南砺の病院家庭医が勉強記録を始めました。

富山県にある総合病院で働く病院家庭医です。勉強の記録を少しずつ書いていきます。

オープンダイアローグは認知症の高齢者に有効なのか

オープンダイアローグは認知症の高齢者に有効なのか

 

富山県内の家庭医療専攻医を対象にZoomの家庭医療勉強会があったのですが

そこの事例検討会で【オープンダイアローグ】という単語が出てきました。

私も、南山堂 治療 終末期の肺炎の執筆の時に、オープンダイアローグについて言及したり、家庭医療専門医の更新の時のポートフォリオでも実践した例についてまとめたので、普段からオープンダイアローグを使うことは多いです。(多職種で集まれない場合は、2,3人でやることのほうが多いですが)

 

ところが、意外なことに参加者の中でも初めて聞いたという方も多く、自分なりに理解している事をまとめてみたいと考えます。

 

私が始めてオープンダイアローグを知ったのは、この本でした。

この著, 翻訳者である斎藤環先生は、著作も多い精神科医で

①社会的ひきこもり
②病跡学(『関係の化学としての文学』で2010年度の日本病跡学会賞を受賞)
③(ラカンの)精神分析(本書で2013年に第十一回角川財団学芸賞を受賞)
④思春期・青年期の精神病理学

をご専門にされ、筑波大医学医療系社会精神保健学の教授をされています。

 

②の病跡学は耳慣れない言葉ですが、ドイツの精神科医メービウスが20世紀初頭に造語したパトグラフィー(Pathographie)の翻訳です。精神的に傑出した歴史的人物の精神医学的伝記やその系統的研究を指したり、精神医学や心理学の知識をつかって、天才の個性と創造性を研究しようというものです。

興味があれば【日本病跡学会】のHPがありますので、御覧ください

http://square.umin.ac.jp/~pathog/pathography/bing_ji_xuetoha.html

 

中高年の引きこもり

 とか

社会的ひきこもり

など有名な書籍は多いのですが

 

個人的には④思春期・青年期の精神病理学についてユニークに論じている

世界が土曜の夜の夢なら ヤンキーと精神分析 (角川文庫)

 の印象が強いです。

この本は、私の中では【ネタ本】なので賛否は分かれます。

これは【個人の美意識に潜むヤンキー性】に関心が向けられています。

・初期のビートたけしと、彼の愛用していたセーターのブランド、フィッチェ・ウオーモ、ならびにフィッチェのドン小西
・羽根付きのセダン、デコトラ、デコチャリ
・ダッシュボードのムートン、ヌイグルミ
・車のナンバーへのこだわり(ゾロ目、左右対称、一桁、連番)
・「光りもの」へのこだわり、車に装着するブラックライトやアンダーネオン、家の外壁のイルミネーション、あるいはルミナリエ、ミレナリオ?
・ジャージ、ゴールドのネックレス、セカンドバッグ、ジャンボカット
・ヴィトンのバッグ、ピーチ・ジョンの下着
・ギャル雑誌「小悪魔ageha」
・成人式における純白の羽織袴、虎壱の作業服
・サンリオ、ミキハウス、ディズニーランド
・ドン・キホーテ、パチンコ屋、競馬場、地方の街道沿いのスーパー、ショッピングモール
・矢沢永吉、BOOWY、B'z、GLAY、浜崎あゆみ
・工藤静香、木村拓哉、飯島愛、高橋歩、相田みつを
・EXILE、KAT-TUN、ジャニーズ、ビジュアル系
・「クローズZERO」「ROOKIES」「ドロップ」などの映画
・ヤンキー文化に照準する小説家として桐野夏生、赤坂真理。ルーツとしての中上健次

 

という一般市民からみた【ヤンキー美意識】ともいえる像です。

このヤンキー美意識を端的に言うと、「気合いとアゲアゲのノリさえあれば、まあなんとかなるべ」ということになり、そのファッションをすることでアゲアゲになり、【土曜の夜を煌め】かせるというサブカル的日本文化論が非常に面白いです。

多分、斎藤先生の言うところの【仲間、絆、反知性主義、感情主義、行動主義、気合い。それこそが日本の大衆「ヤンキー」である】【日本人は、ヤンキーが好き】という主張にバチッとハマってしまったんだと思います。

 

