南砺の病院家庭医が勉強記録を始めました。An archive of medical articles summarized by a family physician from Nanto Municipal Hospital.

An archive of medical articles summarized by a family physician from Nanto Municipal Hospital.富山県にある総合病院で働く病院家庭医です。勉強の記録を少しずつ書いていきます。

山中克郎先生による めまいの攻める問診、身体診察レクチャー

山中克郎先生、講演まとめ

 

2019年11月22日、南砺市民病院にドクターGでお馴染みの山中克郎先生をお招きして、ご講演をいただきました。

 

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山中先生は私が初期研修医のころにご指導いただいたことがあり、その診療の姿勢は全く変わっておりませんでした。

 

そして私はというと何年たっても全くホスピタリティーの足りないコーディネーターを務めてしまいましたが、会自体は非常に盛り上がる素晴らしい会でした。

 

この規模の病院でドクターGを何名も呼べるのは、ひとえに教育に力を入れている病院長をはじめとする総合診療への理解のある環境のおかげだと思います。ありがたい事です。

 

そんな素晴らしい講演内容を、一部シェアさせていただきます。

 

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めまい診療 攻める問診

スライドを用いない、フリースタイルの講演でした。

まず研修医に「最近見た、めまいの症例の、年齢・性別とどんなめまいかを教えて」といい、そこから周りがどんなことを聴くかを自由に話してもらっていました。

 

「どんな時にめまいがおこるか」

「はじめてのめまいですか?繰り返していますか?」

「頭痛はありますか?」「吐き気はありましたか?」

「持続時間はどれぐらいですか?」

「飲み込みづらさはありますか?」

 

様々な質問が飛び交います。

ここからが、山中先生のレクチャーが始まります。

 

患者さんの言うことはそのまま聞いてはいけません。

1分だけ誠実に聞いて、ある程度自由に話をしてもらったら、こちらの番です。

息継ぎなく大事な質問を聴くべし!

 

山中先生が考えるめまい診療で大事なことは、小脳梗塞をなるべく見逃さない事です。

だったらどういう事を聴きますか?

 

ではもし胸痛を訴える人が来たら、何を聴きますか?

そうですね、糖尿病・高血圧・脂質異常症があるか、心筋梗塞の既往があるか、喫煙なんてのも大事ですね。

 

なので、小脳梗塞を疑う時には脳梗塞の既往を聴くことが大事なんです。

 

あとは、歩けるのか、は大事です。

末梢性めまい症の場合は、吐いていたとしても、あるいけます。

ところが、中枢性であれば、歩けないことが多いです。

 

実際にはこうするとよいでしょう。

点滴をしていて終わりそうなときに

「トイレに連れて行ってもらっていいですか? 歩いてベッドに戻れれば帰ってもいいです。」と確認すると、自立歩行ができるかを確認ができます。

もしも末梢性めまいでも、歩けなければ入院しておいた方が良いでしょう。

 

これは研修医の先生が上級医の先生を呼ぶときにも重要です。

めまいの患者さん、歩けないので不安なのです。一度見ていただけませんか?

と上級医の不安をあおるような声のかけ方を覚えておきましょう。

 

さて、脳梗塞の血流支配には

前方循環と後方循環にわかれます。

前方循環は内頚動脈

後方循環は椎骨脳底動脈系です。

めまいを起こしやすいのは?…そうです。後方循環です。

 

ではここで質問です。

後方循環系で他におこる症状は何ですか?

「嚥下障害」「構音障害」

「交互性の感覚障害 ワレンベルグ症候群(延髄外側症候群)」

「同名半盲」「複視」も症状かもしれません。

 

次は身体所見です。

めまい診療で絶対に見逃してはいけない眼振はどんなものですか?

そうですね、垂直性の眼振です。見たことがない方は、YouTubeでみておいて下さい。


Ocular vertical nystagmus

 

片頭痛関連のめまいがあるのをご存知でしょうか?

