南砺の病院家庭医が勉強記録を始めました。An archive of medical articles summarized by a family physician from Nanto Municipal Hospital.

An archive of medical articles summarized by a family physician from Nanto Municipal Hospital.富山県にある総合病院で働く病院家庭医です。勉強の記録を少しずつ書いていきます。

佐々木淳先生に「それ、オマハシステムと同じだよ」と言われて――在宅マルモ講演の“答え合わせ”から、ビュートゾルフ(オマハシステム/たまねぎモデル)・ICF・ストレングスモデルまで辿ったら、看護・リハ・介護・福祉と総合診療が同じ井戸(Weed+Engel)から水を汲んでいた話

佐々木淳先生に「それ、オマハシステムと同じだよ」と言われて――在宅マルモ講演の“答え合わせ”から、ビュートゾルフ(オマハシステム/たまねぎモデル)・ICF・ストレングスモデルまで辿ったら、看護・リハ・介護・福祉と総合診療が同じ井戸(Weed+Engel)から水を汲んでいた話

先日、在宅医療カレッジで「在宅医療におけるマルモ(多疾患併存)とポリファーマシー」というテーマで講演をしました。マルモのトライアングル――拡張型のProblem List、バランスモデル、四則演算――を共通言語に、「この薬、本当に必要?」という問いを職種を越えて持ち寄る、という話です。

その司会をしてくださったのが、在宅医療の第一人者・佐々木淳先生でした。そして講演を受けて、佐々木先生が「大浦先生のこのアプローチ、ビュートゾルフのオマハシステムと同じですよ」と言ってくださったんです。

しかもこれが、名前をポンと出して終わりではなかった。問題をまず全人的にリスト化して、介入を型に分けて、アウトカムで評価する――というオマハシステムの“型”のところまで、その場できちんと説明してくださったんです。

正直に告白すると、私はオマハシステムをそれまで全く知りませんでした。在宅ケアの世界でこれだけ使われている体系を、恥ずかしながら不勉強で知らなかった。その場で初めて教わったのです。聞きながら「それ、いま自分が話したマルモのトライアングルと同じことを言っているのでは」と驚き、大変勉強になりました。

ところが――情けない話なのですが、翌日になると、その肝心の名前をすっかり忘れてしまったんです。「ビュートゾルフの、あの、マルモと同じっていう……何だっけ」と。型は覚えているのに、固有名詞だけがどうしても出てこない。

しょうがないので、Claudeに聞いてみました。「ビュートゾルフの、マルモと同じっていうアプローチって何だと思う?」と。

そしたらClaudeが「オマハシステムやないか」と。そうそう、それを佐々木先生に教わったんや。ほなオマハシステムやないか。

……と思ったら、Claudeが「いや、たまねぎモデルかもしれん」と続けてくる。本人の自己管理を中心に、家族・近所・チーム・専門職へと外に広げて、専門職介入は最後に置く。たしかにこれも「減らす前に立ち止まる」マルモや。ほなたまねぎモデルやないか。

いやいや、佐々木先生が言うてたのはオマハやって。型まで説明してくれたもん。否定材料はこっちにあるのに、Claudeが出してきたたまねぎモデルまで、これがまたマルモに当てはまってしまう。ツッコミきれへん。

――というわけで本命はオマハシステム(佐々木先生、ありがとうございます)。でもせっかくClaudeがたまねぎモデルまで出してくれたので、網羅性のために両方とも“答え合わせ”しておきます。そして例によって、途中で何度か脱線します(脱線こそ勉強ブログの本体です)。

※念のため:佐々木先生は関西弁ではありません。「〜やないか」はすべてミルクボーイへのオマージュで、先生の語り口とは無関係です。講演会場での説明はいたって明晰でした。


1. オマハシステムとは ―― 佐々木先生が教えてくれた“型”

オマハシステム(The Omaha System)は、1970年代に米国ネブラスカ州オマハの訪問看護協会(Visiting Nurse Association of Omaha)が開発した、地域・在宅ケアのための標準化された看護用語・分類体系です。1975〜1993年の4つの連邦助成プロジェクトを通じて信頼性・妥当性・実用性が検証され、1992年には米国看護師協会(ANA)が標準看護用語として承認しました [1][2]。標準的な解説書は Martin KS『The Omaha System: A Key to Practice, Documentation, and Information Management』(2005)です [3]。日本ではビュートゾルフが基幹アセスメントとして採用したことで知られ、ビュートゾルフ柏の吉江悟先生・岩本大希先生らが導入・普及を進めています [4]。

