Ann Intern Med. 2019 Nov 19. doi: 10.7326/M19-0812. [Epub ahead of print]
PMID: 31739316 DOI: 10.7326/M19-0812
頭蓋内圧亢進を診断するためのベッドサイド視神経超音波検査:系統的レビューとメタ分析
またエコーか。そんな声が聞こえてきます。
いや決して前回のMultimorbidity研究の最新研究がバズると思いきや、家庭医ガチ勢にしか受けなかったからではないのです。
実は、論文サーフィン中に今月のAnn Intern Medに眼球エコーのメタ分析が出ていたのですが、以前からエコーのネタで載せておきたかったのに紹介できていなかったものこそ眼球エコーだったです。
なお、この論文はアブストラクトしか紹介しません(読めませんでした)
大事なのは、眼球エコーの見るべきポイントです。
その動機付けのために論文を紹介します。
頭蓋内圧亢進を診断するためのベッドサイド視神経超音波検査:系統的レビューとメタ分析 Ann Intern Med. 2019 Nov 19. doi: 10.7326/M19-0812. [Epub ahead of print]
背景:視神経超音波検査(視神経鞘径超音波検査)は、頭蓋内圧の増加を診断するための非侵襲的で迅速な方法として提案されています。
目的:子供と大人の頭蓋内圧上昇を診断するための視神経超音波検査の精度を調べる。
データソース:開始から2019年5月までの13のデータベース、参照リスト、会議の議事録
研究選択:あらゆる年齢層または参照標準を含む、あらゆる言語で公開された前向き視神経超音波検査の診断精度の研究
データ抽出:3人のレビューアが独立してデータを抽出し、品質評価を実施しました。
データ合成:4551人の患者を含む71の適格な研究のうち、61は成人を含み、35はバイアスのリスクが低いと評価されました。外傷性脳損傷患者の視神経超音波検査の感度、特異性、陽性尤度比、陰性尤度比は97%(95%CI、92%〜99%)、86%(CI、74%〜93%)、6.93(CI、3.55〜13.54)、および0.04(CI、0.02〜0.10)でした。非外傷性脳損傷患者のそれぞれの推定値は、92%(CI、86%〜96%)、86%(CI、77%〜92%)、6.39(CI、3.77〜10.84)、0.09(CI、0.05〜0.17)でした。 精度の推定値は、患者の年齢、術者の専門性と訓練レベル、参照基準、超音波検査者の盲検状態、およびカットオフ値によって層別化された研究間で類似していた。超音波検査における視神経鞘拡張の最適なカットオフは5.0 mmでした。
制限:小規模な研究、不正確な要約推定値、出版バイアスの可能性、臨床結果への影響の評価なし。
結論:視神経超音波検査は、頭蓋内圧亢進の診断に役立ちます。通常のシース直径測定は、頭蓋内圧の増加を除外する可能性がある高い感度と低い負の尤度比を持ちますが、高い特異性と正の尤度比によって特徴付けられる測定値の上昇は、頭蓋内圧の増加と追加の確認検査の必要性を示す場合があります。
読めないことをいいことに、普段よりもだいぶ短くなってしまいました。
・眼球エコーは、頭蓋内圧亢進の診断に役立つ可能性がある。
・視神経鞘拡張のカットオフ値5mmで感度97%、特異性86%、陽性尤度比6.93、陰性尤度比0.04でした。
では、あらためて勉強します。
眼球エコーはどんな時に使えばよいのでしょうか。
眼球エコーは中枢神経系の評価(頭蓋内圧の亢進)に使えると言われています。
例えば高エネルギー外傷で、ABCが安定していて、次はDの評価(dysfunction of CNS)
さて、『ま・い・ど』と切迫するDをチェックするわけです。
復習ですが『ま・い・ど』とは、中枢神経の評価で
ま:麻痺の有無や左右差
い:意識状態→GCS(Glasgow Coma Scale)で評価
ど:瞳孔(瞳孔径、左右差、対光反射)
の略で中枢神経の評価をすると楽です。
切迫するDとは
・GCS8点以下
