南砺の病院家庭医が勉強記録を始めました。An archive of medical articles summarized by a family physician from Nanto Municipal Hospital.

An archive of medical articles summarized by a family physician from Nanto Municipal Hospital.富山県にある総合病院で働く病院家庭医です。勉強の記録を少しずつ書いていきます。

気候変動に対して医療者は何ができるのか(深堀り学習シリーズ)

気候変動に対して医療者は何ができるのか(深堀り学習シリーズ)

 

タイトルは今までのブログにはなかったテーマです。

南砺の病院家庭医がマルモと講演以外のことを書くのはかなり久しぶりです。

 

話はこのTwitterから始まります。

実は院内レクチャーのテーマは自分で好きなように決められるのですが,発表する予定だったMultimorbidityのスライドを作っていて,意外性がなさすぎて途中からテンションが下がってしまったのです。せっかくなら自分が今まで勉強したことがないものをテーマにして深堀りしてみたら新境地を開拓できるのではないか。

 

とレクチャー前日に思ってしまい1からスライドを作り直し,発表したわけです。

すると,総合診療以外の先生方やベテランの先生にも「今までこんなレクチャーは聞いたことがなかったけど面白い」と言っていただけました。

 

というわけで,このテーマで更に理解を深めていきたいと思います。

 

まったく勉強したことがないテーマだったので,この2つの座談会を中心に勉強してみました。

 

総合診療 31巻2号 (2021年2月) 55歳からの家庭医療 Season 2
明日から地域で働く技術とエビデンス・37 —「気候変動」と家庭医療—CLIMATE CHANGE and PRIMARY CARE藤沼 康樹 

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medicina 57巻8号 (2020年7月)
特集 真夏の診察室 座談会 沸騰する地球—気候変動に医師はどう立ち向かうべきか?
徳田 安春 , 平島 修 , 長谷川 敬洋
 

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この2つの総合診療系雑誌に取り上げられている方向性は,実は少しずつ異なります。
 
 
藤沼先生の論点は,CO2(カーボンフットプリント)を減らすためにプライマリ・ケア医の視点で何かすべきである。具体的には以下の事がプライマリ・ケア機能と相反しない取り組みではないか。

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平島先生・徳田先生の論点は,具体例として,生活衛生,産業衛生,都市型公害などを挙げて,環境問題には医師は昔から関わっていたが,徐々に原因が地球規模になり,医師との関わりがピンとこなくなっている。しかし,熱中症の拡大や感染症マップの変化などで,診断のための知識も気候によって変わってくることや,生活指導の様相も変化していることを例に,地球規模で考え,目の前の患者さんに対応しよう。(普段の診療に「環境問題」の味付けをしましょう)というものでした。

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個人的にはプライマリ・ケア医には藤沼先生の論考がピンと来ると思いますが,導入部分として平島先生や徳田先生の論考が補強されると,多くの医療者に問題提起できるのではないかと思いました。
 
大枠でいうと,平島先生と徳田先生のお話で,気候変動を医療にビルドインして(気候変動への適応のお話)
藤沼先生のお話で,そのあとに地球規模で気候変動に何ができるか考えよう(気候変動への介入のお話)という感じでしょう。
 
 
最初の導入として,このスライドをご覧ください。

日本は2015年のパリ協定において,2050年までに80%の温室効果ガスの排出削減を目指すと言っていました。実はコロナ禍の影響で世界の経済活動が停滞し温室効果ガスは減ったと言われていますが,経済活動を停滞させることが人類に良いことなのかというとそうではありません。まさにSDGs(Sustainable Development Goals:持続可能な開発目標)の考え方が重要になります。

 

 

WHOでも

Climate change and health 気候変動自体が健康問題である(WHO 30 Oct 2021 )

 という内容が紹介されています。

 

温暖化の影響の全体像は,気候変化が生態系に影響し,人間社会に様々な影響を与えるわけですが,この中でも健康問題への影響ぐらいは我々も気にかける必要があります。

 

https://www.env.go.jp/earth/ondanka/pamph_infection/full.pdf

 

