南砺の病院家庭医が勉強記録を始めました。An archive of medical articles summarized by a family physician from Nanto Municipal Hospital.

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廣瀬源二郎先生の神経内科レクチャーまとめ

廣瀬源二郎先生の神経内科レクチャーまとめ

 

南砺市民病院 研修医スキルアップセミナー3本目

毎月1名ペースで、有名講師を招いています。

 

今月は、神経内科の神様、金沢医科大学脳神経内科の初代教授であられる

廣瀬源二郎先生にご講演をいただきました。

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神経診察の極意は多くのベテラン医師が読まれたことでしょう。

当院の研修医は皆読んでいます。私も持っています。

 

臨床神経内科学のような神経内科医が勉強するテキストを作成されているような先生なので、いわば神様のようなお方です。

 

今回は神経学的診察法のレクチャーだったのですが

重要な要点だけをまとめさせていただきます。

(詳細はテキストをご購入ください。非常にお求めやすい価格です。)

 

一般的神経学的検査のガイドライン(Neurology 2019; 13: 619-628)

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でもおすすめの診察はありますが

 

廣瀬先生のおすすめする神経学的診察の手順である

①利き手の確認

②精神状態

③言語

④脳神経

⑤運動系

⑥深部腱反射

⑦感覚系

⑧協調運動

⑨姿勢・歩行状態

⑩自律神経系

の順で、まとめていきます。(時間の都合で、⑦まで)

 

 

①利き手の確認

右利きは人口の94%で、100%言語能が左半球にありますが

左利きは人口の6%ですが、その60%は左半球に言語野があるのだそうです。

つまり、100人いて98人は左半球に言語野があると考えてよいかもしれません。

 

②精神状態

意識とは、自己と周囲の状況を十分に認識した状態です。

構成要素は<覚醒><認知>です

解剖学的には、覚醒は脳幹網様体賦活系で、認知は大脳皮質にあります。

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何気なく意識障害と言っても、どこが問題なのかを認識することは重要です。

 

意識障害患者の神経学的検査ガイドライン(Neurology 2019; 13: 619-628)

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も参考になると思います。

③言語

失語についてまとめます。

有名なのは、BrocaとWernickeと伝導失語です

運動失語(発語)であるBrocaは深度によって重症度が決まりますが

感覚失語(理解)であるWernickeは局在があいまいであることが特徴です。

また、その2点を結ぶ弓状束というものは、伝導失語に関わります。

リハビリ役立ち講座写真

伝導失語は、発話は基本的に流暢で構音も良好ですが、多量の音韻性錯語(めがね→めまめ など)が目立つ失語症で、吃音(どもり)のような話し方となることもあります。最大の特徴は復唱(真似していうこと)障害です。すなわち、言語を理解したうえで言ってもらうという事ができるかというところに関わってきます。

 

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この表は、一見すると大変そうですが、左から3つずつに分けて考えると理解しやすいです。

例えば、Broca、Wernicke、伝導失語が先述した3つですが

超皮質性運動;有用な自発語が減少ないし消失,言語理解は良好,復唱が可能

超皮質性感覚;滑らかな発話だが、言い間違い「時計→めがね」や「時計→こけい」などと間違える症状が頻発し内容にそぐわない

混合性全失語;ブローカ失語とウェルニッケ失語が合併しすべての言語機能に障害

の3つも同じような枠で考えると理解しやすく

残り2つは

失名辞失語:理解、産出そして復唱にはほとんど問題がないものの、失名辞(anomia)すなわち物の名前を喚起できない

視覚性失語名前は書けるけど、名前を読めない

となります。

④脳神経

脳神経はⅠ~Ⅻまでありますが、大事なところだけまとめます。

Ⅰ嗅神経

嗅覚異常で鑑別に考えるものには

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①嗅溝部の髄膜腫、②ヘルペス脳炎、③辺縁系脳炎

を想起しましょう。

 