・急激な意識レベル低下(GCS2点以上の低下)
・脳ヘルニア兆候:瞳孔不動,片麻痺など
であり
切迫するDだったらやる事3つ
①気管挿管
②頭部CTオーダー
③脳外科医を呼ぶ
というものをJATECという外傷セミナーを受けると学ぶと思いますが
海外では、ここで眼球エコーを用いるらしいです。
なぜ海外ではとしたのか。
頭部CTが簡単に取れない状況だからというのもあるかもしれませんが
主に描出条件のしばりがあるからです。
ここは大事な点なので強調しますが
超音波は放射線と比べて無害な印象を受けがちですが
機械的損傷や熱損傷をきたすことがあります。
①機械的損傷はcavitationといって、超音波が当たった部位の圧力差により水分内に気泡が発生し、破裂するまでの過程で組織損傷リスクがあります(超音波洗浄機の原理)
②熱損傷は、超音波が組織内で減衰するときに熱エネルギーに変わることで生じます。
これらの生体への影響の指標として、それぞれmechanical index(MI), thermal index(TI)と呼ばれており。両方とも1以下の値であれば安全なのですが、眼球だけは、TI<1、MI<0.23と厳密に定められています。
でもよく考えてみると、産科領域では胎児の頭部により高いMIのエコーを当てているので大丈夫な気もしますが、眼科専門の超音波装置以外の装置は眼球に使用するための認可を受けていないものもあるので、試すときはその辺をよく確認しましょう。
ちなみに専門の設定のものは、opthalmicという装置があるので、それであれば安全です
余談ばかりしてしまった。
眼球経由で視神経鞘を描出し、その径が5mm以上であれば脳圧亢進と推定できるわけです。
プローブはセクタ型、深度は浅め
MI(mechanical index)をチェックして0.23以下であれば、エコーを眼球に当ててみます。
セクタって何?というあなたに資料つけておきます。
要は心エコーのプローブです。
https://medick.biz/category/select/pid/90553
このエコー像は
レジデントノート2013年、Vol.15 No.10の鈴木昭広先生の『FASTアドバンス』からの紹介である。(本文も大いに参考にさせていただいています。ありがとうございます。)このお写真はご本人の眼球に当てていらっしゃるようです。
ちなみに鈴木昭広先生も南砺市民病院に来てスキルアップセミナーをしていただいたことがあります。非常に贅沢な時間でした。
A)視神経円板(乳頭)につながる視神経(赤矢印)
B)円板部から3mm下方の中枢で視神経鞘径を測る
水晶体、硝子体を経た遠位部で、まるで音響陰影のような低輝度の印影が中枢に伸びる部分(赤矢印)が視神経円板につながる視神経です。円板部から3mm中枢部の深さで視神経鞘径(ONCD: optic nerve sheath diameter)を測定し、5mm以上であれば脳圧20cmH2Oを示すとされています。(上の写真では2.6mmです)
もう少し絵を加えてみますと
こういうイメージです。ONCDはここではdilated optic nerve sheathと表現されていますね。(Acad Emerg Med April 2003, Vol 10, No.4)
(お願い)
描出にはゼリーを十分使用して眼球への外力を可能な限り減らすよう心がけて、使用前に機器のMIとTIを確認してください。
他にも眼球エコーは、網膜剥離の診断にも有用です。
上が正常像ですが、下の写真は網膜剥離が見えます。
また水晶体偏位や眼内異物の検索にも有用です。
これらは、https://www.slideshare.net/masatoshimizu37/7-52653942
より引用させていただきました。ありがとうございました。
注意:眼球エコーを使うような現場では頭部CTへのアクセスが良いと思いますので、どうせならそうしたほうが良いかもしれませんが、あくまで選択肢の一つとして頭の片隅に置いておくことと、エコーの人体への影響は注意されたほうが良いと思われます。