南砺の病院家庭医が勉強記録を始めました。An archive of medical articles summarized by a family physician from Nanto Municipal Hospital.

An archive of medical articles summarized by a family physician from Nanto Municipal Hospital.富山県にある総合病院で働く病院家庭医です。勉強の記録を少しずつ書いていきます。

新たなプライマリケアの包括的な測定ツール(PCPCM)の紹介

Annals of Family Medicineより

A New Comprehensive Measure of High-Value Aspects of Primary Care

Ann Fam Med May/June 2019 vol. 17 no. 3 221-230

www.annfammed.org

Stange K.C.先生(下の写真)は私が日本プライマリケア連合学会学術講演会で講演させていただいた時に紹介させていただいたBlack Box研究The Paradox of Primary Careでも有名な家庭医療の歴史を語るうえで外せない先生です。

ãStangeãPrimary careãã®ç»åæ¤ç´¢çµæ

※Primary Careの歴史はここにも収載されています。もちろんBlack Box研究もあります。 Classics in Family Medicine Articles -- Center for the History of Family Medicine 

すべて必読文献なので、そのうちゆっくり紹介したいと思います。

 

そんなStange先生のお弟子さんの論文です。

バージニアコモンウェルス大学(VCU)のFamily Medicine and Population HealthのRebecca S. Etz先生(下の写真)が執筆されています。

ãRebecca S. Etz, PhDãã®ç»åæ¤ç´¢çµæ

 

タイトルは

A New Comprehensive Measure of High-Value Aspects of Primary Care

プライマリケアの尺度にはこれまでにも様々なものがありましたが、項目が多いため実臨床では使用しにくいものであり、患者中心の自記式の評価になりがちでありました。今回は患者・医師・医療従事者の経験に基づいたプライマリケアの幅広い価値を多面的に測定する尺度を開発した論文です。

 

余談ですが、プライマリケアの測定ツールってどれだけご存知ですか?

Ann Fam Med. 2011 Mar-Apr;9(2):155-64. [PMID: 21403143]では

StewartのPatient Perception of Patient-Centeredness (PPPC)  2000 Sep;49(9):796-804.

LittleのConsultation Care Measure (CCM)  2001 Oct 20;323(7318):908-11.

が患者中心性を測定するツールでは有名です。この2つも読んでおくといいです。

 

UKではConsultation and Relational Empathy (CARE)

米国やカナダではPatient Reactions Assessment (PRA)、Perceived Involvement in Care Scale (PICS)、Component of Primary Care Instrument (CPCI)、Primary Care Assessment Tool-Adult (PCAT–A)、Instrument on Doctor-Patient Communication Skills (IDPCS)

などがあります。ここに掲載されているPCATに注目してください。

 

国内ではJPCAT(Japanese version of Primary Care Assessment Toolというものがあります。Primary Care Assessment Tool (PCAT)は、Patient Experience(PX)を用いたプライマリ・ケア質評価尺度であり、Johns Hopkins Primary Care Policy CenterのB. Starfield, L. Shiらによって開発されました。日本版を青木拓也先生が発表されたのもご存知の方もいらっしゃるでしょう。ご存じないという方は医学書院/週刊医学界新聞(第3235号 2017年08月07日)もご覧ください。

www.ncbi.nlm.nih.gov

​6つのドメイン:近接性・継続性・協調性・包括性(必要な時に利用できるサービス)・包括性(実際に受けたことがあるサービス)・地域志向性の計29項目があります。

www.primary-care-quality.com

多面的に測定できるとどんないいことがあるのかというと、患者中心の評価になるとプライマリケアで何が重要かを測定する際にどうしても患者目線が強調されてしまうため、従来の評価よりも医療者の視点も含まれた本当の意味で価値の高い評価となります。

 

方法はクラウドソース調査です。インターネットで患者412名、プライマリケア医525名、医療従事者85名にプライマリケアの価値について患者や臨床医や医療従事者への自由回答と構造化された質問を用意し、まとめられたデータを集積し、関連の高い項目を18項目がピックアップされました。

どんな質問かというと

・良いケアとは何か知っていますか?

・プライマリケアのどの側面を重要と考えているか?

という感じです。

そこでまとめられた18項目を2017年10月4~6日にワシントンDCで開催された国際会議(Starfield Summit III)に参加していた70名のプライマリケア専門家にもリストを配布し、何が重要でそれをどのように測定できるかが検討されました。ちなみに職種は患者、開業医(看護、MSW、家庭医学、小児科、内科、および作業療法)、国際プライマリケアリーダー、アクチュアリー、保険会社、雇用主、政策立案者、および専門家協会のリーダーなどでした。

会議で18項目から11項目に絞られました。それが、table2です

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この11項目は重要と思われます。要チェック。

近接性:いろんな意味で医療機関にかかりやすい

アドボカシー:患者のことを支持してくれている

統合性:健康に影響するすべてのことを考慮してくれている

調節性:多数の医療機関にかかったとしても調整してくれる

包括性:患者を全人的に理解してくれる

継続性:長い期間関わってくれる

患者との関係性:医師が患者の立場に立っている

家族のコンテキスト:家族を含めて理解している

コミュニティのコンテキスト:患者の地域社会の中で知識を提供する

目標指向のケア:ケアのゴールを意識している

ヘルスプロモーション:健康増進に寄与している

1000人近い多様な価値を持つ関係者で深く検討した項目であるといえます。

 

この妥当性を評価するために、2つの母集団(1000名のオンラインサンプルと323人の実際の待合室で抽出した連続したサンプル)を用いて因子構造の評価と交差検定を行いました。つまり各項目がちゃんと独立しているかを確認するわけです。ちなみにほとんどの患者は2分以内に評価できました。(辞退者50%)

 

分析は探索的主軸因子分析(単一性の分析)、Cronbachのα係数(信頼性)、Rashの項目(妥当性) をWINSTEPS 4.10を用いて計算された。

 

結果:PCPCM(患者中心のプライマリケア指標)は最低1.0点、最高4.0で、Rashの妥当性スコアは、オンラインサンプルでは0.99、臨床サンプルでは0.98(0.9以上で有意)、Cronbachのα係数(信頼性)は、オンラインサンプルでは0.95、臨床サンプルでは0.91(0.8以上で有意)でした。

 

感想:患者中心のプライマリケア指標(PCPCM)は内部一貫性が高く、それでいて幅の広さもある指標と言えます。多様な項目を簡潔に測定するためには各項目に一貫性がなければならないのですが、患者でその有用性を測定したところPCPCMはその一貫性も高く、プライマリケアの幅広い観点が一貫していることを実証的に示したことになります。その項目も多くの専門家が関わっているためプライマリケア全体を評価するツールとしては大変意味のあるものになっています。面白いのが、この尺度は診療プロセスと結果は問うものの、医療者側の経験のようなものを尋ねていないのです。その割にプライマリケアの尺度として優秀であるという事は、たくさんの関係者を巻き込んだものの結局のところ患者さんがプライマリケアの評価者として妥当という事になるわけです。

対象を変えても効果があるか、追加評価も期待できますね。

 

興味のある方にAppendixにあるアンケートのリンクを紹介します。

http://www.annfammed.org/content/suppl/2019/05/13/17.3.221.DC1/Etz_Supp_App.pdf

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使用許可については特に記載はありませんでした。

外来のプライマリケアの質の評価ができますね。

最後まで読んでいただき、ありがとうございました