(補足)2013年国際頭痛分類第3版には片頭痛とめまいの関連が注目され、「前庭性片頭痛 (vestibular migraine: VM)」が掲載されました。

 

診断基準
1.前庭性片頭痛(vestibular migraine)
A.少なくとも5回の中等度から重度の前庭症状の発作が5分から72時間続く
B.現 在 あ る い は 過 去 に ICHD(International Classification of Headache Disorders,国 際頭痛分類)の前兆のない片頭痛あるいは前兆のある片頭痛の診断基準を満たした頭痛がある
C.前庭発作の少なくとも50%に次の一つ以上の片頭痛兆候がある
・次のうちの二つ以上の特徴を持つ頭痛。片側性,拍動性,中等度から重度の痛みの強さ,日常動作による痛みの増悪
光過敏と音過敏
視覚性前兆
D.他の前庭疾患や ICHD の診断基準にあてはまらない

 

注意点では、若い女性であれば疑ってみることが大事。

発作の持続時間は非常に様々である。数分間、数時間、数日以上が1/3ずつで、残りの10%は頭部運動時、視覚刺激時、あるいは頭の位置を変えた後に繰り返す数秒程度のものでした。24時間以上続くものもあります。めまいの正常も回転性と言ったり、不動性と言ったり様々です。

 

ところで片頭痛の症状に閃輝暗点というものがあります。

これはどのようなものかご存知でしょうか?

googleで調べた方が良いでしょう。

「閃輝暗点」の画像検索結果

漫画でも紹介されています。

 

「閃輝暗点」の画像検索結果

 

他にもやはり、光過敏・音過敏は重要です。80%を占めると言われています。

臭過敏もあります。香水がつけられなくなったという質問も有効です。

テレビがうるさく感じることはありませんか?などと聞くと答えやすいでしょう。

 

片頭痛で生活に支障がありますかと聞かずに、家事ができないことだったり仕事を早退するようなことがありますか?と聞くと良いでしょう。

 

他には「外を歩くときに、まぶしくなったりしませんか」とか「遊園地のコーヒーカップは苦手だったりしませんか?」と聞くのも有効です。

 

さて、身体診察の実演です。

小脳梗塞の症状は後になるほど揃っていきます。

極論で言いうと、50歳以上の男性、初発のめまいであれば入院しておくのが無難です。

ではどのような身体所見が取れればよいのでしょうか?

小脳症状は合わせ技で見つけましょう。

 

まず、開脚歩行に注目して下さい。

開脚歩行を見たときには3つの原因が考えられます。

内耳障害、小脳失調、後索障害(深部覚)

 

次に、指鼻試験の実演です。

普通の指鼻試験はこちら


【フィジカルアセスメント】神経所見シリーズ 小脳の評価その1 指鼻試験


【フィジカルアセスメント】神経所見シリーズ 小脳の評価その2 指鼻指試験

 

山中先生の指鼻試験は、すこし難易度難しめにしていました。

大事なポイントは相手の腕をなるべく伸ばさせる

指が触れそうなときに、わざと少しずらしてついてこれるかを見る

振幅が激しくなり、オーバーシュートしていきすぎるのが特徴です。

 

 

それでも筋力低下なのか小脳失調なのか分からないときに

親指を人差し指をくっつける動作を繰り返してもらいます。

難易度を上げるなら拇指MP関節に示指を高いところから落とすのが有効です。

小脳失調がある場合は、うまく落とせません。

 

そしてパーキンソニズムがある場合は、振幅がだんだん小さくなるのが特徴です。

(小字症もポイントです)

頚椎症・脳梗塞のある場合、指を下すスピードが遅くなります。(錐体路症状)

 

筋トーヌスも診ておきましょう


18 神経診察 筋トーヌスの診察

この動画も大事ですが、患者さんに腕を屈曲させ、それを固定していたものを急に離すと、勢いよく患者さんのところにこぶしが来てしまうと陽性です。

 

筋トーヌスの亢進には2つあり

①「痙縮(けいしゅく,spasticity)」

②「筋固縮(きんこしゅく)/筋強剛(きんきょうごう,rigidity)」があります

 

