南砺の病院家庭医が勉強記録を始めました。An archive of medical articles summarized by a family physician from Nanto Municipal Hospital.

An archive of medical articles summarized by a family physician from Nanto Municipal Hospital.富山県にある総合病院で働く病院家庭医です。勉強の記録を少しずつ書いていきます。

Multimorbidityな高齢者のためのプライマリーケアとソーシャルサービスの統合:政策への影響

Integrating primary care and social services for older adults with multimorbidity: policy implications

BJGP Open. 2021 Jun 8; BJGPO.2021.0035. 

PMID: 34103309

 

BJGPにMultimorbidityの記事があったため紹介。

Multimorbidityに対して統合ケアを推進する,具体的には社会的処方を考える。

なんとなく良さそうかなと思いますが,それに対しての考察が大変勉強になります。

 

キーワード

Integrated care,older adults,multimorbidity,primary careBJGP Open (Report missing IFs) . 2021 Jun 8;BJGPO.2021.0035. 

PMID: 34103309

 

はじめに
今後20年間で、英国の65歳以上の人口は4分の1に増加し、そのうちの約3分の2が複数の慢性疾患を抱えて生活することになります。このような人口動態の変化は、介護ニーズの大幅な増加につながり、プライマリ・ケアや社会サービスへの需要がさらに高まると考えられます。これを受けて、政策立案者たちは、サービスの効率化やコスト削減、さらには患者やサービス利用者の転帰の改善を実現するために、統合ケアIntegrated careの推進を加速しようとしています。この目的のために、様々な統合ケア案が試行されてきました。これらの中には、例えば「社会的処方」イニシアチブのように、強力なエビデンスベースや包括的な評価なしに全国的に展開されているものがあることが懸念されています。そのため、統合医療の効果は不確かなものとなっており、Multimorbidityの高齢者のためにプライマリケアと社会サービスを統合する最善の方法についてのコンセンサスは得られていません。
 
(以下余談)
この赤字のところの提言は2019のBJGPのエディトリアルで紹介されています。
Social prescribing: where is the evidence?

社会的処方とはなにかの定義が曖昧,地域によって需要も異なる複雑なサービスなため概念化が難しく,評価もしにくいという論点です。

 

たとえば介入方法については,慢性疾患の進行を予防したり,軽減することを目的とする狭い介入,対象を絞ったライフスタイルの介入,例えば身体活動や,健康的な食事や料理,薬の管理やグループでのメンタリングが含まれる傾向があり,通常は医療システムを通じて提供されますが,これとも混同しがちです。また,健康の社会的決定要因の理解に基づいた経済支援や余暇,社会的支援,情報を提供するリンクワーカーなどとも混同されています。

 

対象についても,社会的処方はもともと貧困地域で行われ,複雑な身体的および精神的健康問題,経済的問題,社会的及び感情的問題,薬物乱用,カオスなライフスタイルに苦しむ人を対象にしており,やがて,孤独への対処,ADLの改善,精神的健康を目的として,高齢者に適用されるようになってきました。そして,病気の予防という観点では高齢者に限りませんし,糖尿病の社会的処方スキームを調べたスコーピングレビューはモデルの多様性に注目されています。

この文献では英国での2型糖尿病への40の介入プロジェクトと24の評価をまとめています。例えば,グループ教育,運動の紹介,個別のアドバイスなどをRCTなどで評価されていたり,混合的アプローチをされていたりしていますが,どれも効果的であるとは証明できませんでしたが,今後のエビデンスベースのプロジェクト開発に貢献しています。

 

話を戻すと,社会的処方の効果判定が難しい理由は3つあると言われています。

1つめは,対照群の設定が難しく,研究者の独立性も維持しながら協力関係を築くのが困難と言われていること。(非介入群にどうやって介入するのか)

2つめは,エビデンスの多くが健康を指標にしているが,広範なケアや社会的サービスにどのような影響があるのか考慮されていない。(健康以外への影響が不透明)

3つめは,どのようなサービスを受けていたのかの経路をたどりにくく,どの部分が効果があったのかがわかりにくいことがあります。(介入の検証がしにくい)