Ⅱ視神経

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内頸動脈海綿静脈洞瘻(Carotid-cavernous fistula)

→海綿静脈洞内とその中を通る内頚動脈との間に動静脈瘻、つまりトンネルが生じた状態をいいます。海綿静脈洞内に内頚動脈の血液が直接流入するようになるために洞内の圧力が著しく上昇し、眼静脈などへの逆流が起こります。

「内頚動脈海綿静脈洞瘻」の画像検索結果

原因は、頭蓋底骨折による内頚動脈の破裂などの外傷性が多く、他にも海綿静脈洞内の脳動脈瘤破裂によって起こることもあります。

症状は眼静脈血の逆流・鬱滞は拍動性眼球突出・眼球結膜充血・浮腫を引き起こす。また、瘻孔から流出する血液によって拍動性雑音を前頭部や側頭部で聴取する。

 

神経線維腫症1型では視神経膠腫やLisch結節(無害な虹彩過誤腫)が有名

前者は失明の原因ともなりえますが、Lisch結節は無症状なのが特徴です。

見つけたら神経線維腫症1型を疑いましょう。

 

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虹彩異色症(heterochromia iridis)は、左右の眼で虹彩の色が異なる、もしくは、一方の瞳の虹彩の一部が変色する形質のことです。

見るポイントは、瞳孔の左右差(健側は散大)、瞼板筋麻痺、虹彩の変色です。

 

これググると、非常に美しい映像を見られます。

Heterochromia iridis - Google 検索

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眼底は水平性半盲が特徴的前部虚血性視神経症(AION :Anterior ischemic optic neuropathy)をおさえましょう

f:id:MOura:20191214024712p:plainhttps://www.jstage.jst.go.jp/article/tonyobyo1958/33/8/33_8_681/_pdf/-char/ja

 

また、コレステロール栓子のHollenhorst's olagueは

一過性黒内障の概念をこの概念を見つけて発表されたことでも有名です。

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水平性視野欠損は後述します。

 

Roth斑も復習

「Roth spot」の画像検索結果

 

ここからが、視覚路病変ですが

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この図で重要な点は2点。

①後ろに行くほど、視野欠損の右目と左目に差はなくなる。(Congruity 合同性)

②前の方ほど、合同性が失われる。その理由は、Meyer's temporal loopが広いので、やられる場所によって視野欠損のバリエーションがあること。

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水平性視野欠損の場合:支配血管の上の方がやられると、下の視野がやられるということを押さえておきましょう。

 

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同名半盲をきたす病変で考えるのは3つ

①後大脳動脈領域 (同名半盲のみ)

②中大脳動脈 (同名半盲+片麻痺)

③前脈絡叢動脈(同名半盲+片麻痺)

麻痺がある場合、後大脳動脈領域ではなく中大脳動脈領域と考えると覚えやすい。

 

ⅢⅣⅥ 動眼・滑車・外転神経

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この神経が脳神経の中で一番長い神経です。

特に外転神経は曲がっていますので

大きな腫瘍などで頭蓋内圧亢進があると偽性外転神経麻痺になるので注意です。

(参考)偽性外転神経麻痺を呈した視床傍正中部梗塞の 1 例

 

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複視を見たら、赤色ガラスを当てると、どっちにずれているかを見分けられます。

赤と普通の見え方が交差しているかどうかで

外直筋麻痺:非交差性複視

内直筋麻痺:交差性複視

なので、鑑別に役立ちます

これは上方向複視でも役立ちます。

 

共同性眼球運動(PPRF、MLF)などもありましたが

眼球運動のピットフォールは

外転眼が上(下)を向く時、外転側の下(上)斜筋を使う

「外転眼が上(下)を向く時、外転側の下(上)斜筋」の画像検索結果

というところで、他は普通に思い出して下さい。

 

