南砺の病院家庭医が勉強記録を始めました。An archive of medical articles summarized by a family physician from Nanto Municipal Hospital.

An archive of medical articles summarized by a family physician from Nanto Municipal Hospital.富山県にある総合病院で働く病院家庭医です。勉強の記録を少しずつ書いていきます。

【生涯学習】鬼滅の刃を家庭医療に活かす

鬼滅の刃を家庭医療に活かす

 

こういう出落ち感満載なタイトルで書くのは久しぶりです。

このブログは2019年のクリスマスのお戯れでしたが

何故か定期的に【陰嚢 痛い】とかで検索されているので,このページにたどり着いた陰嚢が痛い方のなにかお役に立っているのかと思うと,書いてよかったなと思います。

(これを書いてからは,残念ながら陰嚢が痛い方にはお目にかかっていませんが,将来診るかもしれませんので,まだ御覧になっていない方は是非御覧ください。)

 

さて,鬼滅の刃,映画にもなって話題ですよね。

今回は鬼滅の刃を観たことがない方や,今後読みたいのでネタバレしたくない方にも配慮して詳しいお話は載せずに,家庭医療の視点で考察していきたいと思います。

 

まず,鬼滅の刃の簡単なあらすじですが

『鬼滅の刃』とは?兄妹と仲間の絆が胸を打つ!悪鬼滅殺の超人気漫画

 

物語の舞台は大正時代の日本。
主人公である炭売りの少年・竈門炭治郎は母親と5人の弟妹たちと、山奥で貧しいながらも幸せに暮らしていました。しかし、ある日仕事から帰ってくると、何者かに殺された家族の無惨な遺体が……。唯一生き残った禰豆子を背負い医者に見せようとするも、禰豆子は鬼化して炭治郎に襲いかかってきます。
そこに現れたのが“鬼殺”の剣士、冨岡義勇。彼の導きによって、家族の仇を討ち、禰豆子を人間に戻すための炭治郎の旅が始まる――。

 

 

10月31日まで期間限定で1話だけ無料で読めますので,読んだことがない方はこの話だけ読んでください。

 

家庭医療の実践には,想像力(妄想力ともいう)が必要と言われています。

 

患者さんを【ただの高血圧と糖尿病の患者】としてみるのではなく

【仕事が忙しくてなかなかお休みが取れない2児の父である○○さん】とか

【育児と仕事の両立に加え,最近は義理母の介護も始まりそうで仕事をどうしたらいいのか悩んでいる○○さん】とか

【単身赴任で転勤になったばかりで食事も不規則になっていたが,最近,お気に入りの小料理屋を見つけてストレスが軽減している○○さん】とか

 

一人の人間としてその方の生活の背景を想像すると,杓子定規にお薬を出したり塩分を控えるよう言ったりせず,個別性の高いアドバイスが出来たり,アドバイスなんかしなくても語ってもらうだけで自分の中で答えを出せるサポートができるのです。

 

また,もしも出した薬が飲めなかったとしても,その理由が

【服薬方法が生活サイクルの負担になっている】

【お金の負担が多く,薬を飲みたくない】

【薬を信用していなくて,生活習慣を見直したい】

【一度飲んだら,一生飲まなければいけなくなる】

など,個人で違う場合には,ちゃんと飲みなさいとか努力しなさいとか,命に関わるよと脅かすアプローチよりも,安価な薬を考えたり,処方内容をシンプルにしたり,生活指導でなんとかならないか考えたり,薬に対する説明をしっかりしたりというようにアプローチが変わります。

 

このようなアプローチを患者中心の医療の方法といいます。

患者中心の医療の方法〈総論〉─「疾患の治療」だけでなく「病む人へのケア」を[プライマリ・ケアの理論と実践(2)]|Web医事新報|日本医事新報社

 

患者さんと話をすることで,患者さんの疾患や人生観に対する考え方や,病気によって生活のどこに支障が出ていて,どういった治療や検査をして欲しいのかを理解し(図の左側①)

 