健康影響では、気温が上昇して熱中症などが増加する「直接的な影響」と、気温や雨量などが変化することによって“感染症の4つの条件”が変わり、そのために感染症が増えるなどの「間接的な影響」とがあります。1988年に、国連環境計画(UNEP)と世界気象機関(WMO)が共同で、気候変動に関する政府間パネル(IPCC)を設立しました。世界中の科学者が、温暖化の現象、影響、対策に関する最新の科学的知見を収集し、報告書をとりまとめています。IPCCの報告はこちらです。

 

 世界各国の健康影響の特徴もまとめられています。

アジアはやはり感染症なのですが,他の地域の問題も他人事ではありません。

 

 

 
気候変動は健康問題であるということは,医療者としては認識しておくべきだと思います。こちらの図表もイメージしやすいので紹介します。
 
 

このスライドの下にある機構に影響する健康リスクの一覧に,
異常気象による負傷と死亡,熱関連疾患,呼吸器疾患,水関連感染症,人獣共通感染症,ベクター媒介感染症,栄養失調と食中毒,循環器疾患,メンタルヘルスと心理社会的健康,医療施設や医療制度への影響
とあると,我々の診療にダイレクトに響いてくる問題であることが分かると思います。
 
 
これはWHO以外でも取り上げられており,米国喘息アレルギー財団でも似たような図が紹介されて,呼吸器内科でも注目されていますし,

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循環器領域のポスターもあるほどです。

多様な健康問題にかかわる気候変動ですが,そもそも気候変動の何が問題なのかというと,その気温上昇が生物が耐えられるペース以上に起こっていることが問題だと考えると分かりやすいです。

ここに熱中症と感染症が取り上げられています。
 
熱中症で死亡する患者は年々増加しています。
1995年に国際疾病分類の変更に伴う死亡診断書作成法改定で急増しましたが,その後も徐々に増加していますし,真夏日と呼ばれる日も年々増えています。
救急に関わる医師も気候変動の影響を受けていると言えますし,高齢患者さんに「夏場は涼しくしてください」と言ったことのある方は多いのではないでしょうか。みなさんは無意識に気候変動を意識した診療をしているのです。
 
また災害と感染症も問題です。

台風による洪水や,ゴミの増加などでネズミが増えたり,鼠咬症が増えることも起きています。バンコクでも気候変動の影響でごみ問題,浸水被害が取りあげられています。

また,被災地の撤去作業中に古釘を踏んでしまい破傷風になるのも環境の被害ともいえます。避難所で感染症にかかるのもいわば環境の被害と言えます。建物を解体する際にアスベストの使用を確認する事ができなければ,健康被害を受けるかもしれません。

もちろん,気候変動により生態系が変わり,感染症の分布も変わるかもしれません。

特に下表の黄色のところは日本でも意識しなければならない疾患です。(もちろんそれ以外も知っておかなければならないのですが,環境の影響があるという意味です)

https://www.env.go.jp/earth/ondanka/pamph_infection/full.pdf


中でもリフトバレー熱とハンタウイルス感染症は気候変動の影響を大いに受けるので雨量の多い時期には特に注意です。

日本の近海でも、下痢・腹痛や皮膚疾患、壊死などを起こすおそれのあるビブリオ・バルフィニカスという菌がいます。この菌は、海水表面温度が20℃以上になると検出率が増加するのですが、この20℃の北限線が、近年北上しています。

8月の海面水温20℃線と ビブリオ・バルフィニカス症の発生地域

下図左は、1950年からヒトスジシマカ確認地点と、年平均気温11℃以上の地域を示したものです。下図右では、分布が次第に北上している様子がみてとれます。温暖化やヒートアイランドなどで年平均気温が11℃以上になる地域が今後も増えると、ヒトスジシマカの分布が一層北上する可能性もあります。(ちなみにデング熱の媒介蚊として最も知られているネッタイシマカですが,デング熱の大部分はヒトスジシマカによる流行であったとも考えられています。2002年にはハワイで小規模なデング熱の流行が起きましたが、この流行もヒトスジシマカによるものでした。)