(余談)眼球運動異常からみた脳血管障害

https://www.jstage.jst.go.jp/article/jibi1954/39/6/39_1040/_pdf/-char/ja

廣瀬先生の論文も迫力があります

 

眼瞼下垂の鑑別

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https://www.jstage.jst.go.jp/article/kyorinmed/49/3/49_249/_pdf/-char/ja

動眼神経麻痺では患眼の散瞳、眼瞼下垂に外斜を伴い

Horner症候群では縮瞳がみられ、下垂の程度は軽い

筋原性眼瞼下垂(重症筋無力症、眼筋ミオパチー)では、両側性の挙筋機能低下あり

 

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左方視したとたんに、右眼上斜視 内旋不全なのが特徴(下を向ける内旋ができない)

→かなり珍しい。NEJMでも紹介されている。

 

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https://www.jstage.jst.go.jp/article/kyorinmed/49/3/49_249/_pdf/-char/ja

Bielshowsy頭部傾斜試験とは、患側に頭を傾けると患眼が上転することです。

 

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前額部のしびれと外転神経麻痺を見たら

Gradenigo's syndrome中耳炎+三叉神経眼枝痛+外転神経麻痺

を疑う

https://www.jstage.jst.go.jp/article/jibi1954/43/5Supplement3/43_726/_pdf/-char/ja

 

眼球運動の分類

Fixation 固視:じっと見るのだが、ずっと固定しているわけではなく、細かく網膜動く

Saccades 衝動性運動:末梢にあるものを視野の真ん中に一気に持っていく

Pursuit 追従性運動:逃げているものを追いかける 1秒間に5度の速度で動かす

Vergence 輻輳:パーキンソン病の患者は輻輳(寄り目)ができない

Vestibulo- ocular reflex 前庭眼反射:めまいの時にまとめたので省略

 

 

Ⅴ三叉神経

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鼻を中心にOnion Skin Patternであることと、三叉神経脊髄路核の走行を確認

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Ⅶ顔面神経

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顔面神経でポイントは鼓索神経、顔面神経運動枝は味覚を感じる鼓索神経にも分かれるし、涙腺を刺激して涙を出すこともできます。

 

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耳に帯状疱疹が見られる写真の紹介。

ここで末梢性ではなく末梢型と表現しているのもポイント

神経核を含めたものを抹消型と表現すべき 日本語を正しく使いましょう

 

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皮質型は自然に笑うことができるが、イーの口になるとできなくなり

視床型は自然に笑うことはできないが、イーの口になると上手にできる

 

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古いテキストでもイーってやるのができない写真が掲載されています。

 

Ⅷ前庭神経

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大事なのは②の福田の足踏み試験です。

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前庭神経障害か小脳障害で異常を呈する

 

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この中で1つだけというのであれば、注視眼振はヤバイ。

正中固視ではみられず、側方注視をしたときのみ注視方向に見られる水平性・混合性眼振で注視保持障害となる。(舌下神経前置核、前庭神経内側核、小脳が合わさって持続性の信号を出している)

 

歩行と立位では重要ポイントがあります。

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Mann試験と呼ばれるものがあります(青い足の絵)

これは、日本でしか使われない名称だそうです。

Mann先生の弟子に尋ねてもtandem Rombergと言っていたようなので、使わない方がよいとのお言葉でした。(共通言語なので私は使うと思いますが、覚えておきます。)

⑤運動系

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固縮は速度による抵抗はない。

痙縮は速度による抵抗がある。ゆっくりやるとできるが、早く動かすと引っかかる。

⑥深部腱反射

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腱反射は緊張を取るのがコツ。脚を組ませるのはダメ。膝枕をうまく使おう。

 

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Babinskiはフランス語読みでババンスキーと読む

親指までこすってはいけない。2,3指のところでとどめるのが大事

 

