嚥下治療にエコーは使えるのか?
(攻めのエコーと守りのエコーについて)
前回、嚥下エコーの話題を書きました。
実際には嚥下エコーを一回もしたことがないのに、それっぽくまとめてしまったおかげで学会の著名な方々からシェアしていただき、1日で1084人もの方がここを見てくださることになりました。ここをご覧のあなたもその一人です。ありがとうございます。
夜中に前回の投稿をして、翌朝目覚めたら
いきなりグラフがとんでもない伸びを見せており、とうとう炎上したかと思いました。
業界の有名人たちが私の投稿をシェアしてくださったからだったようです。
ありがとうございます。(絶対炎上しない投稿を心がけています)
そういえば、さきほど嚥下エコーを一回もしたことがないと書きましたが
実は本日、正確には1回だけしました。
自分にマイポケットエコーをあててご飯を食べてみましたが、さっぱり見えませんでした。そりゃそうです、プローブがセクタしかないようなポケットエコーだったんですから。とはいえ性能の問題だけでなく、腕の問題も両方ともありそうです。
そんな評価の分かれそうな嚥下エコーですが
リハ栄養で有名な若林秀隆先生から、嚥下エコーの最新論文を紹介していただきました。
Miura Y; Respir Care. 2019 Oct 29. PMID: 31662446
なんと日本の先生の研究です。
東京大学大学院医学系研究科 社会連携講座 イメージング看護学
今までそんなジャンルがあったことも知らない私ですが、研究者の皆さんのテーマがまた面白い。
東京大学大学院医学系研究科 社会連携講座 イメージング看護学
褥瘡エコーと嚥下エコー、そして人工知能
私、ここに入局すればよいのでしょうか?
これを紹介するだけでも、ブログ1本分の価値がありそうですが
ひとまず内容だけ紹介します。
(普段なら気合で全訳なのですが、都合でダイジェストにします。興味ある方は本文をご覧ください)
目的:超音波で梨状窩の食物残差の貯留を可視化する方法の開発。
方法:Real-time virtual sonography (RVS)リアルタイム仮想超音波検査(磁気共鳴画像と超音波画像の融合)を使用して、4人の健常者の梨状窩と喉頭蓋を視覚化した。嚥下の確立された超音波法とVE(嚥下内視鏡)を使用して、嚥下障害の35人の咽頭残留物を検出するための超音波の性能を調査した。
結果:梨状窩の高エコー領域の存在は、感度71.9%、特異度92.0%、喉頭蓋谷の残留は感度63.6%、特異度86.7%でした。
結論:喉頭蓋および舌骨上での超音波検査により、梨状窩、喉頭蓋谷の残渣の視覚化が可能になります。
本文を読んで、看護師の先生らしい視点だなと思ったのは
『吸痰する前にエコーで痰があるかエコーで確認できるかどうか』
というところでした。実際に吸痰を頻繁にしていないと浮かばない発想です。
臨床に基づいた研究というのは非常に読み手をワクワクさせますね。
まず、ここにあてて、総頚動脈をメルクマールに甲状軟骨、気管、梨状窩を描出します
アスタリスク(*)のところが、空気と粘膜面の境界部分です。
次にこのようにあてると、舌根と喉頭蓋の間の喉頭蓋谷を描出します。
正常像の確認をしてから、実際の詰まっているものを見てみましょう。
梨状窩(黄色い点線)に食物(赤い点線)が引っ掛かっています
喉頭蓋谷を黄色の点線で表すと、赤いものが食物です
ちょうど、上の喉頭蓋谷の貯留と合わせて考えると、Aなし、B中等度、C重度 です。
実際に解析することになります。
VEで唾液貯留を判断します。
これが研究の凄いところですが、MRIとエコーを対比させています。MRIよりもエコーのほうが鮮明に映っています。黒く抜けている(白点線)ところが液体貯留です。
Aは梨状窩でBは喉頭蓋谷です。青矢印が甲状軟骨、赤矢印が喉頭蓋です。
MRIと対比すると大変分かりやすいです。
先ほどの画像で言うところの黄色(梨状窩や喉頭蓋谷のスペース)と赤点線(痰)の割合によって感度と特異度を割り出しています。
5%あればピックアップには有用。全く見えなくても除外にまずまず有効という感じです。
ちなみにこの画像、研究された看護師さん一人でされています。
練習すればできるようになることがわかります。
さて、今回のブログのタイトルに戻ります。
嚥下治療にエコーは使えるのか?