患者さんはどんなお仕事をしている人で,一緒に住んでいる人はどんな人なのかを理解したり,周りの方の病気に対する気持ちや病気によって生じる影響を理解したり(図の右側②)

 

医療者はその事情をよく分かった上で,その患者さんのベストは何かを一緒に考えて方針を決定する(図の真ん中③)ことで,目標が明確になり,治療や検査に対する不安が解消し,医師との関係性が構築されるのです(図の下④)

 

ここまでで鬼滅の刃の第1話しか読んでいない前提の皆さんは炭治郎の父が他界していることを初めて知ると思いますが,竈門家は炭治郎が母と兄弟5人を養うために炭を売りに行っている事がわかりました。これ以外にどんな生活か想像できますか?

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https://www.smartcitiesofindia.in/

 

母親は若くして夫の死別がありながらも子どもたちを育てていく精神的に強く優しい母なのでしょう。質素ながらも明るい家庭だと思います。

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次男の武雄も斧を持っています。兄と一緒に炭を作る仕事をしているのでしょう。その下の2人も兄を慕う関係性の良さが伺えます。

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長女の禰豆子も末っ子の六太の子守りをしているところからも家事や育児の手伝いをする役割などがあるのかもしれません。父が他界したのは少なくとも末っ子が誕生した後なので,ここ数年の出来事と思いますし,お父さんが亡くなってから兄にくっついて回る様になったということからも,歩けるようになってから父親を失ったのだと考えられます。

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家族ライフサイクルとしては,時代背景を考えると生活費を稼ぐ(自立)長男・長女・次男が兄弟を養い,母の育児負担と経済的負担を支えている家庭と推定します。

 

坂口らの報告では,1 年以内に配偶者と死別した者は,配偶者が健在である既婚者に比べ,精神的健康度が低いことも分かっており,死別群では,残された配偶者の欲求に一致したサポートが十分に提供された「適応家族」と,そうでない他の家族タイプとの間で,精神的健康度に違いがみられたということが分かっています。

https://www.jstage.jst.go.jp/article/jjpm/39/7/39_KJ00002387004/_pdf/-char/ja

 

父を亡くしても,炭治郎らが残された配偶者の欲求に対してサポートをしているからこそ,家庭内バランスが保てていたのだと思います。

 

もし炭治郎が母親や他の家族を一度に失ったらどうなるでしょう。もし鬼に惨殺されなかったとしたら,この一家はどんな10年後,20年後だったでしょうか。もし経済的サポートや教育の機会が十分でなかったら,それを地域で支えていくにはどうしたらいいでしょうか。こういう事を常に考えているわけではありませんが,患者さんの自宅での生活背景をイメージするために竈門家を例に紹介しました。

 

これは鬼滅の刃の第1話を使った考察ですが,本ブログは鬼滅の刃の魅力を語るために書いたものではないので,この先の話や魅力については割愛します。興味がある方は,是非漫画やアニメ,映画などをご覧ください。

 

このような自宅での生活をイメージするには,様々な文化や,生活様式を具体的にイメージする力が必要です。これが冒頭で紹介した想像力です。そして,そんな家庭医療の視点をどんなところでも常に発揮するためには,鍛錬が必要です。

 

鬼滅の刃でも,全集中の呼吸法という鬼殺隊が鬼と戦うときに使用するものがあります。鬼を切れる刀を手にしたとしても鬼を必ず狩れるわけではなく,それを存分に振るうための身体能力を上げるための呼吸法です。具体的には肺を大きくして、血中に大量の空気を取り込むことで,体の細胞の隅々にまで酸素を行き渡らせ,身体能力を格段に引き上げるのです。

 

ですが,この呼吸法は,長時間使用すると体への負担が大きいため,普通の鬼殺隊の隊士たちは,短時間だけ身体能力を上昇させるために使用します。

 

そんな欠点をカバーするために,「全集中・常中」という技術を身につける必要があります。これは名前の通り短時間のみ使うのではなく,寝ている間も含めて1日中全集中の呼吸を使用し続ける技術なのです。常に使い続けるため,身体能力を通常とは比べものにならないほど向上し,鬼殺隊の柱という一流の剣士たちは全員会得しています。

 

【鬼滅の刃】全集中って何?『全集中の呼吸法』とは?

