【献本御礼】Gノート6月号 摂食嚥下障害のための完全側臥位法
まぐれとしか言いようがない、田舎研修バブルはひと段落しました。
見ての通り、1日平均100〜200PVのブログが1924PVと訳のわからないことになっています。
もしご覧になっていない方がいたら、この論文も是非ご覧ください。
今日は献本をいただきましたので、本の紹介をさせてください。
今月は、歯と口腔の基礎知識というテーマでした。
目次は羊土社のHPhttps://www.yodosha.co.jp/gnote/book/9784758123464/index.html
より引用です。
この中の「横向き寝で食べてみる!摂食嚥下障害のための完全側臥位法」という記事を書かれた、川端康一先生より御献本を賜りました。川端先生ありがとうございました。
川端先生は富山県内で摂食嚥下のトップランナーで、「北陸の摂食嚥下ケアを支える会」も主催され、なぜか私もこの会の世話人に混ぜていただいています。(嚥下エコーと臨床推論ぐらいしか貢献できそうにありませんが…)
そんな川端先生は「完全側臥位法 Complete Lateral Position」という姿勢を紹介されています。
この名前を聞いたことがあるでしょうか?
専攻医何名かに聞いたところ、聞いたことがない、あるで半々でした。
「重度嚥下障害患者に対する完全側臥位法による嚥下リハビリテーション」という論文が元になっていますので、興味のある方はご覧ください。
百聞は一見に如かず、まずはこの動画をご覧ください。
【富山西総合病院】在宅医療部 内科 川端康一 医師『嚥下障害への挑戦』
特に3:01からの模型は大変わかりやすいです。
体を起こした状態で液体を入れると一部が気管に入ってしまう事もあるのですが
これは食事の流れが、空気の流れ(気管)の上を通ってしまっているからです。
完全側臥位法だと、空気の通り道である気管にダイレクトに食事が通ることはなく、咽頭腔に貯留し、安全に食物が移動する訳です。
動画にするとわかりやすいです。
ちなみに、飛騨市民病院の工藤 浩先生も日老医誌 2019;56:59―66に完全側臥位法を紹介されています。
嚥下機能障害が疑われ NST が介入した 142 例(85±8.3 歳)に完全側臥位法導入後、栄養療法、リハビリテーションの併用 により、血中 Alb 値、Barthel index の改善を認め、対照群と比較し経口栄養での退院が有意に増加(26.5→53.2%)とあります。
https://www.jstage.jst.go.jp/article/geriatrics/56/1/56_56.59/_pdf/-char/ja
私の所属する病院でも、完全側臥位法は実戦していますが、ただ横になって食べればいいのではないかと思われるかもしれませんが、練習もなくこれを行うことは困難です。
考えてもみてください。皆さんは横になって何かを食べたり飲んだことがありますか?怖くないですか?食べさせるとなると大変そうじゃないですか?
ですが、嚥下内視鏡検査で他の姿勢で全く食べられない方が、この姿勢であれば食べられるという経験をしてしまうと、知っておいても損はないのかなと思います。
ここで重要なのは「これによって得られる共通のゴールを明確にして、本人も介護者も医療介護職も共通のやり方を身につける」ということなのです。正しい姿勢がわかれば、再現性も高く実戦できるため、自宅でも実践可能です。もちろん、嚥下内視鏡で安全に飲み込めるかを確認して実践していますが、もし確認できるのであれば検討しても良いと思います。
具体的な適応は
嚥下反射惹起後の咽頭残留が多い方が適応です。
症状としては、普段は湿性嗄声(ガラガラした声)を認めるのですが、完全側臥位になるとガラガラした声が消えるというのがわかりやすい例です。
利き腕が上になる方が望ましいため、右利きの方は左側臥位になることが多いですが、左側臥位の方が食道裂孔ヘルニアがあると嘔吐しやすいので注意が必要です(後述)。
個人的に注意ですが
新聞やTVなどで見聞きした完全側臥位を希望される患者さんの家族もおられます。
個人的には、あくまでSTの評価が前提であると思います。適切な病態に限り使用しないと、いつまでも同じ姿勢で食べ続けることになり廃用が進むこともあり得ます。
たまたま完全側臥位で食べられるからと言って、口腔機能の送り込みや食塊形成が前傾座位よりもしにくくなるので、その機能が衰えてしまいます。あくまでどこに問題があるのかを確認してから適切な症例に試した方が良いでしょう。
嚥下反射、食塊形成ができていて、嚥下反射だけが落ちている場合は、選択肢になるでしょう。とはいえ、全く嚥下反射がない場合はやはり難しいので適応を考えなければなりません。
食塊形成できない方にきざみ食以上の物を提供していると難しくなるとか、食道裂孔ヘルニアがあると左側臥位だと嘔吐しやすくなるとか、やはり一人一人に合った方法の一つとして選択できればと思います。
もう一つ、口腔からの送り込みに問題があれば、0度仰臥位法(ゼロ度仰臥位法)という方法もあります。この知名度はさらに低くなります。正直、私もわずかにしか試したことはありません。適応は提唱者の福村先生講演内容を抜粋した以下のブログに紹介されています。
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【嚥下機能の適応】
◆口腔からの送り込み障害がある。
◆嘔吐や食道咽頭逆流の明らかなリスクがないこと。
◆上咽頭逆流がないか軽度であること。
◆咽頭残留が少ないこと。
【身体機能の適応】
◆体幹機能が低下していて座位が不能な症例。
◆ギャッジアップ時に姿勢が崩れる症例。
◆体幹が緊張して嚥下機能が有意に低下する症例。
【利点】
◆姿勢保持の重点である頚部前屈の管理に集中できる。
◆姿勢介助が楽にできるため在宅や施設において介護負担軽減が期待できる。
座位保持困難で送り込み障害があるけど嚥下反射はそれなりである場合に有効なのでしょうね。
個人的には、何でもかんでも完全側臥位ではなく、患者さんのベストを考える上での姿勢の一つであることを十分理解していただいて、Gノートを手にとっていただければと思います。
(COI:著者より本をいただきました)