佐々木先生が説明してくださった“型”は、この体系の三層構造そのものでした。

  1. 問題分類(Problem Classification Scheme) ―― 利用者・家族・地域の課題を、4領域(環境・心理社会・生理・健康関連行動)/全42項目に整理する。診断名ではなく「生活上の問題」を起点にするのが特徴です(全リストは下記) [4][5]。
  2. 介入分類(Intervention Scheme) ―― 介入を4カテゴリ(教育・指導・カウンセリング/処置・手技/ケースマネジメント/観察)に分けて記述する [4]。
  3. アウトカム評価(Problem Rating Scale for Outcomes) ―― 各問題について知識・行動・状態(Knowledge・Behavior・Status=KBS)の3側面を5段階で評点し、「どれだけやったか」ではなく「利用者に何が変わったか」で評価する [4]。

ある多施設実証では1ケアプランあたり平均約4問題、介入は観察(39%)と教育(30%)が最頻だったと報告されています [6]。系統的レビューでも、研究の焦点が経年的に「問題の記述」から「アウトカム研究」へ移ってきたことが示されています [7]。

■ オマハシステムの問題分類:4領域42項目(全リスト)

せっかくなので、佐々木先生が「全人的にリスト化する」とおっしゃった中身を、公式(omahasystem.org)から全部書き出してみます [5]。各項目は「問題」ではなく中立的な“関心領域”として定義されているのがミソです。

環境領域(Environmental/4項目)――生活の場・近隣・地域の物的資源と物理的環境 1. 収入・家計(Income) 2. 衛生(Sanitation) 3. 住居(Residence) 4. 近隣・職場の安全(Neighborhood/workplace safety)

心理社会領域(Psychosocial/12項目)――行動・感情・コミュニケーション・関係性・発達のパターン 5. 地域資源とのコミュニケーション(Communication with community resources) 6. 社会的接触(Social contact) 7. 役割の変化(Role change) 8. 対人関係(Interpersonal relationship) 9. スピリチュアリティ(Spirituality) 10. 悲嘆/グリーフ(Grief) 11. メンタルヘルス(Mental health) 12. セクシュアリティ(Sexuality) 13. 養育・育児(Caretaking/parenting) 14. ネグレクト(Neglect) 15. 虐待(Abuse) 16. 成長・発達(Growth and development)

生理領域(Physiological/18項目)――生命を維持する機能とプロセス 17. 聴覚(Hearing) 18. 視覚(Vision) 19. 言語・発話(Speech and language) 20. 口腔の健康(Oral health) 21. 認知(Cognition) 22. 疼痛(Pain) 23. 意識(Consciousness) 24. 皮膚(Skin) 25. 神経・筋・骨格機能(Neuro-musculo-skeletal function) 26. 呼吸(Respiration) 27. 循環(Circulation) 28. 消化・水分(Digestion-hydration) 29. 排便機能(Bowel function) 30. 排尿機能(Urinary function) 31. 生殖機能(Reproductive function) 32. 妊娠(Pregnancy) 33. 産褥・産後(Postpartum) 34. 感染性・伝染性の状態(Communicable/infectious condition)

健康関連行動領域(Health-related Behaviors/8項目)――健康の維持・回復・リスク低減に関わる活動のパターン 35. 栄養(Nutrition) 36. 睡眠・休息のパターン(Sleep and rest patterns) 37. 身体活動(Physical activity) 38. セルフケア(Personal care) 39. 物質使用(Substance use) 40. 家族計画(Family planning) 41. 健康管理・受診行動(Health care supervision) 42. 服薬管理(Medication regimen)

これを眺めて唸ったのは、マルモの「拡張型Problem List」がわざわざ診断名の外に拾いにいく項目――収入・家計(1)、地域資源とのアクセス(5)、社会的接触(6)、口腔の健康(20)、健康管理・受診行動(41)、服薬管理(42)――が、最初から堂々とリストの中に入っていることでした。SDH(健康の社会的決定要因)も口腔も服薬も、最初から“問題”として同じ土俵に並んでいる。私が「拡張型」とわざわざ名前を付けて足していたものが、看護の世界では40年前から標準装備だったわけです。

■ 脱線してみる(なぜ42なのか)

ちなみに公式の項目数は「42」。ところが英語の文献を漁ると、しれっと「44」と書いてあるものもあります [6]。版や数え方の差のようで、日本国内の解説はおおむね「42」で統一されています [4][5]。共通言語を名乗る体系で数がちょっと揺れているのが妙に可愛い。引用するときは「42」を採るのが無難そうです。