 

家庭医療の視点は,救急医療では発揮しにくい,集中治療では忘れられがちなど言われることもありますが,その事を常に意識しながら診療をすることで,患者との信頼関係が構築しやすかったり,患者の家族への説明するときに威力を発揮します

 

はじめは意識しながらやるようなことも,慣れてくると無意識にできるようになります。これは「習慣化」なのです。患者さんをみたら,その人がどんな生活をして,どんな同居している人がいるのかを想像することを習慣化できると,それが違和感なくできるようになります。

 

余談ですが,これはドラゴンボールでも言われています。

ドラゴンボールをご存じない方もいると思いますので,簡単に説明します。

 

孫悟空という主人公が息子である悟飯と,セルという強敵を倒すための修行をします。

短期間だけ力が増す代わりに,体力の消費や精神が乱されるスーパサイヤ人という覚醒状態に変身できるのですが,悟空は悟飯に「なるべくスーパサイヤ人の状態でいることが普通でいられるようにしろ」という事を教えていました。

これは「スーパーサイヤ人の状態を体に慣らす」事を目的としたものらしいですが,これも習慣化にほかなりません。

 

スーパーサイヤ人の状態でいることが普通になるようにする - フリーランスエンジニア日記

 

忙しい外来ではどうしても十分に時間を割けずに,患者さんの対応が十分できなくなることもあるかもしれません。ですが,同じ治療をしても患者さんが不満感に思っていることがあるのであれば,それは相手の立場に立った想像力の差なのかもしれません。

 

なお,これは多職種連携にも役立ちます。

看護師からの報告や,薬剤師からの疑義照会など,相手の立場に立てばどのような気持ちになるかを考えて言葉を考えたり,受け手の医師も報告する側の立場を理解することで,態度をマイルドにできるかもしれません。

 

どれだけ忙しくても,どれだけ大変でも

常に,家庭医療の全集中・常中でいられるような努力をしたいものですね。

 

具体的に,どうすればよいのでしょうか。

病院や診療所の実践の場では,外来や診療を誰かに見てもらって,客観的なフィードバックをもらったり,振り返りという,診療の後にどのような感情だったのかを指導医と話す時間があれば,外来中に自己省察ができるようになるかもしれません。患者さんの背景にある家族を後から思い返してみるというのも,良い振り返りです。

 

「reflection in action on action knowing in practice 省察」の画像検索結果

実践知であるknowing-in-practiceは実践を通じて技能やわざを駆使することです。

そこで予想しない出来事が起きた時に

実践内省察reflection-in-action、すなわち実践をしながら、困難に直面した時に、問題設定、解決策の導出、解決策の実施に関する既存の枠組みを見直し、新たな解決策の創出と実践を行うことを行います。

その後、ひと段落してから実践についての省察reflection-on-action:過去の実践を想起しながら、自らの実践知、実践内省察の枠組みについて考えることを経て実践知knowing-in-practiceを積み上げていくのが省察的実践家(reflective practitioner)の姿といえるのです。

もちろん、このステップは一方通行ではなく、in actionから実践知を積み重ねてもよく、in actionでははっきりしなかったものをon actionで振り返ることで実践知を得ることもあるわけです。

 

この事は過去にブログにまとめたので御覧ください。


全集中・常中というのは,省察的実践を常に続けることで,当たり前にできることの範囲(Zone of Mastery)を増やしていくことに通じるのではないでしょうか。

 

そして,想像力を高めるために,漫画でも音楽でもアニメでも小説でもいいので,医療と関係の無い世界をたくさん知ることが大事です。医学の勉強はもちろん飯の種ですからしっかり勉強していただきたいですが,それ以外に,多くの人と話をしたり,様々な文化に触れる際に,自分とは全く視点で書かれているものを観るということは,価値観を広げることに繋がります

