南砺の病院家庭医が勉強記録を始めました。

富山県にある総合病院で働く病院家庭医です。勉強の記録を少しずつ書いていきます。

スキルの未来:2030年のAI時代に必要なスキルとは?

スキルの未来:2030年に必要なスキルとは?

THE FUTURE OF SKILLS EMPLOYMENT IN 2030

https://futureskills.pearson.com/research/assets/pdfs/technical-report.pdf

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明けましておめでとうございます。

本年もよろしくお願いを申し上げます。

 

新年1発目のお話をどうしようかと思っていたら

Facebookで教育の道に進んだ旧友が、こんな記事を紹介していました。

総合診療医にも非常に親和性のある話題なので、それを題材にまったりと勉強したいと思います。

 

紹介されていたのはBUSINESS INSIDERより

AI時代生き残れるのは「変化を楽しめる」人。2030年に必要なスキルの1位は。

オズボーン・オックスフォード大教授インタビュー

https://www.businessinsider.jp/post-204370?fbclid=IwAR0jgbdOMXWKWC73BYE2b7EOOpjdzBdolU8e1At0CdYradZeBZ-jbsyzIu8

 

マイケル・オズボーン教授は2013年の論文「雇用の未来」で、2050年にAIによって現在ある職業の47%はなくなると指摘したことでも有名です。

 

 

AIが人間の仕事を奪うという「悲観論」と、AIの能力はそれほどでもないとする「楽観論」の議論が交錯した論文でした。

 

皆さん原文読まれたことありますか?

このブログのために原著読みました。

 

Osborn, M. & Frey, C.(2014)The Future of Employment

https://www.oxfordmartin.ox.ac.uk/downloads/academic/The_Future_of_Employment.pdf

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72ページにわたる論文でした。

何処に書いてあるのかと読み進めていくと

Appendixに702のAIによってなくなる仕事が書かれていました。

興味がある方はご覧ください。

 

ちなみに、医師はAIに取って代わられる確率の低い職業15位でした。

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個人的にはこの図の方が分かりやすかったです。

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このグラフの緑がヘルスケア領域なので、AIによる支配は少ない(低リスク)と予想されています。

 

ただ、この論文でオズボーン教授は、「AIによって人間の仕事が奪われる」可能性も指摘していますが、「AIが新たな雇用機会をもたらす」事も指摘しています。

 

特に日本では少子高齢化による労働力不足が懸念されます。そんな時代のAIは失業を生むものではなく、むしろ労働力不足を補うものです。

 

事実、平成28年版 総務省 情報通信白書でも

https://www.soumu.go.jp/johotsusintokei/whitepaper/ja/h28/pdf/n4300000.pdf

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AIによる代替の影響をうける雇用もあれば、AIにより創出される職種が増えてくることが指摘されています。

 

その後、オズボーン教授は、その反響に応えるため2017年に発表した「スキルの未来」で2030年にAI時代を生きるために必要なスキルをまとめています。

 

THE FUTURE OF SKILLS EMPLOYMENT IN 2030

https://futureskills.pearson.com/research/assets/pdfs/technical-report.pdf

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総ページ数は124ページ。もちろん読みましたよ。

重要なのは61ページのどんなスキルが必要なのかです。

 

2030年に必要とされるスキル

 

参考までに21位からは

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私、総合診療医に必要なスキルの事を考えてきて、たまたまこの20位までのランクを見て感じたのですが、これって総合診療医に必要なスキルと全く一緒じゃないかと思うのです。

 

例えば一番重要と言われているのが

戦略的学習力 Learning Strategies」です

単なる知識獲得ではなく、より深い本質的な学び、自ら学び続けるための教育が重要になります。医師が生涯学習をする能力もプロフェッショナルとしての必須スキルといえます。これは学術的な知識のアップデートやマニュアル化できる形式知だけでなく、経験から獲得し言語化が難しい知ーいわゆる暗黙知をどう身につけるかというところに行きつくのではないかと思われます。

 

医学書院 医学界新聞 2014年2月24日の

経験を糧にするのは問いと振り返り エキスパートの暗黙知を学ぶ

楠見 孝氏(京都大学大学院教育学研究科 教授 教育心理学)
前田 樹海氏(東京有明医療大学看護学部 教授 看護情報学)

の対談が参考になります。

 

https://www.igaku-shoin.co.jp/paperDetail.do?id=PA03065_01

金井壽宏,楠見孝 編.実践知.有斐閣;2012. p28より

 

ここでも、振り返りと目標設定の習慣が実践知を言語化し形式知にすることが推奨されています。

 

家庭医療の世界では、省察的実践という言葉があります

以前、ブログでも紹介しましたが 

 