■ 脱線終了

私が聞きながら鳥肌が立ったのは、この「全人的な問題リスト → 型化された介入 → アウトカム」という流れが、自分が直前に話したマルモのトライアングルと、骨格レベルで一致していたからでした。

2. たまねぎモデルとは ―― もう一人の候補

Claudeがもう一つ出してきた「たまねぎモデル(onion model)」は、ビュートゾルフのケア哲学を表したものです。中心に利用者本人(自己管理)を置き、その外側へ ①家族・友人・近隣(インフォーマルネットワーク)→ ②ビュートゾルフチーム → ③医療・専門職のフォーマルネットワーク と層を重ねる。内側から外側へ働きかけて本人を力づけ、できるだけ内側の層で問題を解く、という自立支援型の発想です [8]。創業者ヨス・デ・ブロック自身が「すべての仕事は利用者に奉仕するためにある」と語り、ICTもバックオフィスもこの中心を支えるために設計されている、と説明しています [9]。

これは単なる理念に留まりません。Commonwealth Fund のケーススタディでは、ビュートゾルフの利用者はケアに要する期間が短く、自立をより早く取り戻し、緊急入院が少なく、入院しても在院日数が短い傾向が報告されています。低コストである理由も、KPMG による患者背景を調整した分析で「患者の選り好みによるものではない」とされました [10]。各国での導入を概観したスコーピングレビューでも、本人・家族とのコミュニケーション改善や地域ネットワーク形成といった効果が確認されています(一方で自律的チーム運営の文化や制度との摩擦が課題) [11]。

「専門職を最後に置く」「まず本人とインフォーマルで手を尽くす」――これはマルモで私がいつも言っている「減らす前に立ち止まる視点」と、向いている方向が同じでした。

3. マルモのトライアングル(おさらい)

私の枠組みも三層です。

  • STEP1:拡張型Problem List ―― 診断名だけでなく、心理・社会・環境・本人の価値観まで含めて問題を棚卸しする。
  • STEP2:バランスモデル ―― 本人の能力(Capability)治療負担(Treatment burden)を天秤にかけ、今どちらに傾いているかを見る。
  • STEP3:四則演算 ―― 介入を「足し算(必要な治療を足す)」「引き算(減薬・脱処方)」「かけ算(レバレッジポイントで相乗効果を狙う)」「割り算(優先順位をつけ、職種で分担する)」の4つに整理する。

このSTEP2のバランスモデルを、私はずっと Stewart Mercer 先生らの『ABC of Multimorbidity』(2014)に出てくる「天秤」の図として引用・紹介してきました。能力(capacity)と治療負担(workload)が釣り合っているか――というあの図です。ところが今回オマハと並べているうちに、ふと「そもそもこの天秤、Mercer 先生が最初に言い出したものなんだっけ?」と気になってしまった。気になったら調べる。これが勉強ブログの宿命です。

■ 脱線してみる(バランスモデルの源流を辿る)

調べてみると、workload と capacity の釣り合いを「機構」として定式化したのは、Mercer 先生ご本人ではなく Cumulative Complexity Model(CuCoM/Shippee ら, 2012)でした [12]。workload は生活上の要求と医療上の要求(+治療負担)からなり、capacity は本人の資源と能力。両者の均衡が崩れて capacity が足りなくなると、治療を強化→さらに不均衡→悪循環、という、まさにあの天秤の図そのものです。

では CuCoM は何に立脚しているのかというと、さらに上流に Minimally Disruptive Medicine(MDM/May・Montori・Mair, BMJ 2009) という理念がありました [13]。「病いの負担」に対して「治療の負担(burden of treatment)」という概念を立て、日常生活のほうに治療を合わせよ、と宣言したのが MDM。その理念を臨床で動かすための“天秤の図”にしたのが CuCoM、という親子関係です [14]。

そして『ABC of Multimorbidity』(Mercer・Salisbury・Fortin 編, 2014)は、この MDM→CuCoM の系譜を臨床家向けにまとめ直した教科書だった [15]。つまり私が「Mercer 先生のバランスモデル」と呼んできたものは、出典を律儀に辿ると MDM(2009/理念)→ CuCoM(2012/天秤の図)→ ABC of Multimorbidity(2014/教科書) という三段重ねで、Mercer 先生は“天秤を臨床現場に届けてくれた紹介者”の位置だったわけです。10年近く使っておいて今ごろ源流に気づくとは、お恥ずかしい限り。でも、こういう「自分が当たり前に使っていた図の戸籍を調べる」作業こそ、いちばん身につく勉強だと思っています。