 

以上より社会的処方のエビデンスは検証しにくいなかで定義も曖昧なまま勧められているというところがあるということがわかります。ここでMultimorbidityへの統合ケアに同じことが言えるのではないかという話です。

(余談終了)

 

 このようなエビデンスベースのギャップを解消するために、私たちは様々な方法で研究を行いました。これには、文献のスコーピングレビューと、イングランドにおけるプライマリケアとソーシャルサービスの統合の推進要因と障壁に関する主要なステークホルダーの見解を引き出すための定性的なインタビュー調査が含まれます。ステークホルダーには、患者、介護サービス利用者、介護者、プライマリーケアおよびセカンダリーケアの臨床医、社会的処方者、コミュニティナース、ソーシャルワーカー、ボランタリーセクターの職員、その他複数の関係者が含まれています。私たちは、Valentijnの統合ケアのレインボーモデルを分析的・空間的なレンズとして使用し、特定した文献と半構造化インタビューから得られた経験的データの両方を調べ、理解しました。この概念的枠組みでは、システム全体のレベル(マクロレベルの統合)、組織や専門家のレベル(メゾレベル)、臨床やサービスの統合レベル(ミクロレベル)といった、さまざまなスケールで統合が行われていることを説明しています。

 

(また余談)

なにげに,この3つの論文もオススメです。

1 Integrated Primary Care and Social Services for Older Adults With Multimorbidity in England: A Scoping Review

 

Multimorbidityの統合ケアのスコーピングレビューです。

7656の論文から84論文を抽出し3つのテーマが特定されています

①集団レベルの統合ではなく,個人レベルのサービスに焦点をあてることの重要性

②ケアの統合が新たに組み込まれて成熟するまでには時間がかかる

③局所的な柔軟性を考慮しながらシステム全体の構造に介入するというトップダウンとボトムアップ両方の介入の必要性

システムとして完成するには時間がかかるけど,個別性を考慮してのボトムアップの介入とそれをシステム化するトップダウンの介入の両方が必要という内容でした。

 

2 Integrating primary care and social services for older adults with multimorbidity: A qualitative study

英国でGP、看護師、ソーシャルケアスタッフ、コミッショナー、地方自治体、ボランタリー・民間セクター、患者、ケアラーに対して定性的インタビュー。

統合の推進要因としては、優れたリーダーシップに支えられた志を同じくする人々のグループ、システム間のギャップを埋めるためのインターフェイスの役割の拡大、サービスの共同配置などが挙げられた。

障壁となっているのは、専門職間の構造的・学際的な緊張関係、組織の利己主義、記録の共有における課題などである。

システム・組織の課題が目立っていました。

 

3 Understanding integrated care: a comprehensive conceptual framework based on the integrative functions of primary care

Int J Integr Care . 2013 Mar 22;13:e010.  PMID: 23687482

このValentijnの統合ケアのレインボーモデル論文は,この図表で見覚えのある方もおられると思います。個別・集団の視点と,統合ケアの次元の視点を組み合わせたものです。

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水平統合と垂直統合をミクロ,メソ,マクロレベルで見ていくのがプライマリケアの統合ケアであるという内容で, ここでもシステム全体のレベル(マクロレベルの統合)、組織や専門家のレベル(メゾレベル)、臨床やサービスの統合レベル(ミクロレベル)の視点が重要であると述べられています。

(余談終了)

 

今回の論文は、Multimorbidityの統合ケアにおける主要なポイントを要約し、政策的なポイントを提案します。

 

効果的な統合を行うためには、医療と社会福祉の包括的な統合を複数のスケールで行い、縦(ミクロからマクロレベル)と横(サービス提供者間)の両方でケアを接合する必要があることがますます認識されています。実際には、統合を推進するための取り組みは、主に 2 つのスケールに焦点を当てていることがわかりました。1 つ目は、地域の救急部にソーシャルワーカーを配置するなど、ケアを提供する時点での統合を目的としたミクロスケールの臨床的な取り組みであり、2 つ目は、程度の差こそあれ、専門家間の協力や組織間の共同作業の取り決めという形で、メゾレベルの統合にも焦点が当てられています。この規模での統合の例としては、医療と社会福祉の両方が共同で資金を提供する役割が挙げられます。現在、イングランドの医療と社会福祉は別々の組織によって提供されており、資金、政治的監督、提供モデルに大きな違いがあります。このような状況の中で、私たちは、民間やボランタリーセクターを含む複数の提供者を巻き込みながら、より高い組織的・戦略的レベルでのマクロ的な統合を進める必要があると主張しています。

