南砺の病院家庭医が勉強記録を始めました。An archive of medical articles summarized by a family physician from Nanto Municipal Hospital.

An archive of medical articles summarized by a family physician from Nanto Municipal Hospital.富山県にある総合病院で働く病院家庭医です。勉強の記録を少しずつ書いていきます。

ミッシェルの物語:家庭医療研修のクリニックにおける患者ケアの複雑さ

Michelle’s Story: The Complexity of Patient Care in a Family Medicine Residency Clinic

 
最近,講演ネタが続いていたので,久しぶりの論文紹介です。7月のAnnals of Family Medicineを遅ればせながら全て読みましたが,SDHへの統合的ケアなどの話題がドンピシャで大変面白い回でした。
 
そんな中でREFLECTIONSの記事が,日本の家庭医に求められているものをうまく表現されていたので紹介します。(機械翻訳を掲載するのは著作権的にNGではないかというツッコミもありますので,意味が通る範囲で省略しつつも余談を入れていきます。しっかり読みたい方は是非元文献をご覧ください)
 
要約
家庭医療はすべての年齢層を対象とし,急性期医療だけでなく,慢性疾患の管理も専門としています。国民の健康状態が複雑化する中,患者を適切かつ効率的に治療することは,健康状態を改善し医療費を抑制するために不可欠です。家庭医療専門医は、このようなケアを提供するためのユニークな立場にあります。

本記事では,ある家庭医療専門医のクリニックで1日に診察される患者さんのストーリーを紹介し,複雑なケアと家庭医療専門医が必要なケアを提供する能力を探ります。

ドアを開けて入ってくる人をよく見てみると、3つのポイントが見えてきます。

1つはプライマリ・ケア医が診る患者のニーズはますます複雑化していること,2つめに精神疾患や薬物使用障害を抱える患者が社会的に急増していること,3つめは健康の社会的決定要因への取り組みが解決策の一部であることです。

キーワード
delivery of health care 医療の提供,patient-centered care 患者を中心としたケア

 

家庭医療に求められているのは,まさにここでしょう。

患者の複雑なニーズをとらえて介入し,精神疾患なども全て精神科ではなくある程度はカバーし,健康の社会的決定要因を意識する。

では具体的にどうすればいいのでしょうか?本文を読んでみましょう。

 

ミッシェルの物語

2019年8月5日、ミネソタ大学家庭医療クリニックの患者であるミッシェルは、糖尿病性ケトアシドーシス(DKA)で入院した直後に予約のために来院しました。42歳の彼女は、10年以上も糖尿病の管理に苦労してきました。慢性的な腹痛に悩まされていた彼女は、病気になったときの対処法を忘れてしまい、インスリンを摂取しませんでした。その結果、DKAを発症し、集中治療室(ICU)に入院することになりました。集中治療室での治療を含め、入院中の彼女のケアは、彼女と面識のある医師を含む、当クリニックの医師チームが担当しました。多職種によるチームの継続的な話し合いにより、ミッシェルの苦悩については知っていましたが、クリニックを訪れたその日の研修医は、ミッシェルとは初めての対面でした。その医師は、診察室に入る前にドアの前で深呼吸をし、共感を示してつながりを持とうと決意し、一歩ずつ進んでいきました。

 

糖尿病の患者さんがDKAで入院してその後の初回受診という場面ですが,今から会う医師は初めてだったようです。みなさんが医師の立場なら何を聴くでしょうか。おそらくあまり関係性ができていないので,情報収集モードに入れそうならそうしますし,難しそうならサラッと外来を終えてしまうかもしれません。かけられる時間次第ですが,話しやすそうな雰囲気だけ出して,相手のニーズを把握するでしょうね。

 

