南砺の病院家庭医が勉強記録を始めました。An archive of medical articles summarized by a family physician from Nanto Municipal Hospital.

An archive of medical articles summarized by a family physician from Nanto Municipal Hospital.富山県にある総合病院で働く病院家庭医です。勉強の記録を少しずつ書いていきます。

レジデンシートレーニングを3年間受けた病院家庭医:キャリアの柔軟性なのか、それとも診療所家庭医に対する脅威なのか?

Family Medicine Hospitalists Three Years Out of Residency: Career Flexibility or a Threat to Office-Based Family Medicine?

Ramon S. Cancino and Brian W. Jack
ちょっと古いJABFMの2018年9月の論文より。
Family Medicine Hospitalistsってまさに私のブログのタイトルである病院家庭医のことですし、まさしく当院で育成しているホスピタリストなんじゃないかと思い、こんな面白い論文ならどこかで紹介されていないかなと簡単にググってもこの記事が取り上げられていなかったので、軽く読んでみます。
 
個人的には大変面白かったので、引用も余談も多めです。
ほとんど自分のためのメモ帳と化しています。すいません。
 

2015年および2016年の米国医科大学協会(AAMC)の医学部卒業アンケート全学校要約報告書は、卒業生の18.4%および18.9%がそれぞれ病院医学に関心があることを示しました(私の注釈:より新しい2018年のAAMCのアンケートQ28では19.4%とわずかに増えています) 2016年6月に発表した、2012年から2013年のプライマリケアホスピタリストを対象にしたAAMCによる特性解析をまとめた報告書では、ホスピタリストの17.2%が家庭医(下にFigあり)でした(AAMC Anal Brief 2016;16) 家庭医の大半(注釈:54%らしい)は病棟医のサービスを使用し(J Prim Care Community Health 2015;6:70–6 PMID: 25318473)、ホスピタリストは、家庭医学レジデントのトレーニングで重要な教育的な役割を持っています。(A CERA Study: Fam Med 2014;46:88–93.:PMID: 24573514)

 

余談:どうやら診療所家庭医の54%が病棟でも診ることができてしまうと、医療の断片化につながるという結論になっています。これは病院家庭医とは少し違う議論ですが、重要な指摘です。

 

 余談:CARE(Council of Academic Family Medicine Educational Research Alliance) studyは病院家庭医が読むべき必読論文かもしれません。家庭医療レジデントが病院で学ぶインパクトに関する論文です。病院研修プログラムの39.1%が家庭医療を利用していること、ホスピタリストトレーニングコースがあるプログラムの60%は家庭医向けでもあることを示しているようです。つまりホスピタリストが家庭医療のトレーニングで教育的役割がある可能性があるという論文です。(これは家庭医療がホスピタリストの役に立つのではなく、ホスピタリストが家庭医研修の役に立つという意味です)

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https://www.aamc.org/system/files/reports/1/june2016hospitalistsagrowingpartoftheprimarycareworkforce.pdf

家庭医の7.3%(6002名)、内科医の30.8%(28436名)、老年医学の13.1%(238名)がホスピタリストになり、合計34676名中、家庭医は6002名なので17.3%という計算のようです。

 

Journal of the American Board of Family Medicineのこの版では、Kamerowらは、2016 Family Medicine National Graduate Surveyのデータを使用して、レジデンシートレーニングを3年間受けた家庭医の9%がホスピタリストとして自認していることを発見しました(J Am Board Fam Med 2018;31:680–681.PMID: 30201663)。これらの病院家庭医は、病院ではない家庭医よりも男性が多く、長時間労働し、給与が高く、仕事に満足している可能性が非常に高い。おそらく驚くことではないが、この発見は家庭医学に影響を及ぼします。(Medscape Hospitalist Compensation Report 2019 最新版に差し替え)

 

余談:病院家庭医はこの論文も必読です。タイトルがそのまんま「Characteristics of Young Family Physician Hospitalists」です。

Kamerow DB(ダグラス・カメロウ)先生はこんな先生です。

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メリーランド州コルマール・マナーの家庭医学博士を取得されています。

