12/4はとても勉強になる一日でした。
臨床推論の祭典でありDGPL 2021にも参加して
途中から適々斎塾の家庭医療学ドリルの佐藤健太先生と藤沼康樹先生のご講演を同時上映しながら
18時から行われるこの勉強会のスライドを作成しておりました。
病鍼連携連絡協議会という団体からの講演依頼でした。
もう頭の中が,診断学と家庭医療でごちゃごちゃになった状態での他流試合です。
(講演後に知ったのですが,この会は鍼灸の流派もバラバラな方々が「病院や開業医との連携を深めることが大事である」という共通認識をもって参加しているという,参加者側のバックグラウンドも若干違っている会でした。)
鍼灸師さんしかいない勉強会でお話するのは初めで,どのぐらい詳しくお話すればいいのか事前の調査も難しかったのですが【①鍼灸師がプライマリ・ケア機能を果たすためにどのようなことを知っていればいいのか】【②鍼灸師が医師と良好な関係を築くために何をすればよいのか】という視点で,前回の適々斎塾での講演にグループディスカッションをつけて,整形外科マルモの症例を用意するという作戦となりました。
3時間の講演で時間が大幅に余るかなと思っていましたが,まさかの症例3つ用意していたものが2つしか紹介できず,しかも9分オーバーするという大盛りあがりな講演となってしまいました。
どんな症例が盛り上がるのかなと思いながら,自分の経験したものをアレンジしていたのですが,こういう問いで盛り上がってくださり,google slideにまとめたディスカッションもそのまま何かに使えそうな有意義な内容になりました。
皆さんはこれを見た上で,鍼灸師の役割は何だと思いますか?
・奥さん,介護の仕事をしているようだが,なぜ仕事を続けているのか?
・腰が痛いのに,なぜ内科にいったのか?診察はしないのか?精密検査はしないのか?
・そもそも痛み止めを出すだけでいいのか?整形外科に行くべきでは?
・医者には本音が言えないので,どのような気持ちだったのか共感して傾聴したい。
・薬がほしいのではなく,痛みをとってほしいのだろう。
・服薬をしたくない人が鍼灸を訪れる。鍼で痛みがなくなって病院にいかなくなるのが怖い。病院にも受診してもらいたい。
・難しい言葉をわかりやすく説明するのが仕事。患者の理解度を確認したい。
・病院の先生のお話をフォローするのが仕事。
・ドクターにどう聞いたらいいのかをアドバイスする。
・この薬はなぜ飲まなければならないのかを確認する。
・医者は慢性腰痛診療ガイドラインに基づいて診断しているのだろうか。
・患者が病状をどう認識しているのか。薬だけがほしい理由は?
・医者のことを悪く言わない事が大事。医者がどう説明していたのかの理解度を確認する(テコの原理とか,わかるのだろうか)
・痛みが出ないような生活指導をする。
・痛みの悪化の原因を問診と診察で確認する。
・筋肉量や体力の確認,スクワットができるか,介護の仕事が遂行できるか
・どうやったら減量できるかのような生活指導。
こんな感じで活発な小グループディスカッションが進みましたが,私の講義の目標は
①鍼灸師がプライマリ・ケア機能を果たすためにどのようなことを知っていればいいのか
②鍼灸師が医師と良好な関係を築くために何をすればよいのか
でした。
ではこのディスカッションでその目標は達成できたのでしょうか。
私がそういうディスカッションになるような仕掛けにしたせいでもあるのですが,身内同士でしゃべるとどうしても身内贔屓してしまうのが伝わってしまいました。すなわち,鍼灸師の立場でコメントをすると,どうしても【医者は悪い】【どうしたら鍼灸師のことを分かってもらえるんだろう】【患者さんの理解者は自分たちだ】というスタンスになりがちです。もちろんそういう意見ではない方もいらっしゃいましたが,文字にしないところでそういう印象をうける発言もありました。
ですが,これは家庭医にもあてはまるんですよね。
【臓器別専門医が悪い】【どうしたら家庭医が認められるんだろう】【患者さんのことを家族も含めて理解しているのは家庭医なんだ】だと全く同じです。そしておそらく他の職種でも,【○○が悪い】【どうしたら私は認められるんだろう】【患者さんを理解しているのは私だけだ】という主張になってしまうのかもしれません。形だけまとめるときれいな病携が取れそうな気がしますが,やはりどこかでそういうニュアンスを生んでしまいます。
もちろん,悪気はないのだと思います。例えばSNSなどで臓器別専門医のことをリスペクトすることが大事と言いながら,家庭医のことを悪く言われたり対立構造になっているディスカッションは時々目にします。これぞ,信念対立なのでしょう。
だからこそこの講演を通じて,関係性を作る大前提の「どうやったらお互いが気持ちよく連携できて患者さんを中心に考えられるのか」という視点でフォローのコメントをいれながらまとめていくことを意識していました。
なお,このシナリオはバランスモデルに合わせると,このような感じになりました。
(鍼灸師さん向けの勉強会なのでだいぶ寄せた感じにはなっていますが,実際に地域の鍼灸師さんを紹介しているので完全にフィクションというわけではないです)
なんだかうまいことまとめていますね。
ですが,やはりこの【鍼灸】の部分を【家庭医】にしたら,家庭医療の勉強会ではしっくり来るんだろうなと思えてきました。つまり,鍼灸師も家庭医も自分たちで声を大にしないとさっぱり周知されないという段階なんでしょうね。
今回の講演で私自身も,色々考えさせられました。どうしても人は聞きたいように聞き,見たいように見るのです。実際の臨床に活かすとなると,その周りの環境が人によって違う限りなかなか実践に活かせないかもしれません。そんな中で,やりっぱなしのレクチャーをしてしまったのではないかと反省が残りました。
ちなみに反応はよく
個別の感想も上々でした。
やはり講義で知ってもらいたい目標が,受け手側に反映されていないということがあるのだなと感じています。
個人的にはレクチャーの達成目標は
①鍼灸師がプライマリ・ケア機能を果たすためにどのようなことを知っていればいいのか→何となく分かってもらえた
②鍼灸師が医師と良好な関係を築くために何をすればよいのか→なかなか難しい
という感想でした。
懇親会がなんと2時間もあり,5時間ぶっ通しでお話させていただきました。
プライマリ・ケアの先生方ととても良く繋がっておられて,お互い理解し合っているのではないかと思う一方で,習ってきた学問体系が違うため,何を大事にしているのかはもっと話し合いが必要なのではないかとも感じました。
一つ言えることは,家庭医がプライマリ・ケア機能を果たすために,ドラッグストアで薬剤師が健康相談に乗ったり,街の健康相談所のようなところで看護師が活躍するのと同様に鍼灸師はなくてはならないリソースであって欲しいのですが,これらのことなる職種だけでもどうやってプライマリ・ケア機能を果たせば良いのかという学習の機会が必要ということでしょう。
今後もこのような機会があれば,是非連携を深めていきたいと感じました。
貴重な機会をいただき,誠にありがとうございました。
(一部宣伝)
過去のブログで鍼灸と家庭医療の親和性についてまとめておりました。
もしお近くにそういう鍼灸院があるかを調べたければ
こちらのマップをご覧ください。
(そのうち北陸にも認定施設ができるかもしれないとのことでした。楽しみですね。)