■ 脱線終了

治療負担そのものの測定研究も進んでおり(Tran らのタクソノミー、Boyd らの高齢多疾患患者の医療タスク困難度など)[16][17]、日本語版マルチモビディティ治療負担質問票(J-MTBQ)の妥当性も青木拓也先生らによって検証されています(私も末席で関わらせていただきました)[18]。

4. 重なり① ―― オマハ × トライアングルの「型」

まず本命のオマハシステムと、トライアングルの骨格を1対1で並べてみます(リハ・介護・福祉まで広げた全体像は、後ろの第8章の相互翻訳表にまとめます。ここではまず、オマハとの“答え合わせ”に集中します)。

マルモのトライアングル オマハシステム(看護)
STEP1 拡張型Problem List 問題分類(4領域・42項目)
STEP3 四則演算 介入分類(4カテゴリ)
期限つき試行・アウトカム志向 アウトカム評価(KBS・5段階)
職種を越えた共通言語 標準化された共通用語

行ごとに、診断名でなく全人的な問題リストから始める/介入を少数の型に落とす/「やった量」でなく「本人に何が変わったか」で測る/多職種が対等に持ち寄れる共通言語にする――という思想が、見事に対応しています。

特に最後の行が、講演の核と完全に重なりました。私が話したのは「『この薬、本当に必要?』を“医師個人への詰問”から“フレームに乗せたチームの問い”へ再定義する」ということ。オマハシステムは、まさにその共通言語を半世紀かけて作ってきた体系でした。

ただし、STEP3の四則演算とオマハの介入分類は、分類の軸が違うことには触れておきます。四則演算は「処方・治療をどの向きに動かすか(足す/引く/かける/割る)」で切り、オマハは「どんな看護行為か(教育/処置/マネジメント/観察)」で切る。1対1で対応するわけではありません。重なっているのは“介入を型化して言語化する”という発想のレベルで、ここが本質だと思います。

5. 重なり② ―― たまねぎ × トライアングルの「向き」

たまねぎモデルは、構造というよりベクトルでトライアングルと重なります。

  • 「専門職を最後に置く」= 四則演算の引き算。まず本人とインフォーマルで手を尽くし、過剰な専門職介入を“引く”。減薬だけでなく「関与そのものを減らす」発想です。
  • 「本人=中心」= バランスモデルのCapability側。治療負担を減らす(workloadを下げる)だけでなく、本人の自己管理能力(capacity)を底上げする。MDM/CuCoM が「capacityとworkloadの連続的な相互作用」と呼ぶものそのものです [14]。
  • 「家族・近隣の層を動員」= 社会的処方・レバレッジポイント。2層目を耕すことは、SDH(健康の社会的決定要因)への介入であり、かけ算(少ない労力で大きく効く点を突く)に対応します。

オマハが「トライアングルの骨格」と重なり、たまねぎが「トライアングルの向き」と重なる。役割がきれいに分かれるので、二つ並べても話は散らかりません。

6. 差分 ―― お互いが「足してくれるもの」

「同じ」と言っても完全な相似ではありません。むしろ違いに学びがあります。

マルモが足しているもの 治療負担を能力と明示的に天秤にかけるバランスモデル(MDM/CuCoM 由来)を、減薬・脱処方の意思決定の真ん中に据えていること。「減らす前に立ち止まる」という減算の作法も、マルモが前面に出している部分です。

オマハが足してくれるもの 42項目の標準化タクソノミーとKBSによる定量化・データ蓄積。マルモのトライアングルは概念枠としては明快ですが、可視化とデータ化が弱い。「アウトカムをコードで記録し、蓄積し、比較する」というオマハの強みは、そのまま借りたいところです。

たまねぎが足してくれるもの リソース動員の戦略と組織設計。本人→家族→チーム→専門職という層を、誰が・どう耕すか。さらに「中心(利用者)に奉仕するために組織を単純化する」という設計思想 [9] は、マルモカンファの運営そのものへのヒントになります。

7. 考察 ―― なぜ「全部マルモに見えた」のか

ここで一度、立ち止まって考えます。

そもそも、ビュートゾルフのオマハやたまねぎは看護の世界で半世紀かけて磨かれてきた体系です。いっぽうマルモのトライアングルは、総合診療医がひとり、外来と在宅の現場で多疾患の患者さんを前に考え続けた頭の中から出てきたものです。出自も、職種も、国も、年代も違う。本来なら交わらないはずの二つを、佐々木先生の一言をきっかけに並べてみたら、骨格(オマハ)も向き(たまねぎ)もぴたりと重なってしまった。これはなぜなのか。

