南砺の病院家庭医が勉強記録を始めました。An archive of medical articles summarized by a family physician from Nanto Municipal Hospital.

An archive of medical articles summarized by a family physician from Nanto Municipal Hospital.富山県にある総合病院で働く病院家庭医です。勉強の記録を少しずつ書いていきます。

第18回秋季セミナーでご質問をいただきました。

第18回秋季セミナーでご質問をいただきました。

 

※今回は論文紹介ではありません。

第18回秋季セミナーでこのようなご質問をいただきました。

 

過日は、第18回秋季セミナーにてセッションをご担当くださり、誠にありがとうございます。
受講者から下記の通り質問を頂きましたので、大変お手数ですが、回答をいただきますと幸いです。
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貴重なお話ありがとうございました。非常に勉強になりました。
multimorbidityの研究はself-reportedの情報をベースとしたものが多く、実際の普段の診療で見ているたくさんの疾患の何を含めてよいのか、悩むときがあります(心疾患ならすべて含めるのか?もともとの研究ではどのような疾患を選択していたのか?術後の悪性腫瘍など既往疾患の取り扱いなど)。multimorbidityについて多くの研究が行われておりますが、診療録をベースとして疾患について考えるときの、医療者側の情報(主に診療録)をベースとした行われた研究で、お勧めの論文があれば教えて頂けますでしょうか。また大浦先生の考え方も参考に、教えて頂けますと助かります。
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この質問者の方はある程度Multimorbidity関連の論文をご覧になっておられるとお見受けいたしました。その上での実践的なところまで聞いていただけるなんて,私では満足できるような回答ができないかもしれませんが,頑張って回答させていただきます。

 

以下回答

素晴らしいご質問を頂きありがとうございます。

ご指摘の如く,Multimorbidityの研究はself-reportedの情報をベースにしたものが多いです。最近のもので代表的なものは,

Australian Institute of Health and Welfare 2021. Chronic condition multimorbidity

 

のレビューなどでしょうか。

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Classification of multimorbidity types in this analysis

Chronic conditionsは、関節炎、喘息、背中の問題、癌、選択された心血管疾患、慢性閉塞性肺疾患、糖尿病、慢性腎疾患、精神的および行動的状態、骨粗鬆症の10の主要な慢性疾患グループで定義されており

身体システムは,循環器系(選択された心血管疾患),内分泌、栄養および代謝(糖尿病),泌尿生殖器(慢性腎臓病),悪性新生物(癌),筋骨格系(関節炎,背中の問題,骨粗鬆症,心理的(精神的および行動的状態),呼吸器系(喘息,COPD)に分類されています。

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質問者様の言うところの,「心疾患は何が含まれる?」「悪性腫瘍は既往も含む?」というのも,心疾患は選択された心血管疾患のくくりで「狭心症,心臓発作,その他の虚血性心疾患,脳卒中,その他の脳血管障害,浮腫,心不全,動脈・細動脈・毛細血管の病気」とされていますが,不整脈がないようだが洞不全症候群や心房細動はどうなのかと言われると,個人的には心疾患に含めてもよいのではないかと思います。

 

悪性腫瘍については既往も含めると考えて良いでしょう。悪性疾患は完治したとしてもがんサバイバーとして精神的なサポートも必要でしょうし,今後の定期的ながん検診などのフォローアップも非がん患者よりは感度を上げて関わっています。

 

他の既往疾患,たとえば幼少期の気管支喘息で現在は無治療で発作なしの状態などの取り扱いでは自記式ではカウントされていないかもしれまん。とはいえ,医療記録に記載されていれば個人的にはカウントしてもよいのではないかと思います。Multimorbidityは「疾患の変遷を記載した物語」だと思います。幼少期の病体験が現在に反映されていると思いますので,まったくカウントしないと言うよりは「幼少期は喘息で病院にかかっていたことのある方」ということでカウントはしますが中心の疾患パターンではないという捉え方です。