ミッシェルは、入院中のことをしばらく考えた後、フォローアップのためにクリニックを訪れた際、自分の人生がコントロール不能になっていることを明かしました。彼女は、最も大きな支えであった17年間の関係を最近失ったことを話しました。また、幼少期の虐待によるうつ病、不安神経症、化学物質依存症、心的外傷後ストレス障害(PTSD)のコントロールがうまくいかず、対処のためにほぼ毎日大麻を使用していることを打ち明けました。彼女は、過去のトラウマの記憶が日々、生活のあらゆる面に染み込んでくることに悩んでいます。彼女は、自分の健康や医療上の必要性を優先することが難しく、代わりに周囲の人々の世話をしていることを認めています。彼女は主治医に「良くなりたいけど、どうすればいいかわからない」と涙ながらに語りました。

 

ミッシェルさんは初対面の医師に打ち明けたところを見ると,よほど喋りやすそうだと感じたのでしょうか。それともその向こう側にいる指導医に伝えてほしいという願いが有ったのでしょうか。グループ診療をしている場合であれば,目の前の医師が見たことがなくても,信頼をおいてもらえるのかもしれません。

 

にしても内容はなかなかヘビーです。皆さんこんな患者さんばかりなのでしょうか。だとしたらまずその地域診断が必要かもしれません(おそらくデータはあるのでしょうが,ケースワーカーがすでに介入しているかもしれないですね)

 

さで,ミッシェルさんに戻りますが一見するともうどこから手を付けようかなという感じになりそうです。複雑で不確実なケースについては週刊医学界新聞でも紹介していますが,現在はSDHを背景にした精神症状が前景に立ち,その結果血糖コントロール不良となっている状況ですね。秩序はある程度ありそうですが,医学的なコントロール不良に目を向けてばかりいると一向に良くならずむしろ悪化しかねない危険をはらんでいますね。精神症状次第ですがComplicated(Knowable)なケースであり,SDHへのアプローチが必要なのではないかと考えたくなります。あとは腹痛が何なのかも気になるところです。流石に悪性腫瘍というよりは,薬物乱用や心身症との関連で考えたいところです。

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ある典型的な日
ミシェルは、2019年8月5日、UMN Family Medicine and Community Health(DFMCH)のレジデントサイトであるBFMクリニックで診察を受けた患者の一人に過ぎませんでした。このクリニックは、ミネアポリスの経済的に困難な地域にあり、世帯の60%が総収入3万5,000ドル以下で、クリニックの人口の68%が黒人であり、何世紀にもわたる人種差別的な政策と、今日の深く浸透したシステム的な反黒人人種差別のために、他の人々よりも苦しんでいる人々です。BFMでの一日の仕事は、プライマリーケアの現在の状況のスナップショットを提供します。

 

つまり,この地域は,The Hot Spottersなわけですね。

このブログでもカムデンのJeffrey BrennerのCollaborative Super-utilizer modelというものを紹介しています。

www.rwjf.org

上位5%のSuperutilizerがヘルスケアコストの50%を占めており、その中にComplex casesが含まれることを考えると、複雑系を得意とする家庭医が医療費を抑える役割を担っている可能性があるというのが,個人的には気に入っています。

 

Jeffrey Brenner先生が頻回ER受診、頻回CT、頻回MRI、頻回入院などの患者をピックアップし、地図上にプロットしていくと、実はホットスポットと呼ばれる患者の集積区域があることがわかりました。

①市の約77,000人の住民のほぼ半数が毎年救急部門または病院を訪れていました。ほとんどの場合、風邪、ウイルス感染、耳感染、咽頭痛などが原因です。
②患者の13%が病院費用の80%を占めました。患者の20%が費用の90%を占めました。

これ、①はパネルマネジメント、②はSuperutilizerということになります。(詳しくはブログで) 

実際にその地域に行くと、頻回にERを受診している理由が、家にトコジラミがいて駆除するお金がないという事が分かったりするわけです。このようなものを健康の社会的決定因子(SDH)といい、貧困や社会的弱者であることが健康を左右するということを指します。このような方に、医療だけでなく福祉の視点から多職種による介入を行うと、医療費が抑えられたと報告されています。

