南砺の病院家庭医が勉強記録を始めました。An archive of medical articles summarized by a family physician from Nanto Municipal Hospital.

An archive of medical articles summarized by a family physician from Nanto Municipal Hospital.富山県にある総合病院で働く病院家庭医です。勉強の記録を少しずつ書いていきます。

髄膜刺激徴候のeyeball tendernessを正確にできますか?

 Avaliação do sinal de dor à compressão do globo ocular nas síndromes meníngeas infecciosas

Evaluation of the ocular globe compression sign in infectious meningeal syndromes

PMID:16410932

 

Extensivistがらみでもう一つ書くことがあるのですが…

うちの専攻医からの素朴な疑問に答えていたら

これはブログにしたらうけますよ」と言われたので、共有してみます。

 

これまでにそう言われてまとめて、見事にスベったシリーズ

①女性の多毛症

②スマホによる一過性単眼失明

③急性陰嚢症

というマイナー疾患ばかり。 

私のブログ記事の中では、Yahooなどからの検索記事ランキングでは上位なので、そういうニーズはあるのかなと不思議に思うところもあります。

 

さて、今回は専攻医から

Eyeball tendernessの根拠になる論文ってどこにあるんですか?

という素朴な質問に、「たしかロッキーノートにちょろっと書いてあるはずだよ」

http://rockymuku.sakura.ne.jp/sinnkeinaika/eyeball%20tenderness.pdf

と答えたところ

 

「先生!元論文がポルトガル語です!」

 

と言われて、そういえばそんなこと書いてあったなと思いつつ、ポルトガル語の論文を読んだことなかったので読んでみようと思ったのがきっかけです。

 

もちろん読めませんので、google先生に翻訳してもらいながら雰囲気だけ元文献を読んでみます

 

 

f:id:MOura:20200314010217p:plain

http://www.scielo.br/scielo.php?script=sci_arttext&pid=S0037-86822005000600016

PMID: 16410932

 

最初っから雑誌名で圧倒です

Revista da Sociedade Brasileira de Medicina Tropical

ブラジル熱帯医学会誌

家庭医が読む雑誌とはあまり思えない響きです

 

どんどん読んでいきましょう

感染性髄膜炎における眼球圧迫痛徴候の評価

 

まとめ

感染性髄膜炎は診断を迅速にする必要がありますが、臨床データだけでは確定も除外も不十分です。そこで4歳以上の感染性髄膜炎が疑われる男女57名の眼球を圧迫するときの痛みの徴候を評価するのが目的です。感度は34.5%、特異度78.6%および陽性的中率62.5%および陰性的中率53.7%は項部硬直のそれに類似していました。2人の独立した観察者間のκ係数は0.65でした。

 

結果だけでも満足だったのですが、ふと思う疑問。

Q. そもそも、眼球の圧迫ってどうするのが元文献なのでしょうか

 

そもそもHolanda先生の最初に眼球圧迫を発表した論文では

Valor preditivo da dor à compressão do globo ocular nas síndromes meníngeas

を読むと

DCGO(a dor à compressão do globo ocular:ocular globe compression signのこと)

のきっかけは

髄膜刺激徴候の患者には、眼球の指圧に対する痛みや何らかの反応が経験的に見られていたが、これまでに文献が見つかりませんでした。おそらく、視神経とそれを取り囲むくも膜下腔との位置関係に起因し、頭蓋内圧の増加の影響を反映している可能性があると考え、この研究が始まったようです。

 

方法は

①患者を仰臥位にします。

②目を閉じます。

③術者は親指腹側で、患者の2つの眼球に同時に2秒間、緩やかな指圧を加えます。

④両刺激後の痛みを伴う反応の有無とその程度を観察します

患者が痛みまたは軽度、中程度、または激しい反応を示す場合はサインは陽性です。

結果は2人の術者の一致率は100%で

感度97.5%、特異度98.8%、陽性的中率98.7%、陰性的中率98.1%

であったとされています。

 

ここで今までの誤解に気づきました

RockyNoteに記載されている

f:id:MOura:20200314013223p:plain

この抑え方ではなく、両拇指の腹側で両眼球を抑えるのが本家だったのです

知らんかった。原文読まないとわからないものですね。

 

ただしこの研究手法に問題があるとして、追試されたのが今回紹介する論文でした。

結局追試をすると

感度は34.5%、特異度78.6%および陽性的中率62.5%および陰性的中率53.7%で、陽性尤度比は1.6、陰性尤度比は0.83と、これ単独では解釈できない結果となりました。

 

まてよ。ひょっとして、動画あるんじゃないか?

と思い、YouTubeにポルトガル語で「à compressão do globo ocular」と検索したところ


Crânio Sacral - Compressão e descompressão do músculo do “Globo ocular “

 

確かに両目を親指で押している!

とびっくりしたのもつかの間

別の動画を診ると

f:id:MOura:20200314014719p:plain

ただのエステティシャンの動画で再生回数がたったの50回だったことがわかり、いいオチをいただけました。

 

今回勉強になったことは

・髄膜刺激徴候のeyeball tendernessはもともとocular globe compression sign

・ポルトガル語ではDCGO(a dor à compressão do globo ocular)

・感度は34.5%、特異度78.6%、陽性的中率62.5%、陰性的中率53.7%

・陽性尤度比は1.6、陰性尤度比は0.83とそんなに役に立つわけでもない

・正式なやり方は、親指腹側で患者の2つの眼球に同時に2秒間、緩やかな指圧をする。

・動画はエステティシャンのやつしかない。

 

最後によいオチを頂けました。

個人的には楽しい勉強の一コマでした。