このように,暑さで昆虫や動物も適切な環境を求めて移動し,生息域が変わることでこれまでいなかった感染症を引き起こすのです。10年後は今と異なる感染症が猛威を奮っているかもしれません。

 

 もう一つ,シガテラ中毒も興味深いです。

シガテラについて/沖縄県

シガトキシンは、海藻や岩礁に付着する有毒の小さな藻類(渦鞭毛藻:うずべんもうそう)が産生します。この有毒の小さな藻類が付着した海藻などを藻食性の生物(魚類、ウニ、カニなど)が食べ、さらに肉食性の魚類が藻食性生物を食べるという食物連鎖によって、シガトキシンが伝搬、蓄積されます。シガトキシンを多量に蓄積した魚をヒトが食べて食中毒となります。

https://www.pref.okinawa.jp/site/hoken/eiken/kagaku/documents/shigaterapannfu.pdf

有名な症状にドライアイスセンセーションというものがあります。

水に触れた時にビリビリした感じがあるとか,クーラーの冷気が痛みとして感じるなどです。

ドクターGの徳田安春先生の回でも紹介されていましたね。

しかも,偶然ですが,こちらの徳田先生も最近取り上げておられました。

総合診療 31巻6号 (2021年6月)

特集 この診断で決まり!High Yieldな症候たち—見逃すな!キラリと光るその病歴&所見 【CASE】 ⑮ ドライアイス・センセーション 徳田 嘉仁

⑮ ドライアイス・センセーション (総合診療 31巻6号) | 医書.jp

 

脱線しましたが,シガテラも沖縄や鹿児島で発生しているイメージでしたが,本州沿岸でも発生しています。肉食魚で、藻食魚によるシガテラの発生はまれなようですが,温暖化が進めばサンゴ礁が北上するかもしれません。

 

(以下引用)

日本におけるシガテラは、平成元年~22年の間に、毎年1~8件、合計78件の届出がなされています。 原因魚種は、バラハタ(16 件)が最も多く、次いでイッテンフエダイ(12 件)、バラフエダイ(11 件)となっていま す。また、発生都道府県は、沖縄(70 件)が最も多く、次いで鹿児島(3 件)となっています。近年は、これまでに例のなかった本州沿岸で採捕された魚類が原因のシガテラが発生しています。これらの魚類のほとん どは肉食魚で、藻食魚によるシガテラの発生はまれです。

https://www.fsc.go.jp/sonota/factsheets/factsheets_ciguatera_131216.pdf

 

また令和2年の環境庁の気候変動影響評価報告書では

海洋プランクトン由来の食中毒であるシガテラ中毒は、近年、亜熱帯地域だけではなく、(日本 の本州、四国、九州地域を含む)温帯地域でも報告されており、原因物質シガトキシン類を生産する渦鞭毛藻の生息域が北上していることが推測されている。これまでは熱帯地域で発生していたかび毒アフラトキシンによるコメの汚染が国内で発生する可能性も実験により明らかとなっている。543027)

https://www.env.go.jp/press/files/jp/115262.pdf

この報告書を読んでしまうと, もはやなんでもありだなと思ってしまいます。

 

話を戻しますと,気候変動を意識した生活指導は,皆様もされていると思います。

例えば以下のようなものです。

夏場に利尿剤を減らすというのも気候を意識したものですし,水分を取るように,運動を控える,熱中症対策はまさに気候変動を意識した医療です。

そして,地球温暖化が温室効果ガスの影響で起きているのであれば,人間もまたその恩恵を受けているのです。代表的なものは自動車です。自動車にばかり乗っていて運動不足になり,生活習慣病になっている方は,そもそも人類の生産活動の結果そうなっているのかもしれません(そう考えると,個人を責めるというよりも人類の生産活動の結果そうなっているだけで,患者さん個人を責めなくなるかもしれません。たまにこういう視点を持つことで,患者さんに柔軟な対応ができることもあります。)