とはいえ,NEJMでのRCTでは有意差は出なかったようです。検出力の問題ではないかと書かれていますが,この介入はランダムに入院患者から慢性疾患患者をピックアップしたもので、厳密にはカンデムのモデルとは異なり、退院後のケア移行に焦点を当てていません。複雑なケースでは患者に必要なリソースが不十分です。連合が継続して患者のニーズに適合できるように働きかけ続け、ケア提供をデザインしなおす必要があるようです。

 

思いっきり雑談を楽しんでいますが,まだ話の途中です。

 

8月5日、6人のレジデントと2人の指導医が89人の患者を診察しました。予約時間は概ね20分ごとに設定されていましたが、新規患者の診察、特定の処置、病院でのフォローアップは40分でした。ミネソタ大学のInstitutional Board Reviewの承認を得て、電子カルテを抽出し、このプライマリ・ケア・サイトの典型的な1日に対応した患者のプロファイルを作成しました。患者の年齢層は2カ月から92歳までで、10歳未満の患者は15人でした。10歳以上の患者74人の慢性疾患の数は平均3.8で、範囲は0~16であった。これらの患者のうち72人は少なくとも1つの慢性疾患を持ち、69人は少なくとも1つの処方薬を服用していた(表1)。

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病院からのフォローアップ患者さんは40分もかけているんですね。教育的なクリニックだからでしょう。事前に紹介状をカルテにまとめてイメージをしておくと心理的負担は軽くなるでしょうし,そもそも1回の外来で終わらせることが目的ではないので,外来を細かく分けるか,問題点を多職種でシェアすることがメインになるでしょう。

(ちなみに自分の外来をまとめたことがあるのですが,疾患数は5.1±2.1で3つ以上の問題があったのは88.9%でした。意外とシンプルな外来日だったのかもしれません。)

 

家庭医療におけるケアの複雑性
ミシェルのケースと、この一日の分析から、私たちは何を学ぶことができるでしょうか?家庭医療の現場で行われているケアの複雑さを強調する3つのテーマが浮かび上がってきました。1つ目は、患者の複雑化を反映した洞察です。喉の痛みや尿路感染症など、単一の問題で済む時代はとっくに終わっています。8月5日のBFMでは、1つの症状に対応した成人の診察は9件のみで、そのうち2件はオピオイド使用障害で、決して複雑な問題ではありませんでした。このようなクリニックは、単一の問題を抱えた複雑ではない患者の受診に効果的であることがわかっていますが、現代のプライマリーケア・クリニックで見られる複雑な患者には、全人格的な視点で患者のケアに取り組むことができ、複雑で曖昧な状況に対応する訓練を受け、ケアを支援する学際的なチームを持つ医師が対応するのが適切であると考えます。

 

1つ目が複雑性に対処する能力ということになりますが,interdisciplinary teamという単語がよく使われます。

https://www.jstage.jst.go.jp/article/jagn/11/1/11_KJ00005799674/_pdf/-char/ja

チームアプローチには,interdisciplinary teamによるアプローチモデルと,multidisciplinary teamによるアプローチがあります。前者はチームに課せられた複合的な,しかし直接人命に関わることが少ない課題を達成するためのものであり,後者はチームに課せられた人命に関わる可能性がある緊急な課題を達成するためのものと説明されています。(菊池,2003)後者のイメージは一人のリーダーが指揮を執り,専門職の役割を果たすだけで,前者は専門職がお互いの領域を持ちつつ相手を尊重しながら連携していくイメージです。こう書くとmultidisciplinary teamのイメージが悪いですが,取り組む問題の緊急性が高い場合にはスピード感が出ますので対象により切り替えると良いでしょう。

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この文献は参考になります。 

・メンバーには医師,看護師,ソーシャルワーカーだけでなく,聖職者もいます。患者さん(クライアント)もチームメンバーでありむしろ中心に能動的に活躍すべきだという考え方が重要です。