一応、さらっと③ラカンの復習だけ

ジャック・ラカン(1901−1981年)はフランスの精神科医です。フランスの精神分析における構造主義の思想に影響を及ぼした人物の一人です。

フロイトの精神分析学では無意識というものがどういうものかを説明していなかったのですが、ラカンは鏡像段階論でこの無意識がどうやってできるのかということを考えました。

 

http://kagurakanon.sakura.ne.jp/10200.html

結論は「無意識は一つの言語として構造化されている」というものでした。

 

人間は、3~5歳のエディプス期と呼ばれる時期に「他者」との関係のなかで「私」がつくられます。どうするかというと、周りの「他者」から言語を学ぶことで、「私」が作られるというのです。

これは、言葉そのもの(シニフィアン)が心に差し込まれる状態だと言います。いろいろなシニフィアンが入ってきて、シニフィアン同士の差違を整理して、体系づけるのです。すなわち、無意識はシニフィアンの「差違の体系」として、構造化されていくのです。

 

このように他者から言語を学ぶなかで、「私」は無意識的に言語を使い、自分の思いを自由に伝えられるようになります。すると「私」というのは、無意識に体系づけられる言語をもとにつくられるものと言えるのです。

 

ラカンは、人間の生きる世界を「現実界」「想像界」「象徴界」という3つに整理しています。細かくは上記URLをご覧いただければと思いますが

現実界・象徴界・想像界 - Wikipedia

 

想像界はまだ「母親(他者)」と「私」の区別がつかない世界です。なぜ想像なのかというとこの時期は比較的わかりやすくイメージされるものだけで構成されているので、「日常」「平和」「不幸」のような人であれば誰もが漠然とイメージできるけれども、その正確な描写となると大変な労力を要する世界。

 

象徴界は、言葉を使ってネットワークを構築した世界。普段の世界。個人の無意識の欲望を規制監督する「大文字の他者」という概念で「私」は社会のルールに従っている。本当の「私」というよりは、社会で生きていくために「つくられた私」「象徴化された私」となっている。

 

その中で生きていくことが耐えられなくなって、精神が破綻し、無秩序な世界に落ちてしまった世界が「現実界」なのです。規制や秩序を取っ払った、生々しい裸の現実で、幻覚として現れる世界とも言えます。

 

 

例えば我々は日々、他者に対して「あいつは口だけだ」「あいつは外面だけだ」「あいつは上から目線だ」「あいつはいい加減な奴だ」などとイライラした感情を覚えたりしますが、ではこうしたイライラはなぜ起きるのでしょうか?よくよく胸に手を当てて考えてみると、案外自身の隠れた理想が反転した形であることが実に多かったりします。我々はまさに自身の理想を他者に奪われているからこそ、双数関係的にイライラするのです。

 

このように自身の立ち位置を変える事で当然、理想のイメージは相対的に変わって来るある意味で鏡の世界を生きているので、他者という鏡像は道を照らす光にもなれば歩みを縛る鎖にもなる事を自覚し、重要なのは自らの理想の正しさを時には疑い、あるいは破棄し、更新していくことであるとしています。

 

というわけで、ここまでがいつもの余談です。(2900字)

 

オープンダイアローグの話に戻ります。

 

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https://ci.nii.ac.jp/naid/40021229124

この論文が網羅的に記載されています。

 

日本プライマリ・ケア連合学会誌にも孫大輔先生が

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https://www.jstage.jst.go.jp/article/generalist/41/3/41_129/_pdf

でまとめておられますので、御覧ください。

孫先生はまちけんダイアローグという取り組みもされていますので、興味のある方はご覧ください。

【対話で深めるプライマリ・ケア】対話 応用編 市民と医療者の対話 みんくるカフェ/まちけんダイアローグ(解説/特集

https://ci.nii.ac.jp/naid/40021927448/

 

オープンダイアローグ(Open dialogue)はフィンランド発の精神療法です。単に手法というばかりではなく、実践のためのシステムや思想を指す言葉でもあり、1980年代にフィンランドのケロプダス病院で始まりました。

 

斎藤環先生の講演スライド

https://medical-society-production-tkypa.s3.ap-northeast-1.amazonaws.com/uploads/theme/pdf/516/20181103_001.pdf

より、提唱者であるJaakko Seikkula(ヤーコ・セイックラ)のことが紹介されています

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ダイアローグとは「対話」という意味であり、オープンダイアローグとは文字通り開かれた対話のことです。