そんなに簡単に世の中は変わらないと思われるかもしれませんが,意外と世の中って変わっているんです。例えば,昭和の電車内では普通に喫煙されていましたし,吸い殻を入れる下皿が電車の中にあったのです,今では考えられない変化です。

最近では,新型コロナ対策として,ワクチンやマスク・三密回避など随分浸透していると思います。世の中の流れがそうなっているとも言えますが,ちょっとした外来の一言で,患者さんが影響を受けていることもあるわけです。なので,環境についても医師がちょっと知っていることをお伝えするだけで,世の中の流れを少し変えることができるのかもしれません。

実は,医師にできることとして「Physician Action Guide」というものがあります。

通勤は歩くか自転車,肉の消費を減らそう

など具体的な取り組みがありますが,これは医師としてというよりも人としての取り組みかもしれません。(肉の中では鶏肉が最も飼育中にCO2を出さないらしいですが,肉を絶対食べないというのも難しいことですね)

 

患者さんに何でも禁止するというよりも,「知らないよりは知っていたほうが良い」という感じで知識をお伝えするだけで,いざ世の中が変わった時に対応できるようになるのではないでしょうか。何事もバランスが大事です。

実は英国家庭医学会 (Royal College of General Practitioners)でも紹介されています。

https://www.rcgp.org.uk/policy/rcgp-policy-areas/climate-change-sustainable-development-and-health.aspx

GPの役割

GP や看護師は、真実を伝えることで最も信頼される専門家です。気候と生態系の危機に対する行動を、患者と公衆の健康を改善する機会と捉えることで、一般の人々の行動意欲を高めることができます。私たちの模範となるような行動をとることで、健康的で持続可能な生活を促進し、二酸化炭素の排出量を削減することができます。

 

一般診療のカーボンフットプリント
一般診療所のカーボンフットプリントのほとんどは、その臨床活動によるものです。処方は一般診療所のカーボンフットプリントの60%以上を占めています。処方の大部分を占めるのが定量噴霧式吸入器(二酸化炭素の3,000倍の温室効果ガスを含む推進剤を使用することができる)です。優れた臨床実践は、高品質でありながら低炭素であることが可能です。BMJ誌の短い記事では、環境に優しく、より良いプライマリーケアに向けて、GPができる6つの行動を提案しています。その例は以下の通りです。

  • 不健康の予防(例:健康格差の是正、持続可能な食生活、アクティブ・トラベル、ソーシャル・プリスクリプション、コミュニティ・ヘルスの構築、燃料貧困への対応)。
  • 害と無駄の削減(例:過剰診断の削減、有害なポリファーマシーの回避、予定外の入院を防ぐための協力的なケアプランの使用など)。
  • 患者の力を高め、自己管理を向上させること(意思決定の共有、個人を中心としたケア、グループコンサルテーションなど)
  • 低炭素医薬品の処方(例:必要に応じて定量噴霧式吸入器(MDI)ではなくドライパウダー(DPI)の使用)
  • 患者やスタッフの不要な移動を避け、最適なケアを提供すること

Aarti Bansal and Grant Blashki: Six steps to both greener and better primary care - The BMJで取り上げられている6つは

  1. Prudent Prescribing 慎重な処方 
  2. Responsible Referrals責任ある紹介 
  3. Connecting communitiesコミュニティをつなぐ
  4. Identifying inequalities不平等の解消
  5. Empowering patients患者さんのエンパワーメント
  6. Respected Role-models/Role-modelling尊敬されるロールモデル/ロールモデリング
です。詳しくは本文をご覧ください。

非医療職のカーボンフットプリント
非医療職のカーボンフットプリントのほとんどは、患者やスタッフの移動によるものであり、次いでエネルギー使用とサービスの調達によるものである。www.gpcarbon.org には、一般診療所向けの簡単で迅速に使用できる無料の炭素計算機がある。実行可能なアクションの例は以下の通りです。