ツッコミきれなかった理由は、たぶん共通の祖先があるからです。

■ 脱線してみる(さらに源流を一段掘る)

オマハシステムの問題志向は、もとをたどると Lawrence Weed の問題志向型システム(Problem-Oriented Medical Record/POMR、いわゆるSOAPの祖)に行き着きます。系統的レビューでも、オマハのモデルは「Weed の問題解決アプローチに基づく」と明記されています [7][19]。そして私のマルモの Problem List も、出発点は同じ Weed の問題志向です。

井戸はもう一本あります。「病いを生物・心理・社会の総体として診る」という Engel の生物心理社会モデル(biopsychosocial model, 1977) [20]。オマハの4領域(環境・心理社会・生理・健康関連行動)も、マルモの拡張型Problem List が心理・社会・環境まで拾うのも、この井戸からも水を汲んでいます。

先ほどのバランスモデルは「MDM → CuCoM → ABC of Multimorbidity」という戸籍でしたが、Problem List のほうは「Weed(問題志向)+ Engel(生物心理社会)→ オマハ/マルモ」という戸籍だったわけです。源流を掘ってみて初めて、なぜ別物のはずの二つがここまで似るのかが腑に落ちました。同じ二本の井戸から、看護(オマハ)と総合診療(マルモ)が、それぞれ別の桶で水を汲んでいた、というだけの話だったのです。

■ 脱線終了

別々に描いた地図が重なったとき、その重なった部分はたぶん本物です。看護が半世紀かけて42項目とKBSに結晶させ、ビュートゾルフが「中心は本人」という一行に凝縮し、MDM/CuCoM が「負担と能力の天秤」として理論化したものを、私はマルモのトライアングルという別の言葉で言い直していたにすぎなかった――そう気づけたのが、今回いちばんの収穫でした。独自だと思っていた枠組みの“親戚”が世界中にいた、というのは、悔しさより圧倒的に心強さのほうが勝ります。

8. 看護と総合診療が繋がったなら ―― リハ・介護・福祉にも“同じ井戸”があるはず

ここで欲が出ます。看護(ビュートゾルフ)と総合診療(マルモ)という、出自のまるで違う二つが同じ井戸で繋がっていたのなら、リハビリ、介護、福祉、栄養、薬剤……それぞれの職種にも、同じ井戸から汲んだ“その職種版のトライアングル”があるのではないか。だとすれば、面白いのは「どこが違うか」より「どこが同じか」を探すことです。

実際に見回してみると、もうあちこちにありました。

  • リハビリ・介護・福祉 ―― ICF(国際生活機能分類, WHO 2001)。心身機能・身体構造/活動/参加に、環境因子・個人因子を重ねる、生物・心理・社会モデルの統合です [20][21]。厚労省はその目的を端的に「“生きることの全体像”を示す“共通言語”」と説明し、リハの目標設定、介護認定調査・アセスメント・ケアプラン、福祉・教育まで領域を越えて使われています [22][23]。「全人的な問題リストを、職種を越えた共通言語で書く」という思想が、オマハともマルモとも完全に重なる。マルモの拡張型Problem List が「活動・参加・環境」を含むのも、結局は同じ井戸の水だからでしょう。
  • 社会福祉・精神保健 ―― ストレングスモデル(Rapp & Goscha, 1980年代〜)。病理ではなく本人の強みに焦点を当て、地域を「資源のオアシス」と捉え、本人を支援プロセスの監督者に置く [24]。これはビュートゾルフのたまねぎモデル(本人中心→家族・近隣→専門職)と、向きが完全に一致します。しかもこのストレングスの視点は、いまや看護領域にも取り込まれている [25]。職種の壁を越えて、同じ水が回り始めているわけです。
  • 栄養 ―― 栄養ケアプロセス。問題・原因・徴候/症状を一文で記述する構造(PES文)は、これもまた Weed の問題志向の末裔です。

こうして並べると、オマハ/たまねぎ/ICF/ストレングス/マルモは、それぞれの職種が自分の現場の必要から別々に掘った井戸でありながら、水脈――問題志向(Weed)、生物心理社会(Engel)、本人中心・自立支援(ストレングス)――を共有している。だとすれば、本当に価値があるのは、各職種の“方言”を一覧に並べ、その下を流れる共通の水脈を可視化することではないか。

南砺マルモカンファは、まさに多職種が一つの症例を持ち寄る場です。ここで「同じ一人の患者さんを、看護はオマハで、リハ・介護はICFで、福祉はストレングスで、医師はトライアングルで描いてみる」という実験ができるはずです。違う言葉で同じ患者を描いたとき、ぴたりと重なる部分(=水脈)と、ある職種にだけ見えている部分(=他職種の死角)が、くっきり浮かび上がると思うのです。

