーカーについて

赤血球沈降速度(ESR)は3つの炎症マーカーのうち最も古く、赤血球が1時間で抗凝固処理された全血に定着するmm単位の距離として定義されます。血液粘稠度(PV)は一般にESRより優れていると考えられていて、年齢、性別、貧血、または白血病の影響をうけないのが特徴です。これに加えてCRPを比較した研究はなく、同時に検査する事で乱用の懸念もあり、偽陽性に振り回され、検査や紹介の増加につながる可能性もあります。

 

結果

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ほとんどがCRP、ESR単独、あるいはCRP+ESRでした。

ESR+PV(111人)とCRP+ESR+PV(306人)は検討していません。

 

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全体的な発症率は単一検査群では8.2%、複数検査群では9.0%

単一正常検査のNPVは94%であり、複数正常検査では94.1%でした

 

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CRPもESRもPVも感度、特異度、PPV、NPVも類似していました。

同時に検査しても診断精度は変わりませんでした。

CRPあるいはESR一方の増加は単一の上昇に比べて感度をあげますが、特異度は低下します。偽陰性が減少したり、診断失敗のリスクは減少しますが、偽陽性の頻度が著明に増加しています。

たとえば、CRP単独では19.3%の偽陽性に対してCRPあるいはESRでは28.0%の検査で偽陽性が発生しています。

感度を最大に挙げる組み合わせはCRPあるいはPVの増加という組み合わせの60.6%でした。

 

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CRPとESRの比較ではCRPは感染に関してわずかにAUCが高値でした。(AUC 0.617、95%CI = 0.610~0.632 vs 0.589,95%CI = 0.574~0.693、P<0.001)

またAUCの比較ではCRPとESRを組み合わせて、個別検査と比較しました。2種類の検査を組み合わせることで疾患限定的にはAUCの限定的な改善をもたらしました(CRP+ESR 0.688に対して95%CI = 0.682、95%CI =0.672~0.690、P<0.001) CRPとESRを組み合わせた感染症に対するAUCの改善もありませんでした。CRPとESRを組み合わせた試験では、自己免疫疾患のAUCが0.014(P<0.001)、癌のAUCがCRP単独(P=0.006)に対して0.003増加しました。統計的には有意ですが、臨床的意義は乏しいと思われます。

自己免疫疾患の診断におけるCRPとESRのAUCに有意差がなく、自己免疫疾患の主なサブタイプである多発性関節リウマチ、慢性関節リウマチ、血清陰性関節炎、または炎症性腸疾患に有意差がないことを見出しました。

 

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CRPとPVの比較では、CRPはより高いAUCを示した(AUC 0.638、95%CI = 0.608~0.670 VS 0.597,95%CI = 0.564~0.628、P=0.004) 癌ではP=0.49であり自己免疫疾患ではP=0.97であった。PV検査のサンプルサイズが小さいためと考えられます。

 

過去の文献との比較

二次医療施設での研究ではCRPとESRの比較研究があったが、本研究はPPV低めであった。プライマリケアの疾患罹患率の低さを反映しているのかもしれない。

英国ガイドラインでは多発筋痛症診断においてはESRとCRPを測定することを勧められているが、組み合わせても診断精度は上がらないと考えられます。

骨髄腫の診断でESRとPVがCRPより優れているという研究もあったが、本研究では検証できていません。

 

プラクティスへの影響

複数の炎症マーカーを検査しても疾患を除外する能力は向上しませんが、1つだけを選択する戦略と比較して検査の少なくとも1つが偽陽性となるリスクが高まるので、避けた方が良い。

3つの炎症マーカーは診断有用性は類似していましたが、CRPはESRおよびPVをわずかに上回り、費用はCRPが最も安くなります(CRPの場合は1.19 GBP、ESRの場合は3.18 GBP、PVの場合は3.18 GBP)。ほとんどの状況でCRPが第一選択で良いと提案されました。ただし、骨髄腫が疑われる場合はCRPよりもESRやPVの使用が例外として提案される可能性があります(本研究では反論できなかった)。その時は電気泳動やBJPを直接検査したほうがよいかもしれません。

 

感想:何らかの疾患スクリーニングもしくは感染症のスクリーニングをするなら単独ならESRよりCRP何らかの疾患スクリーニングもしくは自己免疫疾患、癌、RAのスクリーニングをするならCRP単独よりはESRとCRPの両方が望ましい。少なくともプライマリケアにおいては炎症がないことを確認するために炎症マーカーを複数組み合わせてもあまり意味がないかもしれません。これは当たり前ですが、大事な指摘です。そもそもプライマリケアでは本当にCRPは診断に寄与するのかという研究も必要ではないかと思います。

 

追記:今回紹介した論文は

Use of multiple inflammatory marker tests in primary care: using Clinical Practice Research Datalink to evaluate accuracy.

Jessica Watson, Hayley E Jones, Jonathan Banks, Penny Whiting, Chris Salisbury and Willie Hamilton

British Journal of General Practice 2019; 69 (684): e462-e469.
https://doi.org/10.3399/bjgp19X704309
https://bjgp.org/content/69/684/e462

でしたが、同じデータセットを使用した論文に

Added value and cascade effects of inflammatory marker tests in UK primary care: a cohort study from the Clinical Practice Research Datalink
Jessica Watson, Chris Salisbury, Penny Whiting, Jonathan Banks, Yvette
Pyne and Willie Hamilton
British Journal of General Practice 2019; 69 (684): e470-e478.
https://doi.org/10.3399/bjgp19X704321
https://bjgp.org/content/69/684/e470

というものもあり、これは次回引用させていただきます。