 

もちろん,手段は何でもいいのです。

 

本よりも映画が好きなら映画で得られることは大きいですし,好きなものだけでなく,あまり観たことがないジャンルの映画を観たり,何度も観た映画を深く考察してみたり,友達と感想を語り合ってみたり,最近ならSNSで感想を言い合うのも良いでしょう。仲間内で話すのではなく,全然知らない人どうしが意見交換をできるのもSNSの良いところかもしれません。

 

医療の世界でも同様のことが言えて,同じタイプの医師同士で話をしていても価値観が広がりません。むしろ総合診療医こそ,臓器別専門医の先生と仲良くなって,その価値観を知ったほうが良いですし,医師以外の多職種・行政職・事務職,そして患者さんからも多くの事を学べます

 

最近,Antaaという医師・医学生のプラットフォームに参加するようになり,とあるご縁で,Multimorbidityの講演や嚥下エコーの講演をしてから,私のお知り合いが100人以上増えました。

 

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多種多様な年代の医学生さんだけでなく,内科医,泌尿器科,救急医,心臓血管外科,産業医,病理,研究職の先生など,様々なバックグラウンドの先生とつながるというのも価値観を広げることにつながると思います。

 

このようにブログやTwitterなどを使うことで,連載を頂いている医学書院をはじめとして,南山堂,羊土社,中外医学社,金芳堂,日本医事新報など多くの医学書の編集の方とつながることになり,それを介してまた新たな繋がりができるのもこの時代の新しい価値観の広げ方かもしれません。

 

 

もちろん,医療職同士の価値観も狭いものですし,患者さんには様々なバックグラウンドがあり,なかなかリアルに経験することは出来ないです。例えば,バーチャルな体験をするなら,西成区で七十八日間ドヤ街を生活した記録であったり,川崎での同様の記録はまさに価値観を広げるものでありますし

漫画であれば,ちょっと情報弱者だったり、気を抜いたりするとハマってしまうダークな世界をリアルに描いている,闇金ウシジマくんという漫画もありますが,これも作者の取材に基づいたものであり,リアルな日本人のダークサイドを知り,価値観を広げるきっかけになると思います。

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価値を広げること,患者の背景を探ることを習慣化する事が大事

といいましたが,習慣化するまでにどのぐらいの時間が必要だと思いますか?

実は,何事もまずは3週間頑張ってみると良いと言われています。

3日は、「3日坊主」や「小さな3連勝」のように、最初の反発をのりこえる期間です。

3週間は、「21日で習慣化される」という説があります(習慣にもよりますが)。

30日は、行動習慣(読書、学習、片づけなど)が定着するまでの1ヶ月。

3ヶ月は、身体習慣(早起き、ダイエット、運動など)が定着するまでの期間。

3年間も継続すれば、それはもう立派な習慣になっているでしょう。

この流れを見ていくと、習慣化にトライする際には、まずは、始めた日を覚えておいて

・3日
・3週間
・30日

と単位を意識すれば良いと思います。

まず最初の目標は3日続ける。

それがクリアできたら、次は3週間の継続を目指す。

さらにもう少しがんばって、30日を目指していく。

1ヶ月間続けられたら、その行動は多少のイレギュラーがあっても続けられるようになるはずです。

そこまでできたら、3ヶ月続けてみると、今度は「100」というように「桁が変わる」。

これは大きな達成感があります。

そうして、次は3年間を目指してみる。

もちろん3日続けて,3週間続けて,30日,3年つづけば,すでに習慣化していると思います。このブログをきっかけに,自己省察を始めてみてはいかがでしょうか?

 

よく考えたら,鬼滅の刃を考察するはずが,知らない間に闇金ウシジマくんの話をしていますね。まったく全集中できていないようなので,修行が足りません。

 

いやむしろこれが

全集中・ブログの型 結び(オチ) 

なのかもしれません。

 

お後がよろしいようで。