 

ミクロスケールの例での救急部にソーシャルワーカーを配置するというのは,とても具体的で良い取り組みですね。専門家間(メゾレベル)の共同的な統合が医療と社会福祉の資金提供の統合というのは,それぞれの考え方が全然違うので日本ではなかなか大変だと思います。

 

医療と社会福祉の統合を試みる際に、見落とされがちな重要な要因は、統合ケアプログラムが効果を確立するために与えられる時間がないことである。例えば、イングランドでは2015年に「ヴァンガード」サイトが設立され、その後すぐに「社会的処方」、「ケアナビゲーション」、そして「統合ケアシステム」プログラムといった介入策が実施されました。このことは、政策立案者が、イノベーションを奨励する一方で、統合されたケアの新しいモデルが確立し、成熟し、評価の前に運営上の効率性を達成できるようにするための時間を確保するという課題を浮き彫りにしています。これを達成するためには、政策コミュニティと協力して、利用可能なエビデンスを可能な限り活用する必要があります。

 

確かに取り組みをする前になにかエビデンスのある要素があると,プログラムの導入の時間短縮や検証のシステム化ができると思います。今後のMultimorbidity介入の必要な要素はなにかというもののエビデンスが求められますね。

 

ステークホルダーの経験や発表された文献は、政策立案者が活用できる統合ケアの実現要因を一貫して浮き彫りにしています。第一に、統合された作業を推進し維持する上で、ダイナミックなリーダーが極めて重要な役割を果たすことは、初期の研究で繰り返し強調されているが、政策立案者は今日まで、この統合ケアの実現要因にあまり注意を払ってこなかった。リーダーシップを組織的に定着させるには、特にダイナミック・リーダーの活力が低下したり、その役割から離れたりした場合に変化を持続させるという課題がありますが、これを達成する方法の一つとして、地域の「チャンピオン」の役割やリーダーシップ研修プログラムをより広く展開することが考えられます。第二に、既存のサービス間の統合を可能にする「ケアナビゲーター」のような「リンク」または「インターフェイス」の役割の開発は、既存のケアモデル内での統合を可能にすることで、システムまたは組織レベルでのより広範なサービス再設計の必要性を制限する可能性があります。第三に、コロケーションと共有の作業スペースは、専門家間の関係構築と信頼を促進し、持続可能で統合された作業体制と学際的なチームを確立するのに不可欠です。このようなシステム全体の統合を可能にする要素を活用することで、政策立案者は、中央の政策と地域のサービス提供の課題の間にある歴史的な緊張関係を克服することができ、そうすることでより良い統合ケアモデルの開発を促進することができる。

 

・地域のリーダーシップ研修

・既存のケアモデルの統合

・専門職の集まるスペース

この3つが必要というのはしっくり来ますね。

地域にどんなリソース(人材,プログラム)があるか知らないことって多いですからね。専門職間の連携をしやすくなる仕組みもあると良いなと思います。

 

結論

複数の長期的な健康状態を有する高齢者のためのプライマリケアとソーシャルサービスの統合の推進要因と障壁について、公表された文献と関係者へのインタビューで共通のテーマが明らかになった。介護ニーズが高まる高齢化社会において,過去の統合の経験から学ぶことは、将来の課題に対処するために不可欠である。統合ケアシステムにとって重要なことは、全体的なシステム全体の構造を実現することであり、これには高レベルの政策イニシアチブが必要である一方、地域の解決策に柔軟性を持たせる必要があります。これを実現するには、十分な政治的意思と早急な行動が必要です。

 

結論はありきたりという感じですが,読むべき文献やケアの統合の概念を再確認できたので大変勉強になりました。