薬が必要だった統合失調症や発達障害の治療法としても期待されています。

 

実際には、患者やその家族から依頼を受けた医療スタッフが、24時間以内に治療チームを招集して患者の自宅を訪問し、症状が治まるまで毎日対話する、というシンプルな方法で、入院治療・薬物治療は可能な限り行いません。

 

このシンプルな介入により、抗精神病薬をほとんど使うことなく、2年間の予後調査で初発患者の82%の症状を、再発がないか、ごく軽微なものに抑えるなど、目覚ましい成果が得られていると報告されています[関連文献 PMID:14606203、16433289、12197148、16633478]。

 

患者を批判しないで、とにかく対話する、などのルールがあり、統合失調症患者は(創造的である反面、極言すれば病的でもある)モノローグ(独り言)に陥りやすく、そこから開放することを目標としています。

 

ミーティングの参加者は、患者、家族、友人、医師、看護師、セラピストなど、患者に関わる全ての人が対象となります。ミーティングは基本的に全員参加で、医療チームでの話し合いもすべて患者の眼の前で行い、患者の同意なしに進めることはありません

 

医師の指導を仰ぐなどの上下関係はなく、専門家も家族や友人も同じ立場で発言し、耳を傾けます。可能な限り「開かれた質問(「はい/いいえ」以上の答えが求められる質問)」から対話を始め、治療チームは患者やその他のメンバーの発言すべてに応答しなければなりません。

 

これらは

オープンダイアローグ・ネットワーク・ジャパン(ODNJP) オープンダイアローグ 対話実践のガイドライン

http://www.yuki-enishi.com/psychiatry/psychiatry-53.pdf

にまとめられていますので、それもご参照ください。

 

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今回は、実践しやすいように対話実践のところを中心に説明しますが、3つの側面のうちの1つに過ぎず、この地域の精神医療のサービス提供システムのひとつであり、対話実践の技法であり、その背景にある世界観を意味することです。つまり統合失調症の治療や治癒という言葉はオープンダイアローグによって生じる変化の総体の、ごく一部を示した言葉でしかないのです。

 

このガイドラインでも特殊な訓練は必要なく、7つの原則を理解しつつ「まずはやってみる」ところから勧められています。

 

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一つ一つ説明すると

1.即時対応:依頼があれば24時間以内に対応する。例えば症状が出ているのは思いや体験が表在化している短時間に話をきたほうが良いからです。

2.社会的ネットワークの視点:患者を取り巻くネットワークの中で様々な問題が起きているので、患者と家族の話を別々の場で聞くのは止める。(大切なつながりのある人を招く)

3.柔軟性と機動性:今ある制度の中でできる工夫を何でも試す。一般的な型にはめようとしない。

4.責任を持つ:どこかに紹介するのではなく、その人も対話に巻き込むよう調整する

5.心理的連続性:患者をよく知っているチームが最初からずっと関わる。(異動があっても必ず1人は橋渡し役になる)

6.不確実性に耐える:結論を急がない。葛藤や相違が会っても、多様な声を共存させる(ポリフォニー)。対話を続けることでその家族と患者ならではの独自の道筋が見えてくる。

7.対話主義:対話を続けること自体を目的にする。多様な声に耳を傾ける。対話は手段ではなく、それ自体が目的である。

 

そして3つの概念の一つである対話実践の要素には12個あります。

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3.治療ミーティングを継続的に担当する2人(あるいはそれ以上)のスタッフを選ぶ

4.クライアント、家族、つながりのある人々を、最初から治療ミーティングに招く

5.治療ミーティングを「開かれた質問」からはじめる

6.クライアントの語りの全てに耳を傾け、応答する

7.対話の場で今まさに起きていることに焦点を当てる

8.さまざまなものの見方を尊重し、多様な視点を引き出す(多声性:ポリフォニー)

9.対話の場では、お互いの人間関係をめぐる反応や気持ちを大切に扱う

10.一見問題に見える言動であっても病気のせいにせず、困難な状況への自然な意味のある反応と捉えて対応する

11.症状を報告してもらうのではなく、クライアントのことや物語に耳を傾ける

12.治療ミーティングでは、スタッフ同士が、参加者たちの語りを聞いて心を動かされたこと、浮かんできたイメージ、アイデアなどを参加者の前で話し合い時間をとる(リフレクティング)