もう一つの質問である「診療録をベースにした研究でおすすめはありますか?」

ですが,Priorities and preferences for care of people with multiple chronic conditions
Mieke Rijken,Health Expect. 2021 May 3. PMID: 33938597

は比較的新しい研究で,ICPC-2を元にした診療録のデータと患者の自記式アンケートを組み合わせています。

・Multimorbidityの介入方法としてどのような項目があるのか

・患者さんや介護者はどういう事を期待しているのか,それにパターンがあるのか

・すべての患者に同じような対応をしていないか。患者の価値観を探る時に鍵となるポイントはあるのか。

・多疾患併存を見る時に,どういう事を意識すればよいのか

・多疾患併存ケアを構成する16の要素は何か,5つの主要要素は何か

ということがまとめられているので,全体像を把握しやすいと思います。

この介入方法はIntegrated Multimorbidity Care Model ;IMCMと呼ばれているようです。統合的多疾患併存ケアモデルとでも訳すのでしょうか。ご覧いただければ幸いです。

これは私のブログでも紹介していますので,ご覧いただければ幸いです。

https://moura.hateblo.jp/entry/2021/05/05/031910

 

この研究の参加基準は、(a)18歳以上であること、(b)561の慢性疾患のリストから少なくとも3つの疾患を持っていることです。ICPC-2から抽出した慢性疾患リストをオランダのGPでまとめたもののようです。結局このリストの中に管理疾患がある方を対象にしていますので,カルテベースとも言えますが,結局は自己申告の要素もあるかもしれません。釈迦に説法かもしれませんが,ICPC-2の論文も添付します。ICPC-3を利用したMultimorbidity研究もあるかもしれませんが,調べきれておりません。

O’Halloran J, Miller GC, Britt H. Defining chronic conditions for primary care with ICPC‐2. Fam Pract. 2004;21:381‐386.

 

疾患数の研究が多いですが,疾患数意外の尺度でMultimorbidityを測定した研究のシステマティックレビューもありますし,精神疾患は診断基準を規定したものもありますし参考になれば幸いです。

Measuring multimorbidity beyond counting diseases: systematic review of community and population studies and guide to index choice
Lucy E Stirland. BMJ. 2020; 368: Published online 2020 Feb 18. doi: 10.1136/bmj.m160

PMID:32071114

これもブログにまとめていますので,参考になれば幸いです。(宣伝ばかりですいません)

https://moura.hateblo.jp/entry/2020/10/03/145730

 

最後の「実際に何を含めているか」ですが,疾患パターンの中に当てはまらないものはプライマリ・ケア疾患のメジャー疾患ではないのではないかと思います。

 

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このようなプロブレムリストでプライマリ・ケアで遭遇する疾患はほぼ網羅できていますが,判断に迷いそうなものとしては,認知症や脳梗塞が神経疾患/精神疾患なのか循環器疾患/腎/代謝疾患なのかということろで過去に質問を頂いたことがあります。病態から考えていただいたほうが良いかもしれませんが,アルツハイマー型認知症やパーキンソン病であれば神経/精神にグループ化すればよいですし,アテローム血栓性・心原性脳塞栓であれば,循環器/腎/代謝と考えると自然ではないかと思います。

また過去の既往などは治癒していてもプロブレムには残しておいて,再発することがないかを確認出来るようにしておくと良いかもしれません。グループ化しておくと,今後の再発だけでなく,グループ内の疾患が発症するかもしれないという予測も立てやすくなるためカウントしています。

 

診療録に書かれているプロブレムで判断に迷いそうなものはそれほどないのですが,急性期プロブレムとして「現在の症状」というところを別に設けています。カテゴリーに分けられなさそうなものは,一時的プロブレムとして置いて介入の優先順位を考えたほうが良いかもしれません。参考になれば幸いです。

 

もし,ここをご覧の方で私に「こんな論文はどうでしょう?」とお勧めを頂いたり,質問者の方がここをご覧になっていただけていたら,リアクションをいただけますと嬉しいです。どうぞ宜しくお願いします。