多職種フレーム相互翻訳表(トライアングル × オマハ × ICF × ストレングス)

共通の軸 \ 職種フレーム マルモのトライアングル総合診療 オマハシステム看護(ビュートゾルフ) ICFリハ・介護・福祉 ストレングスモデル社会福祉・精神保健
① 全人的な問題把握 拡張型Problem List(診断+心理・社会・環境・価値観) 問題分類 4領域42項目(環境・心理社会・生理・行動) 心身機能・活動・参加 + 環境/個人因子 ストレングス・アセスメント(本人と環境の強み)
② 力と負担のバランス バランスモデル(能力 ⇔ 治療負担) 明示の天秤はなし。KBSの行動・状態で本人側を評価 活動・参加の「実行状況/能力」+ 促進・阻害因子 エンパワメント(強み=能力を底上げ)
③ 介入の型 四則演算(足す・引く・かける・割る) 介入分類 4カテゴリ(教育/処置/ケースマネジメント/観察) 因子への働きかけ(環境調整・能力向上・参加促進) 資源の獲得(地域=資源のオアシス)
④ アウトカム・評価 期限つき試行/治療目標の整え直し アウトカム評価(KBS・5段階) 評価点でコード化 リカバリー(本人の望む生活の達成)
⑤ 中核思想(共通言語) 本人の生き方に治療を合わせる共通言語 標準化・全人的・アウトカム志向 「生きることの全体像」を示す共通言語 病理でなく強み/本人が支援の監督者
共通の水脈:問題志向(Weed, 1968)/生物心理社会(Engel, 1977)/本人中心・自立支援(ストレングス)。出自の違う5つのフレームが、この三本の水脈を共有している。

9. これからやってみたいこと

  • 南砺マルモカンファに「KBS」を持ち込む。症例検討のアウトカムを、知識・行動・状態の3側面で言語化してみる(→ 下で実際にやってみます)。
  • 多職種フレームの相互翻訳表をつくる。マルモのトライアングル × オマハ42項目 × ICF × ストレングスを一枚に並べ、訪問看護・薬剤・歯科・リハ・ケアマネ・介護・福祉で同じ症例を“それぞれの言葉”で記述してみる。共通言語どうしを翻訳すると、死角が見えるはずです(→ 下で具体例を)。
  • たまねぎの「層」をレバレッジポイント探しに使う。どの層に一手を打てば全体が軽くなるか、を意識して引き算を設計する(→ 下で具体例を)。

試しに①:KBSで症例アウトカムを書いてみる

KBSは、各問題について 知識(Knowledge:本人が何を知っているか)/行動(Behavior:本人が実際に何をしているか)/状態(Status:徴候・症状の数と重さ) を、それぞれ5段階で評点する仕組みです [5]。アンカーはおおむね次のとおり。

  • 知識 K:1 知識なし → 2 わずか → 3 基本的 → 4 十分 → 5 卓越
  • 行動 B:1 不適切 → 2 まれに適切 → 3 ムラがある → 4 おおむね適切 → 5 一貫して適切
  • 状態 S:1 極度の徴候・症状 → 2 重度 → 3 中等度 → 4 軽度 → 5 徴候・症状なし

たとえば、約10剤を内服しふらつきのある80代の方の「服薬管理」という問題を、初回と3か月後で評点してみます(※匿名化のため一般化した架空例)。

問題:服薬管理 初回 3か月後
知識 K(薬の目的を理解しているか) 2 わずか 4 十分
行動 B(適切に服薬・自己管理できているか) 2 まれに適切 4 おおむね適切
状態 S(ふらつき等の徴候・症状) 2 重度 4 軽度

介入はトライアングルでいう引き算(重複処方・眠剤の整理)+一包化+家族への説明。ここでKBSが効くのは、「うまくいった」で終わらせず 「K 2→4/B 2→4/S 2→4」と3軸に分けて書ける ことです。もし S(症状)だけ上がって K(理解)が2のままなら、「症状は取れたが本人の理解が追いついていない=再燃リスクあり」が一目で分かる。多職種で同じ患者を見るときも、誰の介入がどの軸を動かしたかを切り分けられます。マルモカンファの“その後どうなったか”を、この3軸で一行ずつ言語化していくのが、まず試したい第一歩です。