・メンバーに求められる要素は,①信頼(McCloskey 1998),②専門性の理解(亀井や,2004),③職種や経験を超えた尊重(小杉, 2002),④個々の才能を称賛する(McCloskey, 1998),⑤新しいことへのチャレンジ精神(亀井, 2004)

・チーム構成は2つ以上の学問分野からなる集団が最小限だが,柔軟にメンバーの結合と離脱を経て発展していくものである(Drinka et al, 2000)

・活動は標準化手段を用いてアセスメントやケアを実践し,それを全員で共有する方法が取られる事が多い。(Anderson et al, 2000)(Stepans et al, 2001)

・必要なのは話し合いの場を持つこと,開放的なコミュニケーションをすること,情報を共有し,合意形成を経て,共通の目的に向かって,協働連携することです。

・リーダーシップを職種によって分かち合う(小杉,2002)というのも重要です。

 

Interdiscilinary teamの概念分析を行うと

https://www.jstage.jst.go.jp/article/jagn/11/1/11_KJ00005799674/_pdf/-char/ja

1.患者のニーズの複雑化・拡大化が生じている。それを取り扱う専門職の細分化・明確化が生じていることがきっかけ。

2.必要なのは「信頼」「理解」「協働連携」「開放的なコミュニケーション」

3.相互作用によりケアの提供者,対象者双方に有益性をもたらす。

4.患者を中心に据えてメンバー間のコミュニケーションや協働連携をする。

 

今日は雑談が多めですが,個人的にはとても勉強になっています。

 

医療の複雑性は、定義や定量化が難しいことで知られています。Charlson Comorbidity IndexやHigashi scoreのような複雑性を定義しようとするモデルと、プライマリ・ケア医が考える複雑性との間には、全体的にわずかな一致しか見られません(Grant RW, 2011)。プライマリ・ケア医は、複雑性を多次元的なものと認識しており、その要因としては、医学的疾患、精神疾患、社会経済的課題、特定の行動特性などが挙げられます(Loeb DF,2015)。どのような定義であっても、プライマリ・ケアの現場では、薬物使用障害や社会経済的地位の低さと相まって、医学的・精神的疾患を併発している患者の割合が高いのが特徴です。

 

よくチャールソン併存疾患指数は聞きますがHigashi scoreとはなんだろう。

Charlson Comorbidity Index+α(チャールソン併存疾患指数): 入院時の併存疾患から予測死亡を算出するために 作成されたスコアであり、既往を表すのではなく、併存疾患であることに注意。 (J Chron Dis Vol.40,No.5, pp373-383,1978)

 

Higashi scoreを調べたら,2007年のNJEMに載っていて無知をさらけ出してしまいました。

https://www.nejm.org/doi/full/10.1056/NEJMsa066253

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 確かに診療の質の指標と疾患数をまとめておられます。

(読めないぐらいのサイズにしたので,興味があれば原文をご覧ください。)
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DFMCHは、ミネアポリス/セントポールにある他の3つの研修プログラムを支援しており、さまざまな人口統計学的、文化的集団からの医療的に複雑な患者に対応しています。あるクリニックでは、東アフリカからの移民が患者の25%以上を占めており、その多くが戦争で傷ついた経験からPTSDを抱えています。また、別のクリニックでは、患者の42%が東南アジアからの移民やアメリカ人一世です。また、別のクリニックでは弁護士が加わり、患者の法的問題をサポートしていますが、その大半は住居の確保に関連しています。これらのクリニックでは、診察の29%に通訳が必要です。これらのクリニックでは、課題はそれぞれ異なりますが、2つの共通点は、患者の複雑さと、健康に関連する不利な社会的要因の負担が大きいことです。

 