これは、ガイドラインにあるので、よく読んでください。

http://www.yuki-enishi.com/psychiatry/psychiatry-53.pdf

 

これらをまとめたフローがこれです(斎藤環先生スライド)

https://medical-society-production-tkypa.s3.ap-northeast-1.amazonaws.com/uploads/theme/pdf/516/20181103_001.pdf

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ここで重要なのは、対話とは何かです。

よく間違えがちなのは、議論や説得、説明は対話ではなく、モノローグとも言うべきものです。議論、説得、説明は、すべて結論ありきで、相手にわからせよう、伝えよう、意見を変えてやろうという意図のやりとりは、すべて対話ではないといえます。そして、正しさや客観的事実のことは一旦忘れて、主観を共有するイメージを持つことです。

 

対話の目的は、対話を続けることそれ自体です。対話を続け、広げ、深めることを目指します。相手の気持が変わる、結論が変わる、選択肢が変わることを目指すのは対話ではありません。結論を求めるためではなく、支援を必要とする主体がいて、その主体との対話が軸となります。主役は主体であり、周囲はそれに対して感想などを返していきます。そうするうちに、中心にいる患者の症状が消えていくのです。

 

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このやり方の良いところは

①患者不在のところで、患者に関することを決めない。必ず患者の目の前で話すことで患者の知る権利を尊重している。

②医師ー患者という二者関係にならない。チームで関わるので、無意識のうちにヒエラルキーがあるまま会話が進みがちな階層構造を徹底的になくすというところに魅力があります。

という治療における倫理的問題が生じにくいところです。

 

さて、統合失調症や発達障害の場合は、患者の声に耳を傾けることが全てでした。

では、認知症の高齢者(耳も遠くて、理解も難しい)という場合はオープンダイアローグは有効なのでしょうか?

 

オープンダイアローグの聞く姿勢で重要なのは

「共感」と「興味関心」と「感想を伝える」ことです。

 

共感で大事なのは「私も同じ経験があるので辛い」とか「話を聞いていて私も苦しくなってきました」などの感情を伴った聞き方です。そして、相手の話を批判したり指定しないことも重要です。言葉だけでなく態度でも否定してはいけません。対話の目的は「何が正しいか」を追求することではないく、主観と主観の交換なので、批判をする必要はないのです。

 

興味関心は、基本的な姿勢として「あなたのことをもっと知りたい」というスタンスです。上からでも下からでもなく、相手に対する好奇心と尊敬の気持ちを忘れずに向き合うことです。その時にどんな気持ちだったのかとか、経験を深めて描写してもらうようなアプローチです。

 

感想を伝えるということも大事です。相手に迎合する必要はなく、自分が同意するなら「私もそう思う」ですし、もし意見が合わなかったときには、「私はそうは思いません」と伝えつつ、なぜそう思うのかを丁寧に聞くことになります。

 

逆にやってはいけないことは「まとめたり・解釈したりすること」です。

「一般的に言うとこういうことですね」とまとめることで相手が不安になります。「わかったつもりになる」ことをどれだけ我慢できるかが重要です。もし一致していればいいのですが、わかったつもりで対応することで、対話ではなくなります。わからないものを無理にわからなくてもよく、例えば、統合失調症の患者さんが「幻聴が聞こえた」と訴えてきてもむりに「わかる」と同意しなくても「私には聞こえないのでわかりませんが、わからないのでもっと詳しく教えて下さい」と答えることで、相手に知りたいと思われている事自体が癒しになります。

 

もうひとつ大事なことに、オープンダイアローグは、なんでも包み隠さずに話すところではありません。喋りたくないことは喋らなくてもいい、秘密を暴く手法ではないのです。相手が話したくないというのであれば、無理に言葉を引き出す必要はなく「何を考えているか」「何を感じているか」というところに焦点を当てると良いのです。

 

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あまり話さない方の会話をうながすテクニックとしてリフレクティングというものがあります。

これは患者の前で専門家どうしが患者の噂話をするような形を取ります。具体的には、患者の評価や今後の方針などを、専門家同士の対話のなかで話し合ってみせる(患者との相手に壁を意識して、見ようとしない)のです。例えば「この人はこういうことをがんばっていると思う」とか「努力が及ばないときには治療を受けてみるのもいいのでは」「こんなふうに考えているんじゃないか」などのように。自分について話し合っているのも人は無視できないので、面と向き合って話すよりもしっかり話を聞いてくれたり、「そうじゃない」と返事をすることもあります。もちろん、これを多用するのは対話ではないので、あくまで手法として考えてください。ただし、対話実践の基本要素1に「本人の事は本人のいないところでは決めない(Being transparent)」の一環でもありますので、その話し合いが終わったら、患者がどう感じたのかを尋ねると良いでしょう。