攻めのエコーと守りのエコー
と書きました。
実は、前回のブログの反響で様々なご意見がありました。
①診療所で使えるのか?病院では嚥下内視鏡あれば要らないのでは?
②歯科医師がすべき、言語聴覚士がすべき、看護師がすべき。の議論。
③値段高いのでは?安ければ普及すると思います。
④侵襲がなく、自然な嚥下になる。こまめにフォローアップできる利点がある。
⑤エコーで病変が見つかったら筋膜リリースという治療ができる。
この5点について、意見をいただくことが多かったので
嚥下エコーが仮に良い性能のエコーを用いて、しっかり練習して、正確な評価ができるようになったと仮定しましょう。
①診療所や在宅向きなのでは?
もちろん、レントゲンや嚥下内視鏡を用意しなくてもよくなりますので、エコーなら在宅で威力を発揮します。とはいえ、病院で働く私にも超音波は有益です。
まず、最初に簡易水飲みテストをするとしましょう。その時に超音波検査を聴診器のごとくあてているだけで、スクリーニングとしての精度が上がります。もっというと、梨状窩なのか喉頭蓋谷なのかどこにたまっているのか、舌骨下筋群に問題があるのかなどどこに問題があるのかも推定しやすくなります。
つまり、診断精度が上がるわけです。
食べられないから食形態を下げるというのは、熱が出ているから解熱薬を出すのと同じです。原因が何かを考えるためには情報が必要です。原因がわかれば対処法が決まりますので、わかりやすく言うと、改善率が上がるかもしれないわけです。
整形内科の先生の発想では、元々ある肉眼での動きの嚥下評価をエコー評価で確認するのは整形内科なら触診しているものをエコーで確認という発想で考えるというのが非常にしっくりします。つまり、エコーを当てれば分かる!の前に、元々の方法で評価できるけど、その部位にエコーという虫眼鏡を当てたら、もっと分かった!という表現が適当なのです。肩甲挙筋を触れるけど一応エコーで確認しとこうのようなものです。
もう一つ、病院の強みは、多職種で介入できることです。
当院では、摂食嚥下チームは、医師、歯科医師、歯科衛生士、看護師、言語聴覚士、理学療法士、作業療法士、薬剤師、管理栄養士で構成されています。
これは②の誰がエコーすると良いのか問題に通じますが、
皆がエコーを使えるようになれば共通言語が増え、安心して介入できるのです。
そもそもみんな使えるようになればいいじゃないかと思います。
おそらく、言語聴覚士が足りない地域は歯科医師に期待が寄せられ、逆も然りなのでしょうね。特定看護師やNPがいる場合は看護師にチャンスがありそうです。
誰がやるべき論は皆様の置かれます環境に依存するところなので
本ブログでは答えは用意せずに無難に済ませておきます。
(炎上しないのが目標です)
③のコストの問題です。
これは嚥下のためだけの購入であれば確かに高額ですが、 エコーは内科全般、整形内科、褥瘡、だけでなく看護のケアにも有効です。(ほかのエコーのネタはありますが、後程)医師の指示があれば350点の診療報酬も得られます。
注:ただし厚生労働大臣が定める施設基準に適合するものとして地方厚生局長等に届け出た保険医療機関において行われる場合に、月1回に限り算定する。とあります。
はじめての褥瘡エコー(後編)|かんかん! -看護師のためのwebマガジン by 医学書院-
④侵襲がなく、自然な嚥下になる。こまめにフォローアップできる利点
私は、ここを強調したいのです。