  • 不必要な患者やスタッフの移動を減らす
  • アクティブ・トラベル(徒歩、自転車)の促進
  • エネルギー使用量の削減
  • 再生可能なエネルギー源への切り替え
  • 持続可能な商品やサービスの選択
 
ここにカーボンフットプリントという言葉が出てきました。

これはある製品における原料の生成から廃棄に至るまでのライフサイクル全体で、大気中に排出された CO2などの温室効果ガスの重量を算出した指標のことで環境経済学の領域で世界的に研究されています。

日本のヘルスケア領域でもカーボンフットプリントの研究はされています。

Carbon footprint of Japanese health care services from 2011 to 2015 - ScienceDirect

 

 

要点をまとめると

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 このように医療のさまざまなところでCO2は生産されているわけです。


ここで先程の藤沼先生のまとめが活きてきます。

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すなわち
①通院における患者の移動手段を見直す 
  • 自動車・交通機関の利用→徒歩や自転車を推奨
  • 遠隔診療システムの活用
  • プライマリ・ケア機能の分散化
  • 身近なところに健康相談ができるリソースがあることを目指す
  • 薬局や鍼灸院、 スーパーマーケット等への臨床推論を学んだ高度実践看護師の配置なども考慮
②入院を未然に防ぎ,外来・在宅診療を推進する
  • 外来・在宅診療の質向上と一致
  • 往診には、電気自動車(水素自動車)を使用
  • 通院期間を延ばすことも有用
③気候変動に関与する地域の健康問題に地域全体で取り組む  
  • 気候変動は温暖化だけでなく,気候の極端化(巨大台風,寒暖)をもたらし,熱中症・心臓疾患・脳血管疾患のリスクを上げる。
  • リスクのある地域住民をピックアップして,地域で対策を。
  • 英国では「燃料貧困(fuel poverty)」(収入の 10%超が燃料費)への取り組み。

環境にも配慮した処方をする 

  • 「ポリファーマシー」や「残薬問題」は、それらのカーボン・フットプリントを考えると、実は気候変動問題である。
  • 温室効果ガスを含む「吸入薬 (インヘラー)」の見直し
  • 薬剤ではなく「社会的処方」を考慮する
  • 鍼灸(お灸はダメかも)やマッサージなどの「相補代替医療」の再評価

 ⑤気候変動が健康問題であることを医療者に教育する

  • 気候変動が健康問題であるという認識は、まだ薄い
  • ヘルスケアの担い手である医療者への教育に組み込む
  • 気候変動に取り組む他業種と連帯することも大切
 
という先程のRCGPやBMJでも紹介されている取り組みこそ,医療従事者は取り組んだほうが良いのではないかという論考でした。
 
実は,RCGPではRCGP気候ネットワークというものが紹介されています。

これはThe Climate Emergency Advisory Group (CEAG)というRCGPのSpecial Interest Groupです。

RCGPを国内および学部レベルでサポートすることを目的としており,総合診療コミュニティが気候と生態系の緊急事態(CEE)に対して意味のある行動をとれるようにすることを目指しています。持続可能性を、カリキュラム、政策、ガイドライン、研究、実践など、システムのすべての部分に統合することを目指しており,私のようにただブログに書くだけよりも遥かに実践的なことをしています。

 

また,同Webサイトには健康のためのGreen Impact forHealth(GIFH)ツールキットというものが無料で使用できます。

これは一般的な診療所の環境の持続可能性と質を向上させるだけでなく、コスト削減にもつながる100以上のアクションが掲載されています。二酸化炭素の発生を抑制する戦略の多くは、健康にも貢献します(例:よりアクティブな移動が大気汚染を軽減する)。「自分の診療所では何ができるのか」という質問に答えています。

https://www.greenimpact.org.uk/giforhealth

 