試しに②:同じ症例を、4つの言葉で書いてみる

相互翻訳表(第8章)の使い方を、具体的な“言葉”でやってみます。①と同じ、約10剤・ふらつきのある80代の方(多疾患、独居に近い、複数科通院、訪問看護が週1回、近所に親族あり)を、4つのフレームでそれぞれ書き分けてみます(※架空の一般化例)。

  • マルモのトライアングル(総合診療):拡張型Problem Listに〈心不全・糖尿病・膝の変形性関節症〉だけでなく〈服薬負担・転倒不安・通院負担〉を立てる。バランスモデルでは「治療負担(約10剤+複数科)が能力(高齢・ほぼ独居)を上回り、capacity不足」。四則演算で〈引き算:眠剤・重複の整理/割り算:受診の集約〉。
  • オマハシステム(看護):問題分類から〈服薬管理(#42)・身体活動(#37=転倒)・健康管理/受診行動(#41)・社会的接触(#6)〉を選ぶ。介入は〈教育(薬の目的)+ケースマネジメント(受診調整)+観察〉。アウトカムは①のKBSで記録(服薬管理 K2→4/B2→4/S2→4)。
  • ICF(リハ・介護・福祉):心身機能〈下肢筋力・平衡機能の低下〉、活動〈屋内歩行は自立だが屋外は不安=“実行状況<能力”のギャップ〉、参加〈通院・近所付き合いの制限〉、環境因子〈手すりなし=阻害/近所の親族=促進〉。
  • ストレングスモデル(社会福祉・精神保健):〈「自分で薬を管理したい」という意欲〉〈長年の生活の知恵〉〈近所の親族という資源〉を強みとして書き、本人を「どう暮らしたいか」の監督者に置く。

並べてみると、重なる部分――服薬・転倒・受診負担――は、どの言葉でも必ず出てきます。これが共通の水脈。いっぽうで、ある職種の言葉だけが拾う死角が見えてきます。

  • ICFの「屋外歩行は“できるのにやれていない”(実行状況<能力)」というギャップは、マルモのProblem Listだと見落としがち。=リハの言葉が拾う死角。
  • 本人の「自分で管理したい」という意欲・強みは、マルモ/オマハの“負担ベース”の記述だと前に出にくい。=ストレングスの言葉が拾う死角。
  • ストレングスとICFが拾う「近所の親族=資源」は、次の③のレバレッジポイントにそのまま繋がります。

同じ患者さんを4つの言葉で書くと、誰の言葉が何を見て、何を見落としているかが、こんなふうに浮かび上がる。これが相互翻訳表を“使う”ということです。

試しに③:たまねぎの「層」からレバレッジポイントを探す

たまねぎモデルは、レバレッジポイント(少ない一手で全体が軽くなる点)を探す道具にもなります。②と同じ80代の方を、今度は層で並べてみます(※架空の一般化例)。

  • 中心(本人・自己管理):毎日の服薬管理が大きな負担。
  • ①家族・近隣:近所に毎日顔を出せる親族が一人いる。
  • ②チーム:訪問看護が週1回。
  • ③専門職:複数科受診=ポリドクター。

状態が不安定になると、つい ③ を増やしたくなります(受診頻度を上げる、訪問を増やす)。でもそれは外側の層を厚くするだけで、本人のworkloadはむしろ増える。ここで層を眺めると、いちばん内側に小さな一手を打つ ほうが効くと分かります――中心に「一包化+本人用の服薬チェックリスト」、①に「親族の毎日の声かけ」。このふたつだけで、毎日の専門職フォローが不要になり、②③の負荷が一気に下がります。

四則演算でいえば、内側への小さな足し算(一包化・声かけ)が、外側の大きな引き算(専門職関与の削減)を生む=かけ算(レバレッジ)。「どこを押せば全体が軽くなるか」は、層に分けて眺めると見つけやすい。これがたまねぎモデルをマルモに取り込む具体的な使い方です。


不勉強で名前すら知らなかった体系に、自分のやってきたことの裏付けと、足りないピースの両方をもらいました。佐々木先生、貴重な“答え合わせ”の機会を、本当にありがとうございました。そして今回も、源流を辿るたびに脱線してしまいましたが、この寄り道こそが私の勉強の本体なのでお許しください。


文献

各文献に、本文中の番号([1]〜[25])と対応する形で直リンクと一言解説を付けました。

オマハシステム関連

[1] The Omaha System ― Overview(公式)
―― 体系の開発経緯・三層構造の公式概要。

[2] Omaha System(Wikipedia)
―― ANA承認・HL7/ISO整合など全体像の英語版概説。

[3] Martin KS. The Omaha System: A Key to Practice, Documentation, and Information Management (2nd ed., 2005), Health Connections Press.
―― 標準解説書(書籍)。書誌は公式サイト参照。