嚥下エコーは嚥下内視鏡や嚥下造影よりも精度が高いわけではないのであれば、要らないじゃないかと思われるかもしれませんが、嚥下内視鏡は普段と違う飲み込み方になりますし、検査中に不快になって本来のパフォーマンスを発揮できなかったりして、悪目に見積もられることがあります。造影剤や食紅付けたりして食事の準備も必要です。
それが、エコーであれば、頚部に強く当てさえしなければ、普段と同じ負担のまま食べているのを観察できるのです。そしてそれは自然な経口摂取なので判断がしやすくなります。そして何より、こまめにフォローアップがしやすいのです。嚥下内視鏡をしょっちゅうするのも患者さんも医師も負担ですが、エコーなら毎週することも毎日確認することだってできます。これを他の職種にお願いできると、タスクシフトにもつながりますし、お互いの職種理解も進むかもしれません。
ここまでのことを、私なりに守りのエコーと考えています。
嚥下障害の診断精度を向上させたり、多職種で協力したり、お金節約したり。
患者さんを間接的に良くする方法です。
そして、この意見が最も新鮮でした。
⑤ エコーで病変が見つかったら筋膜リリースという治療ができる。
これまでが守りのエコーに対して、これは攻めのエコーといえます。
例えば、甲状舌骨筋にボトックス注射をするというのも積極的介入ですが、ハイドロリリースも有効なこともあるわけです。
どこに打っているのか分かりにくいですよね。
これでも分かりにくいですよね。
そこでエコーなわけです。
白石先生のYouTubeにも嚥下のエコーが録画されていました。
これは上記の研究とはプローブを当てる向きが違います。矢状断にしています。
こんなのです。
残念ながら嚥下筋のハイドロリリース動画は見つかりませんでした。
僧帽筋のハイドロリリース動画を見ていただくとイメージできると思います。
頚部可動域制限があるのか、舌骨下・舌骨上筋群が問題なのか、動きが悪いところを同定して、引っ掛かっているリリースすると改善する可能性があるかもしれません。
理学療法の論文では
嚥下障害の症例に対し、頸部可動性改善と舌骨上筋群の筋力増強が嚥下障害の改
善に寄与した一例
https://www.jstage.jst.go.jp/article/cjpt/2011/0/2011_Da0991/_pdf/-char/ja
頸部・肩甲帯リラクゼーション後、舌骨上筋群へのマイオフェイシャルリリース、ダイレクトストレッチおよび舌骨モビライゼーションを行う。また、舌骨上筋群を強化して舌骨および喉頭運動を改善させ、食道入口部の開大を目的に、頭部挙上練習 30 回反復後、頭部挙上位 1 分間保持 3 回を 1 セットで構成されるシャキア法を、1 日 3 セットを週 5 回で退院までの 1ヶ月間継続的に行う。
という、素人には何をしているのかよくわからないものですが、とにかく筋膜リリースと同じ理屈でしょう。
最後に上に出てきた舌骨上筋群を覚える動画を紹介します。
(必要な知識なのかはわかりません。研究が進めばそのうち分かります。)
【歯科衛生士 国家試験対策】9舌骨上筋群~開口筋~ Dr.デン山のDHスクール 歯科衛生士国家試験対策
舌骨上筋群には
オトガイ舌骨筋
茎突舌骨筋
顎二腹筋
顎舌骨筋
があるようですが、その位置関係を覚える動画のようです。
頚部筋ならともかく、舌骨上筋群の筋膜リリースはできないんじゃないかなと思いつつ、さらなる研究が望まれます。
このような攻めのエコーと守りのエコーを使い分けながら、嚥下障害を改善できる可能性があるため、嚥下エコーの発展が期待されるわけであります。
最後まで読んでいただきありがとうございました。