第二に、この分析は、私たちの社会におけるメンタルヘルスと化学物質依存の問題の高まりを反映しています。2018年の「薬物使用と健康に関する全米調査」によると、成人におけるあらゆる精神疾患の有病率は19.1%、物質乱用障害の有病率は8.5%となっており、8月5日に受診したBFM患者の62%と39%とは対照的です。この差は、BFMの患者さんが経験した社会的・医学的合併症によって説明できる部分もありますが、これらの障害が急速に増加していることを示していると考えています。Substance Abuse and Mental Health Services Administrationの全米データによると、2008年から2018年の間に精神疾患の診断が着実に増加しており、その中でも18歳から25歳の人が最も増加しており、2008年の18.5%から2018年の26.3%に上昇しています。プライマリケアの臨床医は、精神衛生および物質乱用の障害が過去3年間で劇的に増加していることを検証しています。さらに、COVID-19のパンデミックは、既存のメンタルヘルス疾患を増幅させ、おそらくより多くの診断をもたらすと思われます。私たちは、最新の集団ベースのデータがこの急増する問題を裏付け、政策立案者や医療システムがそれに応じた計画を立てるべきであると考えています。

 

第三に、私たちの経験から、健康やヘルスケアの背景にある社会的決定要因に取り組むことの重要性が明らかになりました。経済的な問題、限られた交通手段、食料不安、健康リテラシーの低さなどの要因は、健康に大きな影響を及ぼします。社会的決定要因は、費用のために食事や薬の選択肢が限られている糖尿病患者や、頻繁に検査を受けるために公共交通機関を利用しているワーファリン患者の健康に影響を与えます。心理社会的要因、家族のストレス要因、社会的支援の欠如は、慢性疾患や節酒への対処や管理を困難にします。最近のCOVID-19の流行やGeorge Floyd氏の殺害にまつわる事件は、こうした要因が患者さんに及ぼす悪影響をさらに悪化させています。

 

家庭医がこれらの問題のすべてに対応することは難しいかもしれませんが、ソーシャルワーカーやケアコーディネーターなどの医療専門家を加えたチームケアモデルを採用することで、この重要なニーズを満たすことができます。

 

ここがポイントでした。

①患者の複雑性への対応

②メンタルヘルスと薬物依存

③社会的決定要因に取り組むこと

この長いブログは突き詰めるとこの3行です。

 

結局,先程のミシェルさんはどうなったのでしょうか。

 

複雑なニーズを持つ患者へのケア

上記のような複雑な状況下でケアを提供することは、家庭医療ではよくあることですが、ミッシェルを診察した研修医は当然ながら圧倒されていました。やるべきことが多すぎて、どこから手をつければいいのか。ミシェルの糖尿病には対処する必要がありましたが、10年前からコントロールできていませんでした。今回は何が違うのだろう?そして、その根本的な原因は何だったのか?ミシェルは、腹痛のためにインスリンを注射し忘れていました。その腹痛は、何度も広範囲に渡って治療されていましたが、器質的な原因の証拠はありませんでした彼女のメンタルヘルスや薬物使用についてはどうでしょうか?人生が複雑になるたびに表面に出てくる彼女のトラウマは?このような不安定な状態で、フォローアップも頻繁に行われない場合、穏便にこれらの問題をどのように解決するのでしょうか?

 

BFMでは、複雑な医療問題に加えて、無数の社会的要因や人種差別によって慢性的に悪化している精神的な問題を抱えている患者さんが多いのですが、ミシェルの話は珍しいことではありません。このような複雑な患者さんのケアを、複数の専門家がそれぞれ単一の問題に集中して行うことは、ポリファーマシー、医原性疾患、ケアコーディネーションの欠如、全体的な非効率などの問題を引き起こす可能性があります。このようなアプローチは、患者さんを中心としたケアという目標に反するものです。つまり、行動医療サービス、薬物使用障害治療、薬局の専門知識、ケアコーディネーション、単一の臨床医によるケアの継続性など、幅広い統合サービスを提供する総合的な家庭医療です。さらに、プライマリ・ケアの価値と有効性を示す証拠として、プライマリ・ケア担当医を持つ患者の転帰が改善されたことを示す複数の研究結果があります

 

最後の一文の根拠となる論文はいずれもJAMAです。

  • Basu S
  • Berkowitz SA
  • Phillips RL
  • Bitton A
  • Landon BE
  • Phillips RS.