[4] NsPace「オマハシステムを徹底解説」(岩本大希)
―― 日本語で三層構造を平易に説明したインタビュー記事。

[5] The Omaha System ― Problem Classification Scheme(公式)
―― 4領域42項目の公式一覧。本文の42項目リストの出典。

[6] Monsen KA, et al. Feasibility of Integrating the Omaha System Data…(PMC3090219)
―― 15機関・約2900例の実証。1ケアプラン平均約4問題、介入は観察・教育が最頻。

[7] Topaz M, et al. The Omaha System: a systematic review of the recent literature. JAMIA 2014(PMC3912710)
―― 56論文の系統的レビュー。Weedの問題志向が起源と明記。

ビュートゾルフ/たまねぎモデル関連

[8] 「高齢化先進国からケア(福祉)先進国へ」(玉ねぎモデル解説)
―― 本人→家族→チーム→専門職の自立支援モデルの日本語解説。

[9] Buurtzorg: scaling up… Journal of Organization Design 2025
―― onion model と「integrating simplification(単純化)」の設計思想を論じた組織論文。

[10] Gray BH, Sarnak DO, Burgers JS. Buurtzorg Model. Commonwealth Fund 2015
―― 在院短縮・緊急入院減・低コスト等のアウトカムを検証したケーススタディ。

[11] Implementing Buurtzorg-derived models: a Scoping Review(PMC11080323)
―― 各国での導入25報をまとめたスコーピングレビュー。

バランスモデル/治療負担(MDM・CuCoM)関連

[12] Shippee ND, et al. Cumulative complexity(CuCoM). J Clin Epidemiol 2012;65(10):1041–51
―― workloadとcapacityの天秤を機構化した中核論文。バランスモデルの直接の出典。

[13] May C, Montori VM, Mair FS. We need minimally disruptive medicine. BMJ 2009;339:b2803
―― 「治療負担」概念とMDMを提唱した原典。

[14] Leppin AL, Montori VM, Gionfriddo MR. Minimally Disruptive Medicine. Healthcare 2015;3(1):50–63
―― MDMを包括モデルとして整理した論文。

[15] Mercer SW, Salisbury C, Fortin M (eds.). ABC of Multimorbidity. Wiley-Blackwell 2014
―― 臨床家向け教科書。第8章「Treatment Burden and Multimorbidity」でバランスを扱う。私が「Mercerのバランスモデル」と呼んでいた出典。

[16] Tran VT, et al. Taxonomy of the burden of treatment. BMC Med 2015;13:115
―― 治療負担の構成要素を多国籍調査で分類。

[17] Boyd C, et al. Healthcare Task Difficulty Among Older Adults With Multimorbidity. Med Care 2014;52:S118–S125
―― 高齢多疾患患者が医療タスクをどれだけ困難に感じるかを定量化。

[18] Aoki T, …, Oura M, et al. 日本語版MTBQ(J-MTBQ). Sci Rep 2025;15:25991
―― 治療負担質問票の日本語版開発・妥当性検証(青木拓也先生ら)。筆者は共著者の末席。

共通の源流(問題志向・生物心理社会)

[19] Weed LL. Medical records that guide and teach. N Engl J Med 1968;278:593–600
―― 問題志向型医療記録(POMR/SOAP)の原典。オマハ・マルモ双方の源流。

[20] Engel GL. The need for a new medical model. Science 1977;196:129–136
―― 生物心理社会モデルの原典。全人的アプローチの共通祖先。

ICF/ストレングス(リハ・介護・福祉)

[21] 厚生労働省「国際生活機能分類(ICF)日本語版」2002
―― ICFの定義。生物・心理・社会の統合と「共通言語」性。

[22] 厚労省 生活機能分類専門委員会 参考資料(大川)
―― ICFを「“生きることの全体像”を示す共通言語」と説明する資料。

[23] リハブクラウド「ICFとは|介護における考え方」
―― リハ・介護でのICF活用を日本語で解説。

[24] Rapp CA, Goscha RJ. The Strengths Model (3rd ed., 2011/邦訳 金剛出版 2014)
―― ストレングスモデルの原典(邦訳書誌)。本人の強み・地域=資源のオアシス。

[25] 日本看護科学学会「ストレングス」用語解説
―― 社会福祉発のストレングス概念が看護にも展開していることの解説。

(注:オマハシステムの問題数は公式・国内解説とも「42項目」。英語文献に「44」とする記載もあり、本文の脱線で触れました。引用URLは執筆時点のものです。)