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Babinskiの論文だそうです。

バビンスキー徴候の原著(1986)は学会の抄録で、わずか28行の報告であったらしい

しかもこの原著は初版のみで一切増刷されなかったため、入手することが極めて困難と言われていたが、Lancet Neurologyに原著の写真があり、パリの古い書店に保管されていたようである。フランス語を邦訳されている。(脊椎脊髄28;234-237, 2015)

コラム | 岐阜大学大学院医学系研究科脳神経内科学分野

【いくつかの器質性中枢神経系疾患における足底皮膚反射について】
私は中枢神経系の器質的病変による片麻痺例、下肢の単麻痺例において、足底皮膚反射の乱れ(perturbation)を観察したので、以下に略述する。
足底(注:踵から趾の基部までの範囲)を刺すことにより、正常側では、正常者で通常みられるのと同様に、大腿が骨盤に対して、下腿が大腿に対して、足が下腿に対して、趾が中足に対して、それぞれ屈曲が誘発される。麻痺側では、大腿、下腿、足の屈曲は同様である。しかし、趾(複数)は屈曲することなく、中足に対して伸展運動をきたす。
これは、発症後わずか数日しか経っていない新鮮な片麻痺例でも、また数ヶ月経った痙性片麻痺例でも観察された;これは、趾の随意運動が不可能な患者でも、また趾の随意運動がまだ可能な症例でも確認した;しかし、この異常は恒常的なものではないことを付記しなければならない。
足底の針刺激後の趾の伸展運動は脊髄の器質病変による下肢の対麻痺の多数例でも観察した。

Babinskiは、足趾(複数)の屈曲は足底の痛み刺激で誘発されると指摘していることである。つまりこの時点では、必ずしも母趾に限っているわけではないこと、こする刺激ではなく痛み刺激であること、そして刺激部位についても詳細に言及していないことに注目する必要がある。

 

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重要なことは、強さよりも刺激の持続である。

踵から5~6秒かけてゆっくり刺激を与え、外側をやるだけでは不十分である。

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ここも重要ポイントである。

手掌を地面に向けて手を差し出すのを上肢Mingazziniというのだそうな。

もっというと、BarreさんはMingazziniの上肢テストと書いているのに、それをBarre徴候というようになってしまったようなのである。(そもそも上肢Barreなんてない)

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なお、もともと下肢はMingazziniが1913年に背臥位で紹介していた。ところがBarreは1919年に下肢は腹臥位でやった方が感度が良いという論文を出し、そこに先ほどの写真を載せていたので、Barre徴候が独り歩きしていたのである。

 

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ストゥルペルの回内落下試験は、まず手掌を天井に向けて、そこから回内させて、連続しているうちに落下してくるというものであった。

 

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何気なく手をテーブルに置いてもらって、第5指が外転している(隙間が空いている)というところも重要な所見です。

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これは実際に動画を見た方が良いのだが、固縮の軽いものを見落とさないように、健側を動かしてもらっているうちに、患側を動かすと固縮が確認できることがある。

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振戦をどう見るか。上肢前腕をまっすぐ水平に前に突き出す、あるいは決闘者の肢位が有効。flappingは振戦ではなく、ひらひらするという意味なので、注意。

⑦感覚系

最後は2つだけ紹介

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視床病変で手口感覚症候群をきたすことがある。

稀と仰っていたが私も2例ぐらい見ているので、侮れない。

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閉眼し患者の手掌に1-9の数字を書く。

書字が識別可能なら、指先から脊髄、対側視床、感覚野までの器質的病変はないと考えられる。心因的な疾患を疑ったときに有効。

 

最後に、印象に残ったスライド

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ハイテクが進むにつれて検査偏重となりハイポスキリア=医師の臨床能力低下症という指摘がなされている。最後の一文にあるように、ハイテクとハイタッチのジレンマ(検査とフィジカル)を両立できるように意識していきたい。

 

濃厚な講義であった。

そしてこれだけの講義を聴けるのは非常に贅沢である。

コーディネーターの先生方、お疲れさまでした。