 

具体的な対話の方法は、ガイドラインに導入の仕方があるので参考にして下さい。

http://www.yuki-enishi.com/psychiatry/psychiatry-53.pdf

対話の様子も、斎藤環先生のインビューで紹介されています。

https://www.nhk.or.jp/heart-net/article/233/

 

ようやく本題ですが(まだ始まっていなかった。ちなみに7000字)

そんなオープンダイアローグを認知症の高齢者の方で実践できるのでしょうか?

 

実は、認知症は一見するとお話を理解できないためオープンダイアローグには向かないと思われがちです。

 

ここで、斎藤環先生の専門の一つである「ひきこもり」という概念が活きてくるのです。余談は案外こういうところに活きてきますので、余談を楽しむ余裕がほしいです。

 

斎藤先生は、ひきこもりとは、病名や診断名ではなく、状態を示すとしています。そして、その状態にどのような介入ができるのかというと、人間関係そのものが治療的な意味を持っている、すなわち、介入者と患者が安定した関係を持つこと自体に、治療的効果があるとしています。とはいえその接触が難しいのが、ひきこもりなのです。

 

では身近な存在はなにか、家族ですよね。ところが、一番身近な存在である家族の意識が、本人を否定し追い込んでいることも少なくないのです。これは摂食障害における「ゴールデンケージ(金の鳥かご)」ともいえる共感と思いやりに満ちた支配関係と同じなのです。

 

また、二重拘束(ダブルバインド)という状況も日本の家族に特徴的です。これは、言葉と態度が裏腹な時に起こります。否定しながら抱きしめたり、大事だよと言いながら放置したりという関係です。

 

そのような重要な役割を与える家族にどのように介入するかというと、オープンダイアローグに代表されるように、本人に対する否定や批判ではなく、何より安心できる居場所を提供すること、共感を持って寄り添うことが重要になるのです。

 

ここで、ひきこもりを認知症に置き換えてみると

家族は思いと善意の中で知らず識らずのうちに本人を否定し、できることを奪ってしまっている。これも二重拘束であり、ゴールデンケージ(金の鳥かご)なのです。人間関係の安定が大きな効果を生み、家族と地域に安心できる居場所を作ることや共感を持って寄り添うことが重要になるのです。

 

おそらく、認知症の程度によっては十分言葉を聞いて考え方を理解することは難しいかもしれませんが、周囲の家族の二重拘束がないかを明らかにしながら本人の生き方・考え方を聞いたり本人の非言語的な様子に気づき、言葉にできない言葉を引き出すこと(エンパワメント)で、家族というシステムの中で、どのような困り事があって、本人や家族の思いがどう違っているのかを感じることや、これまでの認知症診療で感じている医者としての自分の感情にとらわれずに、対話を通じてまるごと理解することは可能なのではないかと思います。

 

また、認知症でなくても、悪性腫瘍の終末期の患者さんで、老老介護をしている介護者が疲弊している場合に「本人が家に帰りたい」といっていることが、本当に本人が望んでいることなのかと考えるというときにも役立つと思います。なんとなく医療者の常識に「在宅こそすべて」「ぎりぎりで病院で亡くなるのは可愛そう」というものがありますが、少なくとも、家族ごとに物語はありますし、その固定されたイメージを取り払って、対話をするということが、今後の医療にも必要になってくるのではないかと思います。

 

これもラカンの余談の時に出てきた

重要なのは自らの理想の正しさを時には疑い、あるいは破棄し、更新していくことである」というところなのかもしれません。

 

余談をすべて回収できて満足しています。(ヤンキー以外)

 

最後の1フレーズを言いたいがために、9000字も書いてしまいました。

おかげで、私が一番理解が深まりました。

お付き合いいただきありがとうございました。

 

追記:ブログ中には紹介しませんでしたが

精神医療のパラダイムシフトは どこまで実現するか

http://www.therap.or.jp/nw/seijiren/file/kinenkouen.pdf

これは、ここまでの前提知識があれば面白いのでぜひご覧ください。