褥瘡エコー実施の個人的マニュアル
今回も褥瘡ネタでまとめてみます。完全に個人的興味です。すいません。
前回の褥瘡に関するブログを出したその日に、日本褥瘡学会から学会誌が届きました。
この論文と同じ着眼点の研究もあり、非常に興味深い論文ばかりでした。
その中に、褥瘡エコーについての論文がありました。
褥瘡エコーを使ったことがない方にも分かりやすく説明するのはニーズがあるかもしれないと思い、ここに簡単にまとめたいと思います。
エコーの前に、DESIGN-Rの復習
褥瘡評価のためのツールにDESIGN-Rが用いられます。
Depth(深さ)、Exudate(浸出液)、Size(大きさ)、Inflammation/Infection(炎症/感染)、Granulation tissue(肉芽組織)、Necrotic tissue(壊死組織)、Pocket(ポケット)の7項目で点数化され、重症度分類と治癒過程を知ることができます。
最後のポケットの範囲の測定には綿棒やゾンデまたはPライトを使用して行われるのが一般的です。ですが、ポケットが押し広げてしまったり、痛みを伴うことが危惧されるので、ポケット範囲をエコーで計測すると良いわけです。
ライトで光らせてポケットの深さを測るのですが、その力でポケットが広がってしまう懸念がありました。
褥瘡エコーでできること
褥瘡の超音波検査(以下褥瘡エコー)によって
①深部組織損傷DTI(deep tissue injury)の診断
②皮下の液貯留
③浮腫の状態
④カラードプラによる炎症の推移
⑤ポケット範囲の推定
⑥治療効果や経過など
褥瘡の評価に関するさまざまな情報を知ることができます。
特に黒色壊死や暗赤色斑などDTIを含む深部組織の評価が必要な場合はベッドサイドでエコーをすると皮下の壊死組織の範囲と液体貯留の存在を速やかに同定し治療に結び付けることができます。簡便で低侵襲なエコー検査が、褥瘡発症早期から肉芽の形成過程まで頻繁に観察できるためDESIGN-Rスコアと共に定量的に評価できるツールであり、医師、看護スタッフやNSTへのこまめな情報提供も可能となります。
褥瘡エコー…の前に、一般的なエコーの復習
超音波検査の原理は、軟部組織は一部が反射し、残りが透過するのに対して、骨などの固い物質は境界面ですべての超音波が反射します。
基本的な所見の表現の仕方ですが
無エコーは液体貯留、低エコーは周囲組織よりもやや黒く、液体とは異なる。等エコーは主流の周囲に対して等しいエコーレベルであり、白いものを高エコーと表現します。
実際の検査の様子
褥瘡エコーは浅い領域を見るためにリニア型を用います。
感染予防のためにサランラップや手袋で覆って実施します。
病的骨突出のある褥瘡に対する工夫として液体で満たした手袋を間に挟むこともあります。
プローブの走行の仕方は、健常皮膚から創面、そして健常皮膚と直線状に走査します。
体表エコー画像について
表皮、真皮層、皮下脂肪層、深筋膜を介して筋肉層、最後に骨の順番で描出されます。皮下脂肪層は全体に低エコーまたは高エコーを呈していて、内部は不規則な線状高エコー(浅筋膜)が観察されます。筋肉の内部は全体に低エコーで比較的均一な筋繊維(筋周膜、筋膜による高エコー)としてしま模様に観察できます。
つまり、観察には『表皮・真皮層』『皮下脂肪層』『筋肉層』に分類し、皮下脂肪層の内部には網目状の浅筋膜が、皮下脂肪層と筋層の間に深筋膜が存在することを確認する必要があります。
各論では部位によって、描出される構造物が違うので、位置関係から頭に入れてしまうのが良い方法と思われます。例えば、仙骨には棘突起が目印ですし、大転子には関節包があり、踵には筋層がなく脂肪体で覆われアキレス腱がつながっています。これらの特徴的な所見を観察の目安とします。
褥瘡エコーでわかること
1)深部組織損傷(DTI):
急に発生した褥瘡はDTI(深部組織損傷)を疑い、早期からエコーを導入することで、早期診断につながります。DTIは肉眼的には二重発赤を停止、触診すると高潔を触れる場合が多いですが、エコーでは低エコー所見として観察されます。特に低エコーと高エコーが混在してみられる所見(雲のように見えるためcloud-like像)となり、DTIを疑います。後述する浮腫との鑑別はカラードプラによる内部の血流評価が参考になります。またDTIによる壊死組織は急激に悪化するが、著明な浮腫の場合は大きな増悪が認めません。よってDTIを疑った場合はこまめに経過観察を行うべきです。
2)組織損傷:
DTIのほか組織損傷の所見には以下のようなものがあります。
①不明瞭な層構造:
皮下の層構造が不明瞭になった所見です。経過観察において『低エコー域の明瞭化』『低エコー域の拡大』によって悪化する可能性も否定できないため、経時的な観察が必要になります。経過観察にて著明な変化を認めない場合には、瘢痕や線維化と評価します(後述)
②筋膜の断裂像:
浅筋膜または深筋膜の走行の途絶を認めます。
③不整な低エコー域:
周囲の組織とは異なる低エコー域です。比較的均一な低エコー域は肉芽組織を疑います。そして瘢痕組織も鑑別に挙がります。肉芽は、ある程度の厚みと層状の広がりを認め、カラードプラ・パワードプラでは縦状の細い血管が多数観察することができます。
④限局的な液貯留:
限局的な無エコー所見、あるいは境界が明瞭な低エコー域は関節包水腫・水泡・血腫・炎症などによる組織間隙の漏出液貯留を示します。
3)浮腫:
褥瘡を有する高齢者には低栄養の患者が多く、エコーによって浮腫の特有な所見が得られ、その程度を知ることができる。層構造が不明瞭で明らかな低エコーを認めない場合には、浮腫が疑われます。特に、脂肪層や脂肪組織間の浅筋膜は、骨と皮膚の間のクッションとしての役割があり、組織損傷による炎症性浮腫で脂肪層の内部構造が『内部エコーの高輝度化』『脂肪層の肥厚』『浅筋膜の不明瞭化』に至ると考えられます。
4)ポケット範囲の計測:
air像を示唆する線状高エコーや点状高エコーおよび液貯留を示唆する線状高エコーからecho free spaceを描出し、ポケットの盲端を特定し、創部の周囲を放射状に走査して盲端を追うことで測定ができます。特に創口が小さい褥瘡~ピンホール褥瘡において特に有用です。仙骨部にわずかな表皮剥離、創周囲に発赤、熱感の所見がある褥瘡にエコー検査を実施した結果、骨突出部に明瞭なhypo echoic areaを確認することになります。
5)炎症の評価
カラードプラによって創傷治癒における急性期から、肉芽形成、瘢痕治癒にいたるまでの経過を血流シグナルの推移としてダイナミックに観察できる。
実際のアセスメント方法
まず重要なのは、観察目的です。
『初回重症度評価』なのか『経時的評価』なのかは重要です。
初回は組織障害の程度や範囲の評価を全体的に観察し
経時的には前回指摘した異常所見の変化を観察し、治癒過程やケア効果を評価するのです。
実際の観察では、褥瘡部位を中心に広範囲に観察し、異常所見を検索します。異常所見を認めた場合はその位置をマーキングし、縦断走査と横断走査にて静止画と動画を記録します。なお、異常所見のエコー画像評価はエコー観察フローチャートに基づいて評価します。
DTIを早期発見するためには、まだ重症化していないカテゴリーⅠⅡの褥瘡が、「やがて重症化する褥瘡なのか」を見極めることが必要で、その評価にエコーが有用です。
DTIの場合は「エコー観察フローチャートに基づく評価」に深筋膜途絶のエコー画像(discontinuous fascia; DCF)を加えて評価する必要があります。皮下脂肪層と筋層の境界にある正常の深筋膜は線状の高エコーとして描出されますが、強い浮腫または、筋膜組織の損傷・断裂が発生した場合は、深筋膜の高エコー線が途絶、または不明瞭となります。ただし、肥満により脂肪層が厚く、深筋膜が深部に位置する場合には、脂肪層と筋層の境界が不明瞭となりやすいので、観察には注意が必要です。
DTIのエコー所見では『不明瞭な層構造』や『限局する低エコー域画像』の所見だけでは強くDTIを疑う所見ではないため『深筋膜途絶』または『不均一なエコー域画像』がみられた場合は、そのあとにDTIへと重症化する可能性が高いです。
代表的な褥瘡のエコー所見(復習)
ドプラーエコー使用による効果的なシャープデブリードメントの方法
D3以上に褥瘡が進呈している場合や、炎症や幹線兆候も見られない場合に実施されますが、柔らかい生糸の壊死組織からの出血を避けなければならない。そのような場合、ドプラ法で血流評価を行うことでシャープデブリドメントか、保存的治療かの選択する根拠になるだけでなく、デブリードマン時の不要な出血を避けることができます。
まとめ
褥瘡エコーは
①深部組織損傷DTI(deep tissue injury)の診断
②皮下の液貯留
③浮腫の状態
④カラードプラによる炎症の推移
⑤ポケット範囲の推定
⑥治療効果や経過など
の初回評価と経時的評価に役立ちます。
褥瘡ネタならいくらでもお話しできてしまいそうですが、そろそろ飽きられそうなので他の話題も探してみます。
引用:
1)藪中幸一:エコーによる褥瘡のアセスメント方法;J.Jpn. WOCM., Vol 20, No4, pp390~397, 2016
2)水原章浩:褥瘡ケアにおける超音波検査の意義;超音波検査技術 vol.41 No.2, 2016