 また,NHSのまとめでも具体的にどのようなことをすべきかがまとめられています。

Climate change and air pollution 

 

実は医師だけでなく看護師さんも取り組んでいます。

日本看護協会訳

看護師,気候変動と健康 Nurses, Climate Change and Health

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https://www.nurse.or.jp/nursing/international/icn/document/policy/pdf/shakai-20.pdf

ほぼ同じことを述べていましたが,そもそも看護師さんの数を考えてみると,その影響力は大きいと思います。みなさんの団体でどのような取り組みができるのかを考えてみると面白いと思います。

 

ここまでが大枠でいうと,平島先生と徳田先生による気候変動を医療にビルドインしようといういわば気候変動への適応のお話と,藤沼先生によるそのあとに地球規模で気候変動に何ができるか考えようという気候変動への介入のお話でした。
 
ここからは私の考えであり,環境問題を勉強したての人間の与太話として聞いてください。
 
確かに,人類の持続可能な開発は重要ですし,健康問題にも取り組むべきです。 
しかしながら,何十年後の地球のことを考えて行動するというのはどうしても現実的ではありません。ピンとこないのです。
 
実は一方で,地球の歴史でみると人類誕生というほんの一部しか関わっていないもののせいで起こっているという見かたもあります。地球の歴史を1年に換算すると,人類が存在しているのは12月31日のラスト10時間程度と言われています。
 
第1章 地球カレンダー
もちろんその間に,気候変動は何度も起こっています。
 
このブログに興味深い年表があります。
45億年の規模で考えると,現在は代4氷河期中の氷期にあるそうです。昨今の変化は氷期の中の劇的変化であり,スコールのような豪雨に備える必要があるとも言えます。ですが,この表ではこれまでの記録をつけているだけに過ぎず,今後どうなるかの予想はできません。
 
ただこの先,温暖化が進むのは人類による生産活動であることは言うまでもありません。人類が地球に余計なことをしないように取り組むことも大事なことですし,大きな影響はどこから起こるかわからないという見方もできるのではないかと思います。
 
45億年ではピンとこないかもしれませんので過去80万年の南極の気温変動をみてみましょう。このデータは、南極氷床の過去につくられた氷(氷床コア)を分析し復元(推定)したものです。気温が顕著に高い間氷期の間隔は約10万年であり、長期スケールの氷期と間氷期の繰り返しが明瞭にみられます。この気候変動の原因は、地球の自転軸の傾きや地球が太陽の周りを回る軌道が周期を持って変動することによって生ずる2万〜10万年スケールの北半球夏季の日射量変動と密接に関係していることがわかっています(この周期変動をミランコヴィッチサイクルといいます)
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詳細な変動機構の説明は割愛しますが、この日射量変動がきっかけとなり気温が変化し、気温変化 → 氷床や二酸化炭素(CO2)濃度の変化 → 気温変化というように気温変化の増幅を繰り返しながら、気候が遷移したと考えられています。また、氷期から間氷期に遷移するときの気温上昇は、20世紀後半から起きている気温上昇と異なります。たとえば、今から約2万1000年前の最終氷期から次の間氷期に遷移する約1万年間での4〜7℃の全球気温上昇に比べて、20世紀後半から起こっている気温上昇速度は約10倍も速いのです。以上のことからわかるように、ミランコヴィッチサイクルに起因する気候変動では、今も続く現代の温暖化の傾向を説明することができません。

 

これを10万年周期問題というのですが,地球は10万年周期で気温変化を繰り返しているのですが,やはり20世紀後半から起こっている気温上昇速度は過去1万年の上昇スピードの10倍早いそうです。そう思うと,地球に申し訳ない気持ちがしませんか?少しでも申し訳ないなという気持ちが芽生えたならば

 

①日々の診療に気候変動のことを意識しよう

②二酸化炭素を出さない医療とはどのようなものか考えよう

 

ということになります。

最後は情に訴える形になりましたが,結構勉強になりました。

最後まで読んでいただきありがとうございました。