関連論文を読み漁りたくなるような素晴らしい仕事です。


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回答率は67.8%(2034人/3051人)、181(8.9%)が外来継続ケアをせずホスピタリストを自認していました(ホスピタリストの定義が外来を持たずに病棟のみというようです)。労働時間が長く(64.2時間対53.6時間、P <.001)、収入が高く(250,000ドルvs185,000ドル, P<.001)、病院以外の家庭医よりも満足している可能性が高かった(92.8%対84.3%、P <.01)ようです。ちゃんとした家庭医のコースを受けていないのに病院で家庭医を名乗る若手医師が徐々に増えてきてプライマリケア医の不足に関与するのではないかという考察があります。

 

余談:Medscape Hospitalist Compensation Report 2019

こんな表やグラフが沢山あります。良い資料です。

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 ホスピタリストの中でも「家庭医がベース」と認定できるのは20%というのは体感的には多い気がします。

 

最近のレジデンシー卒業生の病院ベースの診療への関心は、給与、ライフスタイル、診療の特徴に関連している可能性があります。2011年から2015年にかけて、病院で働く家庭医は平均報酬が4.7%増加し、平均給与が285,213ドルになったのに対し、産科を行わない家庭医学の医師の平均報酬は230,456ドルでした。(The Hospitalist. 2016 September;2016(9)) 一般に、すべての臓器専門医のホスピタリストは、平均的なプライマリケア医よりもキャリアが早いです。(J Hosp Med 2014;9:176–81.) ホスピタリストは、外来のGPと比較して、仕事のスケジュールが私生活や家族にとって十分な時間を残していることに同意する可能性が高くなります。(J Hosp Med 2014;9:176–81.) 一貫性のあるケアチームへのより直接的な統合があり、おそらく、急性疾患の患者をケアする満足度が高まり、多くの場合、最新の治療法を学び、適用する機会が増えます。Kruseは、医学部の入学方針と医学部の教育環境とともに、診療環境と医師の収入が、職業選択に影響を与える4つの重要な変数であることを示しました。(Fam Med 2013;45:281–3.)  ワークライフの統合、給料、さらに専門的な成長の機会は、この選択の重要な要素であり、ホスピタリストのキャリアが提供できるものを反映しているようです。これらの問題は、職員の健康とレジリエンスにも影響します(National Academy of Medicine; 2018)

 

余談:臨床医の健康とレジリエンスに影響を与える因子。これだけでもブログ1本できそうですが、惜しげもなく披露。(ただし訳はない)

拡大版は(National Academy of Medicine; 2018)にあります。NAMモデルというらしい。

 

ホスピタリストのキャリアにおける医師の定着について、さらに多くが学ばれています。燃え尽きは病院医の間で一般的であり、退院する可能性が高くなり、仕事の労力が減少することに関連しています(J Gen Intern Med 2012;27:28–36)  2015年の調査によると、ホスピタリストの平均離職率は年間6.9%でした。(Vuong K,  2017) 報告されたバーンアウト率は、12.9%から27.2%の範囲です(J Hosp Med 2014;9:176–81.)  130人の内科病院の病院医と448人の外来一般内科医の調査で、ロバーツら(J Hosp Med 2014;9:176–81.) は、病院医が仕事と生活のバランスに満足しているものの、病院医の間で燃え尽きがより一般的であることを発見しました

 

彼らがより満足しているので、家庭医はホスピタリストのキャリアを選んでいますか?外来中心の医師は、入院中心の医師よりも感情的な消耗を報告します(J Hosp Med 2013;8:653–64.)  Kamerowら(またカメロウの論文!)によると、研修期間3年を経験した診療所家庭医の84.3%は満足または非常に満足と答えたのに対し、病院家庭医は92.3%が満足または非常に満足と答えていました。(J Am Board Fam Med 2018;31:680–681.PMID: 30201663)

 

余談:病院で働く家庭医はとにかく満足しているわけですね。理由がワークライフバランス、教育環境、診療環境、収入、昇進というところが、なんとなく打算的ですが…。

 

ここからが、論文で言いたいところです。

 

ホスピタリストとして働くことを選択した家庭医療学の訓練を受けた医師は、プライマリケアの労働力に影響を及ぼします。地域のセッティングでよく訓練された家庭医は、そのコミュニティの健康に大きく貢献十分なエビデンスにもかかわらず(Milbank Q 2005;83:457–502)  診療所ベースの家庭医学への医師の採用が困難である、不幸な現実は、最近の見積もりは2025年までに52,000名の診療所家庭医が不足すると予測されています(Ann Fam Med 2012;10:503–9)