①の痙縮は患者さんの腕や足を他動的に急に動かした際に、あるところまでは強い抵抗を持続的に感じますが、あるところから急に抵抗がなくなる状態です。この抵抗が折りたたみナイフをたたむ際の抵抗に似ていることから,「折りたたみナイフ現象(clasp-knife phenomenon)」といいます。

 

②筋固縮/筋強剛は痙縮と異なり,他動的に動かした際に始めから終わりまで持続的に抵抗を感じる状態です。一様な抵抗を感じるものを「鉛管様強剛(えんかんようきょうごう,lead-pipe rigidity)」または「可塑性強剛(かそせいきょうごう、plastic rigidity)」カクカクと歯車を回転させるときのような抵抗を「歯車様強剛(cog-wheel rigidity)」と呼びます。前者はパーキンソン症候群(多系統萎縮症,進行性核上性麻痺、大脳皮質基底核変性症,脳血管性パーキンソン病など)でみられるのに対し、後者はパーキンソン病に特異的です。

 

また筋固縮を診察する他の方法として、「腕木信号現象(うでぎしんごう)」や「フロマンの手首の固化徴候」があります。腕木信号現象は、肘を机について前腕を立て、しっかり力を抜いてもらった際,正常であれば手首は90°に屈曲しますが、筋固縮のある患者さんだと鉄道の信号灯のように上向きのままとどまる現象です。

腕木信号現象

フロマンの手首の固化徴候は手首を他動的に動かしている間に、対側の手にグー・チョキ・パーなどの運動負荷をかけ、右手の手首の抵抗の変化を診ます。

フロマンの手首の固化徴候

 

肩ゆすり試験

小脳失調症状があるとその側を肩をゆさぶって離すと、いつまでも揺さぶっています。

 

ベッドサイドの眼振の見方

目がついていけるのだが、オーバーシュートして無理やり戻って来てしまう。

外転して、黒目が隠れればOK 外転障害があればVitB1欠乏などを疑います。

「外転障害」の画像検索結果

小脳は虫部がやられると体感失調になる

その結果、体をVの字にして曲げてから起きようとしたり、体を支えていないと座れないことがあります。

 

ワレンベルグの症状、色々ありますが

小脳失調・嚥下・構音障害・交差性の感覚障害など

一番最初に出てくるのが、角膜反射

角膜反射は、黒目にティッシュをこよりにしたものを触れさせて両目がつぶれるかをみます。これは複数の脳神経の評価に役立ちます。

①角膜の知覚は三叉神経(Ⅴ)

②両眼を瞑る顔面神経(Ⅶ)

横から入れるのがポイント。黒目に入れるのがポイント(白目は感覚がない)

 

構音障害

パタカは何神経を見ている?

①パ:顔面神経(唇を動かす)

②タ:舌下神経(舌を動かす)

③カ:舌咽・迷走神経(喉の奥をしめる)

 

後索障害をどうやって見るか

まず歩いてもらう

脚を閉じて立って、目を瞑ってください

Rombergは感度は低い、片足Romberg、Mann試験(足を一曲線上にする)の方が良い

VitB12欠乏では側索障害・後索障害を考える

小脳失調では足を閉じただけでもふらつく、後索障害では目を閉じるとふらつく

 

継ぎ足歩行をさせるとよい。小脳失調は千鳥足のよう。

 

片麻痺の歩行→ぶんまわし歩行

パーキンソン病の身体所見を体験

前傾姿勢、5Hzの安静時新鮮、pill rolling、すくみあし、歩き始めると小幅で早く動く

手は振らない、方向転換するときそのままゆっくり回る

振戦は、N字、逆N字の順番に手足におこる。

 

回診の一コマ

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ベッドサイドで観察力を鍛えるためには、例えば患者さんの持っている本はどんなものを読んでいるのか、普段と違うところはないかを常に観察する訓練をしていることが大事。という言葉で締めくくられました。

 

目線を患者さんよりも下からされる姿勢は、私もついつい忘れてしまいそうになります。お手本のような教育回診でした。

 

南砺市民病院はまだまだビッグネームを12月にお呼びしています。

お楽しみに。