Joanne Reeve, Marie-Dominique Beaulieu, Thomas Freeman, Larry A. Green, Peter Lucassen, Carmel Martin, Tadao Okada, Victoria Palmer, Elizabeth Sturgiss, and Chris van Weel; on behalf of the NAPCRG Advancing Generalist Expertise SIG
総合診療医(家庭医)って何?と話題になりやすいので
Facebookで話題になっていたモントリオールステートメントを紹介します。
ジェネラリスト診療に必要な4つの要素は必見です。ぜひ原文もご覧ください。
そしてこの著者の豪華な面々。私のような家庭医療ビギナーでも存じ上げております。
私の師匠である岡田唯男先生も名を連ねています。
本文を要約しながら訳していきます(全訳は控えます)
21世紀の課題に必要な医療を提供するために
私たちは、世界中の医療システム、医療機関、医療従事者に、私たちが提示する最良のジェネラリスト・ケアの基準に照らして、現在のケアモデルを評価することを求めます。そうすることで、ジェネラリストによるケアを強化するために必要な変更を提唱し、実行することができます。 世界保健機関(WHO)が2018年に発表したプライマリーケアの強化に関する声明に、個人を中心としたケアという知的課題の認識を盛り込み、ジェネラリストによる意思決定の提供をプライマリーケア診療の品質指標として認識することを求めます。
補足
プライマリ・ヘルスケアに関して1978年にアルマ・アタ宣言がありました。
それから40年。アスタナ宣言が2018年にありました。
(以下引用)
プライマリ・ヘルスケア国際会議
2018年10月25日~26日、カザフスタンのアスタナで、WHO、UNICEF、カザフスタン政府の共催で開催されました。保健大臣や財務大臣、教育大臣、社会福祉大臣を含め、保健員や患者団体、ユース代表団や活動家、二国間機関や多国間機関を代表するリーダーたち、国際保健アドボカシー団体、市民社会、学界、慈善団体、メディア、民間セクターからの参加者が集いました。
アスタナ宣言
プライマリ・ヘルスケア国際会議で採択されたアスタナ宣言では、以下の4つの主要分野についての誓約が表明されました。
(1)すべてのセクターにわたって健康のための大胆な政治的選択を行う。
(2)持続可能なプライマリ・ヘルスケアを構築する。
(3)個人やコミュニティのエンパワメントを行う。
(4)国家の政策や戦略、計画に対する支援を実施する。
https://www.unicef.org/tokyo/stories/2018/new-global-commitment-to-primary-health-care-for-all-at-astana-conference-japanese
上記を踏まえつつ,ジェネラリズムの実践で重要となるものを追記した声明になります。
本文に戻ります
人口の高齢化、慢性疾患や病気の増加、複雑な社会的要因(ヘルスケアを含む)が個人の病気の経験や管理能力に与える影響の変化などのニーズ,治療負担、過剰診断、問題のあるポリファーマシーなどの新たな問題に対処するためには、現代の医療行為において、このようなバランスや妥協を適切安全に行う能力を高めることが不可欠です。個々のニーズに合わせた目標指向型のヘルスケアモデルに、ヘルスケアをよりよく適合させることが重要です。医療、病気を「指揮・管理」するだけでは,個人の健康に関連した日常生活能力を最適化することを目的とした医療の提供を保証することはできません。
メディカル・ジェネラリズムは、専門医の診療を補完しつつ、専門医とは異なる独自の臨床診療形態です。今日の医療システムでは、どちらの診療形態も必要とされていますが、大多数の患者は総合的なジェネラリストの治療を必要としています(BOX 1)
(補足)
メディカル・ジェネラリズムは
日本プライマリ・ケア連合学会 「メディカル・ジェネラリズム」翻訳チームの訳したRCGPの「メディカル・ジェネラリズム なぜ全人的医療の専門性が重要なのか」を御覧ください。ただし2012年です。
ちなみにこのレポートでRCGPは、一般開業医や他の医療ジェネラリストの分野をさまざまな視点から検討し、患者の変化するニーズに対応できるようにすることを目的とした10の優先分野を特定しました。
- 患者のフィードバックの効果的な使用
- 時間外ケアに関するポリシー
- 地域社会における複雑で慢性的な状態のケアのジェネラリストモデルの開発
- GPとスペシャリスト間のコミュニケーションの改善
- GP向けの拡張トレーニング
- 小児科医療、学習障害、メンタルヘルス、緩和ケアおよび終末期ケアの強化されたトレーニング
- GP主導の試運転
- プライマリケアにおける複数の罹患率と早期の正確な診断に関するさらなる研究
- IT、データ共有、および省庁間の電子通信の使用
- ナーシングホームケア。
3.4.2 多重罹病と慢性疾患のマネジメントの項目は個人的に押さえておきたいところです。(その後,アリアドネの原則が出来るのですが)
ちなみに,これが公開されてから
2013年にRCGPからインパクトレポートが発表されています。
2022年ビジョンというのも公開されるようなので注目です。
BOX1 スペシャリストとジェネラリストのケアの違い
これまでプライマリーケアシステムにおけるケアの質の定義やモニタリングの違いを認識していないことが、個人を中心としたケアの失敗につながっています。
私たちは、個人を中心とした質の高いケアを可能にし、保証するために必要な、最高品質のジェネラリストの診療の4つの重要な要素を説明し、これらがどのように診療の中で認識されるかを提案します(表1)。
4つの重要な要素とは
- ケアの目標
- 実際に使われているデータ
- 臨床現場での課題
- ケアの質の評価/実践
です
表1
各要素を測定する具体的な方法は、状況に応じて異なるため、意図的に提示していません。しかし、この表は、個々の設定が自らの実践モデルを見直すための枠組みを提供しています。
診療マインドラインについては
を読んでいただければ勉強になると思います。
引用
家庭医(GP)の臨床的な判断は、いわゆる診療ガイドラインではなく、マインドライン(Mindlines)と呼ぶようなものに従っている。
その定義は、Internalized collectively reinforced,partly tacit, guidelines-in-the-head that clinicians use to guide their practiceとされ、内在化されて、集合的に強化されており、部分的には暗黙知的であるような、臨床家が自身の診療をガイドしている「自分の頭のなかのガイドライン」がマインドラインである。その特徴を以下に列挙してみよう。
- フレキシブルで、融通が効き、実践的で、文脈を考慮している
- 非線形かつ合理的でパターン認識化されている
- これまでいわれてきた各種認知モデルとしての、「ヒューリスティック」「Illness script」あるいは「経験則(Rules of thumb)」に比べて、より幅広いものである
- 診療に影響をあたえる、フルレンジの要求や各種制限、複数の役割を考慮にいれている
- 他者の実践的な知識が一人の人間の認知に具現化している
- 複数の素材をKnowledge-in-practice-in-contextに変容させている
Gabbay, J., & le May, A.. Evidence based guidelines or collectively constructed “mindlines?” Ethnographic study of knowledge management in primary care. BMJ, 329(7473), 1013. 2004
まとめると
ジェネラリストに特徴的な診療の要素4つは
- 個別性の高いケアの目標を設定し,病気の経験を活かしヘルスリテラシーを高めるよう各種サービスを活用できること。
- マインドラインに基づいた暗黙知と科学的データを活用すること。
- 患者背景を考慮した優先順位やセーフティネットを共同意思決定していくこと。
- 決定したケアのプロセスについて患者背景が考慮されているか評価できること。
と私なりのまとめをしてブログを終えようと思います。
とても勉強になる論文でした。ありがとうございました。