省察的実践という言葉を聞きなれない方もいらっしゃると思います。

「ドナルドショーン」の画像検索結果

ドナルド・ショーン - Wikipedia(1930-1997) アメリカの哲学者

 

専門職教育はこれまで、技術的合理性の視点で、専門家になるということは理論的知識を学び、それを応用するための手続きやルールを学ぶものだと考えられてきました。

ところが、ショーンは専門家になることを「経験や省察を通じて手続きやルールに還元できない技能やわざを身に着けることである」として、実習など現場に近い状況での教育を重要視しました。

具体的には、決まりきった問題を解決するのではなく、クライアントや状況の個別性の複雑な状況に対応するような専門家になるために、自らの技能の在り方や限界を認識したり、修正したりする(省察)ことができることを省察的実践家(reflective practitioner)としているのです。

 

具体的には藤沼先生のブログをご参照いただけると幸いです。

「reflection in action on action knowing in practice 省察」の画像検索結果

実践知であるknowing-in-practiceは実践を通じて技能やわざを駆使することです。

そこで予想しない出来事が起きた時に

実践内省察reflection-in-action、すなわち実践をしながら、困難に直面した時に、問題設定、解決策の導出、解決策の実施に関する既存の枠組みを見直し、新たな解決策の創出と実践を行うことを行います。

その後、ひと段落してから実践についての省察reflection-on-action:過去の実践を想起しながら、自らの実践知、実践内省察の枠組みについて考えることを経て実践知knowing-in-practiceを積み上げていくのが省察的実践家の姿といえるのです。

もちろん、このステップは一方通行ではなく、in actionから実践知を積み重ねてもよく、in actionでははっきりしなかったものをon actionで振り返ることで実践知を得ることもあるわけです。

 

個人の学習だけでなく、組織にも還元できることが求められます。

ビジネスの世界ではナレッジ・マネジメント・サイクル(SECIモデル)ともいわれます。

「ナレッジ・マネジメント」の画像検索結果

野中郁次郎他「知識経営のすすめ」参照

組織レベルでナレッジ・マネジメントを機能させるために① - 福祉マネジメント&デザイン

 

マニュアルは職員一人ひとりの内に秘めたるナレッジ(暗黙知)共同化(Socialization)し、形式知にできるよう文字や図示したものです 表出化(Externalization)。そしてそれを全員で改善し 統合化(Combination)

実践することで内面化(Internalization)する
すなわち「ナレッジ・マネジメント・サイクル」でいうと、共同化→表出化→統合化のプロセスを経ているわけです。

これらの頭文字をとってSECI(せき)モデルと言います。

 

これは一人一人の暗黙知を個別のものにしないで共同化して、表出して、統合して内面化を図るのですが、暗黙知を見つけるためには個人の「適応力」と「自ら学ぶ意欲」が必要です。言うなれば、「変化を楽しめる人間」こそが、生き残れるという事になります。

 

繰り返しますが、この20位までのランクは、総合診療医に必要なスキルと全く一緒なのです。

 

例えば

2位の心理学は、行動変容やコミュニケーションスキルにも関わってきます。

(11位の心理療法・カウンセリングも然り)

3位の指導力はリーダーシップ論に通じます。

4位の社会的洞察力で、地域診断を行います。

5位の社会学・人類学が、先述したエスノグラフィーの勉強が必要な理由と通じます

6位の教育学は成人学習理論や10位のアクティブラーニングに関わりますし、インストラクショナルデザインの考え方に必要です。

7位の協調性は家庭医療のコアコンピテンシーですし

8位の独創性はSpecial interestの組み合わせで創造できる可能性を秘めています

9位の発想の豊かさは、他業種や芸術から学ぶところが多いのかもしれません。

12位の哲学・神学も家庭医療を深めようとすると必ず向き合うことになります。

13位の伝達力、14位のサービス志向も、15位のアクティブリスニング、17位の表現力、18位のメディア力、19位のスピーチ力も家庭医の得意とするところです。

とりわけ16位のComplex Probrem Solvingについては

以前ブログで紹介したVUCA(ブーカ)やCynefin framework(クネビン・ネットワーク)などが良い例で、家庭医の専門性ともいえる領域です。

20位の意思決定力(Shared decision making)だけでも3本ブログを書いているようです。

 

最後は一気にまとめてしまいましたが

結論は、家庭医は2030年のAI時代に生き残るという事でした。

(そもそも、医者も生き残ると書いてあるのですが…その中でも生き残るはず。)

 

このランキングのお陰で私が学びたいものもたくさん見えてきました。

皆さんも新たに取り組んでみてはいかがでしょうか。

今年も雑多な勉強を紹介してきますので、どうぞよろしくお願いします。