南砺の病院家庭医が勉強記録を始めました。An archive of medical articles summarized by a family physician from Nanto Municipal Hospital.

An archive of medical articles summarized by a family physician from Nanto Municipal Hospital.富山県にある総合病院で働く病院家庭医です。勉強の記録を少しずつ書いていきます。

家庭医療と鍼灸はベストマッチであるが課題も多い。

今回は論文の紹介ではなく、鍼灸治療WSを受けてみた記録です。

率直に言うと、家庭医療と鍼灸の親和性が高いことが良くわかりました。

 

講義の内容については素人ながら予想していた話題として

①最近のラグビーワールドカップで話題のドラマ「ノーサイドゲーム」で前十字靭帯損傷に鍼打ったら試合に出られた話を観ていたので、そういうネタが出るかと期待していましたが、扱われず。(どこに打っているんだろう。膝裏?鍼灸と全然関係ないですがノーサイドゲームは大変面白かったです。)

(写真は ノーサイドゲームで鍼灸治療 | 大濠Bella より引用)

 

②あとはまさかの私の予習が見事に出てAmerican Family Physicianの鍼治療


がそのまんまスライドとして取り上げられていました。

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論文シェア希望の方がいたら配布しますとおっしゃっていましたが、頑張って全訳したのでこのブログを紹介したかったです(門外漢ですが)。

 

ここまでが余談でした。

 

ところで皆さん、鍼灸師(正確にははり師・きゅう師)ってどうやったらなれるかご存知ですか?何人いるかご存知ですか?実は専門学校90校、大学10校、盲学校・資格支援学校60校で3年以上履修して年間約5000人誕生するようです。(医者が8000人ぐらいなので、そんなに変わらないことにびっくり)

 

あと、医者が鍼打っていいのか全然知らなかったのですが

あん摩マッサージ指圧師、はり師、きゅう師等に関する法律の第一条

医師以外の者で、あん摩、マッサージ若しくは指圧、はり又はきゅうを業としようとする者は、それぞれ免許を受けなければならない。という医者が例外事項になっていることでした。

 

もっというと

あん摩マッサージ指圧、はり、灸、柔道整復は国家資格ですが

カイロプラクティック、整体、アロマ、足つぼ、オステオパシーなどは無資格なのです

素人すぎて経穴を指で押したらいいんじゃないかと思っていたのですが、足つぼとはやはり違うのでしょうね。

 

鍼灸が注目されたのは、1971年ニクソン大統領の訪中に、米国の記者が虫垂炎になり、中国の医師が鍼麻酔による手術をしたことがきっかけだそうです。(中国最新情報

 

鍼灸治療の作用機序・期待される効果は

①疼痛緩和

②筋緊張緩和

③血流改善

④自律神経機能調整

⑤リラックス

だけでなく、施術時間の長さ(30分)や身体感覚を通じたコミュニケーションなどの副次的な効果もあるのではないかというもので

鍼灸の施術は

気血水や五臓の調整を基本とした経絡経穴への治療である東洋医学的思考と

症状の緩和・治療をデルマドロームや筋反応部位を考えながら介入する西洋医学的思考が組み合わさったものでした。

 

鍼灸の適応症は

鍼の適応症とWHO | MUMSAIC's Opinion | 森ノ宮医療大学 鍼灸情報センター


これからエビデンスを徐々に蓄積させていっている途中のようです

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日本のガイドラインに収載されている鍼灸治療です

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安全性については

鍼灸安全ガイドライン2019(仮称)

というものもあり

https://www.jstage.jst.go.jp/article/jjsam/62/4/62_315/_pdf/-char/ja

でも鍼灸臨床における有害事象に関するアンケート調査の研究はありましたが、基本的には有害事象はあまりないと考えてよさそうです。

 

禁忌は、膿瘍・潰瘍・浮腫のある所には施術できない。胸部・背部など気胸をきたす可能性がある部位には行わない。凝固異常のある患者は避ける。などあります。

 

受けた患者の満足度も高いので、医師の治療の補完医療として機能することになります。

 

 

一番のネックになっているのが、療養費制度(保険適応になるもの)問題で

1.神経痛

2.リウマチ

3.頚腕症候群

4.五十肩

5.腰痛症

6.頸椎捻挫後遺症

7.その他(慢性的な疼痛を主訴とする疾患)膝OAなど

については医師の同意書(治療の同意書ではなく、医師がさじを投げたと証明する同意書とおっしゃっていた。ちょっと溝を感じる。)

薬物治療をされていると療養費の対象にはならないようで(同一傷病といいます)、さじを投げているのに湿布とか出さないでくださいとか言われていると、だいぶ溝を感じてしまった。

同意書というのは厚生労働省が定める基準様式があるので、診断書ではなくそれを書くようにしてほしいとありました。


www.mhlw.go.jp

 

もちろん実費診療でもうけられますので、制度の仕組みをよく理解すればトラブルにはならないと思われます。

 

鍼灸を受けられる場所は病院と同一ではなく、併設の施設にして別会計にしたらよいという言葉もあれば、別の先生が「実は抜け道がある」とおっしゃってみたり、やはりまだよくわからないことが多い印象でした。

 

実技は純粋に楽しめました。

現代鍼は、低周波治療なんかあてたり

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円皮鍼を合谷、内観(ふらつきに有効)に貼り付けたら、バランスが良くなったり

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北辰会の代表理事による診察をみたり

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プロの妙技を観て、プライマリケア向きの実践可能な鍼灸をどうやったらできるようになるのか考えましたが、そういう良書がなければ、地元の鍼灸師さんとのつながりを持って勉強会などすると良いのかなと感じました。

 

あれやこれや好き勝手書いてしまったがまとめに入ります。

・鍼灸は予防医学から終末期の緩和医療、小児・産婦領域であったり、広くカバーしている。

・心理的問題・多疾患併存の患者をみるための処方カードの一つでもあり、タスクシフトにも通じる非常に重要な役割になると思われる。

・認定鍼灸師制度、専門鍼灸師制度というものを導入されるようなので、しっかり研修を受けて、鍼灸師の質の担保をしようというのは、まさに家庭医療が現在置かれている立場にそっくりである。

・鍼灸師は鍼灸の専門家として棲み分ける立ち位置もできるし、心理的・身体的サポートを聞くカウンセリングの立ち位置もできるだろう。家庭医はその価値観を理解するためにも自分で簡単なものを施術できるようにすると多職種連携が活発になると思われる。

・現在の問題は鍼灸師への理解が進んでいないことと、質の高い鍼灸師がどこにいるのか情報がないこと、医師が鍼灸を施術をする時間的余裕がなく、診療報酬への理解も乏しいことである。

・まずは地元の鍼灸院を地域住民である患者さんに聞いてみることから始めてみよう。顔の見える関係を作れれば、エビデンスの高いところから教えを請いつつ一歩ずつ取り組んでいければと思う。