 Association of primary care physician supply with population mortality in the United States, 2005-2015JAMA Intern Med. 2019179(4):506-514. doi:10.1001/jamainternmed.2018.7624

人口10万人あたりプライマリケア医が10人増えるごとに、平均寿命が51.5日(95%CI、29.5~73.5日、0.2%増)延びるのに対し、人口10万人あたり専門医が10人増えると、19.2日(95%CI、7.0~31.3日)延びる。

人口10万人あたりプライマリケア医が10人増えると、心血管、がん、呼吸器系の死亡率が0.9~1.4%減少する。

 

 
  • Chang CH
  • Stukel TA
  • Flood AB
  • Goodman DC.

 Primary care physician workforce and Medicare beneficiaries’ health outcomesJAMA. 2011;305(20):2096-2104. doi:10.1001/jama.2011.665.

プライマリ・ケア医数の下位5分位の地域と比較して、上位5分位の地域の受益者はACSCによる入院が少なかった(受益者1,000人当たり74.90対79.61、RR 0. 94; 95%信頼区間[CI]、0.93-0.95)、死亡率は低く(100人あたり5.38対5.47、RR、0.98; 95% CI、0.97-0.997)、メディケア総支出には有意な差はなかった(受益者あたり8722ドル対8765ドル、RR、1.00; 95% CI、0.99-1.00)。プライマリ・ケア医のFTE数が上位5分位の地域に居住する受益者は、下位5分位の地域に居住する受益者と比較して、死亡率が低かった(受益者100人当たり5.19対5.49;RR、0.95;95%CI、0. 93-0.96)、ACSCによる入院が少なく(受益者1,000人当たり72.53対79.48、RR、0.91、95%CI、0.90-0.92)、メディケア全体の支出が多い(受益者1人当たり8857ドル対8769ドル、RR、1.01、95%CI、1.004-1.02)
 
ACSCの説明はここにまとめています

かんたんに概念を解説すると

Ambulatory Care Sensitive Conditionsといって、適切なタイミングで効果的なケアをすることで入院を減らすことができる状態の事を示します。(おそらく日本で最初に言及されたであろう、岡田先生の日本語で非常に優れた予防医療の本があるので、購入をお勧めします)

海外では,ACSCをモニタリングすることで間接的にその地域のプライマリ・ケアの質を測定しています。

 
最後です
家庭医である私たちは、他のプライマリーケア臨床医と同様に、患者さんの複雑さを受け入れます。私たちは、ミシェルのような患者さんが安心して自分の話をすることができるような環境を提供することに努めています患者さんの話を聞いて初めて、私たちは相互に信頼し、理解し、尊敬し合える関係を築き、育てることができます。このような関係を築くには、時間と忍耐が必要です。そして、アトゥール・ガワンデが「漸進的なヒロイズム」と呼んだ、健康を増進し、コストを削減し、患者さんと医師にとって最終的に満足のいくプライマリーケアを育むことができます。家庭医である私たちは、ガワンデ氏のヒーローのレッテルを貼ることには抵抗がありますが、医療政策の焦点を、ミシェルのように「医療上の緊急事態」として来院する患者に対する効果的なプライマリーケアのアプローチを促進することに移すという彼の呼びかけには賛同します。
 
結局は,

①患者の複雑性への対応

②メンタルヘルスと薬物依存

③社会的決定要因に取り組むこと

そのためには

④患者さんが安心して話ができるような姿勢と信頼関係を築く

⑤多職種での連携を醸成する

ということになるのだと思います。

 

久しぶりに10000文字のブログになりましたが,大変勉強になりました。

最後までご覧いただきありがとうございました。