 

余談:何気に、Stephen M. Petterson博士のProjecting US Primary Care Physician Workforce Needs: 2010-2025というパネルサイズ研究は日本でも実施したほうが良い研究です。国勢調査のデータと現在のプライマリケアの利用状況と人口増加・高齢化に基づいて2025年までのプライマリケア訪問の予測数と、それらの訪問を行うために必要なプライマリケア医師の数を試算した研究です。

 

歴史的に、家庭医療学は専門家として設立され、そのレジデンシープログラムは医師を訓練して家族や地域社会に包括的かつ継続的なケアを提供するように設計されていました。家庭医学の多くは、卒業生の何パーセントかが診療所ベースの家庭医学を実践していない場合、どういうわけかこのミッションに失敗していると考えています。卒業生のキャリア選択を拡大する一方で、プライマリケアへのアクセスを全国的に減らすリスクはありますか?

 

かかりつけ医が伝統的なプライマリケアの実践以外の分野で実践する機会を創出することについての議論は、例えば老年医学、スポーツ医学、そして最近では緩和ケアの提供の分野での会話の以前のトピックでした(Can Fam Physician 2008;54:840–2)  多くの場合、家庭医療学の価値を提供し、国の健康のために適切なプライマリケア労働力を提供することの1つとして懸念が表明されます。このダイナミクスはすでに内科で発生しています。半世紀以上にわたり、内科は卒業生に対して複数の下位専門分野の選択肢を提供してきており、その結果、プライマリケアを実践している卒業生のわずか10〜20%になっています。対照的に、家庭医学の居住者の91%はプライマリケアを実践する可能性があります(N Engl J Med 2010;363:584–90) 家庭医療における拡大するホスピタリストの役割は、国内のプライマリケアのニーズを悪化させながら、より多くのかかりつけの医師が専門的ケアを実践し、プライマリケアを少なくする滑りやすい斜面の始まりを表している可能性はありますか?

 

家庭医療学の訓練と家庭医療学の実践は進化し続けます。病院での家庭医学の役割が再び現れれば、専門性が強化される可能性があります。家庭医学の卒業生のために認識されるキャリアオプションの配列を増やすと、医学生の家庭医学への採用を現実的に増やすことができます。さらに、家庭医学のホスピタリストは、価値に重きを置いたヘルスケア提供の継続的な進化において、チームメンバーとして非常に貴重な存在になる可能性があります。家庭医は、病院ベース、コミュニティベースの要素、および不要な再入院を減少させることが示されているケアプログラムの実践をベースに影響を及ぼす可能性(Ann Intern Med 2009;150:178–87)(J Am Geriatr Soc 2004;52:675–84.)と患者体験を改善します(J Patient Exp 2017;4:185–90.) 

 

最終的には、継続性の概念が診療所以外のケアのエピソードに拡大し、そのようなケアの重要性が引き続き実証されているため、家庭医学のホスピタリストの数の増加は、家庭医学の労働力の進化のシグナルである可能性があります

 

余談:プライマリケアスタッフの介入が退院後30日以内に病院の利用を減少させた。 (0.314 vs. 0.451 ; RR 0.695 [95% CI, 0.515 to 0.937]; P = 0.009) Ann Intern Med 2009;150:178–87 よく見たら家庭医とは書いていないので拡大解釈かもしれない。

余談:心不全で入院した高齢者の移行ケア介入の有効性についてのRCT。退院と再入院または死亡までの期間を延長し、再入院の総数を減らし、医療費を削減した。 J Am Geriatr Soc 2004;52:675–84. 重要な研究。

余談:Project REDという論文。RED(ReEngineered Discharge)退院プログラムを受け取った成人患者の退院時の満足度が高かったという研究。これも読んでおくべき論文。

テーブル

 

これだけでもブログ1本になりそうです。気が向いたらまとめます。

 

結局、日本版の病院家庭医とは内容が異なりましたが、米国家庭医は病院志向が増えてきて、そこからケアの質の研究がはじまり、新たな家庭医像を見出しているところなのかもしれませんね。