南砺の病院家庭医が勉強記録を始めました。An archive of medical articles summarized by a family physician from Nanto Municipal Hospital.

An archive of medical articles summarized by a family physician from Nanto Municipal Hospital.富山県にある総合病院で働く病院家庭医です。勉強の記録を少しずつ書いていきます。

スマホによる一過性単眼失明を何というでしょうか?

突然ですがクイズです。

皆さんはこんな患者さんが来たらどうしますか?

 

①22歳の女性が、夜に右目が見えなくなったと言いました。このエピソードは、1年前から1週間に複数回発生しました。そうなると彼女は右目では物体の輪郭しか見ることができなかったが、翌日には視力は両目とも良好であった。

②40歳の女性が、早朝に目が覚めたときに片目が見えなかった。約15分続き、6ヶ月間オンとオフを繰り返しました。

どちらも視力は正常でありその他の症状の徴候はありませんでした。ビタミンAもMRIも血管造影も異常なし、心エコーも血栓形成傾向スクリーニングも異常なしでした。

  

2人に共通する習慣はこれでした。

ãTransient smartphone blindnessãã®ç»åæ¤ç´¢çµæ

このような夜間または早朝にのみ発生した一過性の視力低下は、暗闇の中で数分間スマートフォンを見るという共通点がありました。暗い部屋で明るいスマートフォンの画面を見ると短期的な視覚の問題が起こります、それを

 

 

診断:Transient smartphone blindness(TSB)

といいます。

N Engl J Med. 2016 Jun 23;374(25):

PMID: 27332920 DOI: 10.1056/NEJMc1514294より

 

実は専攻医から「先生、暗闇で一定時間スマホを見ていて、視線を外したら視野障害になるみたいなのって英語で何ていうんでしたっけ?」と聞かれて、ドヤれない悔しい思いをしました。それと同時に良い学びの機会だと思って勉強したので紹介します。

 

しかもここで見聞きしていてちゃんと読んでいたはずなのに、写真を見てはじめて思い出しました。悔しい…。

06 transient smartphone blindness (総合診療 29巻5号) | 医書.jpからの引用

暗い中、側臥位で片眼(例:右眼)を枕にうずめ、左眼だけでスマートフォン(スマホ)の明るい画面を見る状況を想定する。スマホを消し両眼視に戻ると、うずめた枕の暗さに適応していた右眼に比べ、明るい画面に適応していた左眼は暗順応に時間を要し、一時的に見えづらく感じる現象のことを指す。

 

 

はじめに

実際に携帯電話を両目で、また各目を個別に見て実験すると。患者は携帯電話を両目で見たときに症状を経験せず、スマートフォンを片目で見た場合、症状は常にスマートフォンを見ていた目にあったと記載されています。筆者は自分で暗闇の中で片目でスマートフォンを見て自分の実験を試み、片目で視力がかなり低下し、回復するのに数分かかったようです。TIAの可能性を考えてしまいがちですが、その病歴を知っていると、不必要な不安と高価な調査を避けることができるかもしれません。

 

生理学的研究

NEJMのグラフです

f:id:MOura:20190906200519p:plain

スマートフォンによる網膜感度の低下を表しています。スマートフォンで10〜20分表示した後の時間と視覚的なしきい値をプロットします。y軸は光の最小強度です。約20分刺激を与えると、10分与えられた参加者に比べ刺激が100倍暗くなってしまいました。

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薄暗い光に対する網膜の反応を見ています。片目にスマートフォンが当たっているのと、両目の網膜を覆われていた目よりも光への感度が高いことが分かります。およそ20分間まで両目からの反応は非常に似ていました。

 

(余談1)スマートフォンの画面の輝度

スマートフォンの画面の輝度は異常に高く、平均すると500cd(カンデラ)/m2で最高はGalaxy S7の855カンデラ(cd)/m2といわれています。(2016年現在)

Samsungvillage. (March)Galaxy S7 fetches best-ever smartphone display title. 2016

 

(余談2)光害対策ガイドライン

光害(ひかりがいと読みます)対策ガイドラインででは500cd/m2は郊外の光の明るさとしては妥当とされていますが、1000cd/m2超えると都会の照明クラスになってしまうようです。

https://www.env.go.jp/air/life/hikari_g_h18/full.pdf(のp41)

 

(余談3)スマートフォンからのブルーライトの害

スマートフォンからのブルーライトは、加齢黄斑変性などのさまざまな網膜の病状に寄与する可能性が指摘されています。今後はTSB患者のビタミンA欠乏症や遺伝性先天性定常夜盲症などの素因がある状態の患者の疾患頻度と重症度を評価する必要があるようです。

https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC4734149/

 

(余談4)ヘルスプロモーションの重要性

10歳代に寝るときのスマホ使用について指導した方が良いという眼科医と精神科医からの提言はヘルスプロモーションの観点からも素晴らしいですね。https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC5741272/←これが一番読みやすかったです。freeですし。

 

TSB症例をレビューしてみる

ちなみに、PubMedで「Transient Smartphone Blindness 」と検索しても8件でした。

たった8件ですよ。いかに世界的に興味がないかが分かります。
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若年が目立ち、ほとんどが女性。TIAかMSを疑われて治療されることが多いのかもしれません。経過が不明瞭なうちは高安病とかループスなども鑑別にはあがるかもしれません。

 

世界で最初の報告の時はスマホがなかった


おそらく最古のものは、孫引きすると1982年のNEJMに興味深い症例があります。

N Engl J Med 1982; 306:114 DOI:10.1056 / NEJM198201143060226

Carsonogenous Monocular Nyctalopia(音響原性単眼性夜間視)と表現されています。

スマホなかったんですものね。仕方ないです。

 

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 右目を下にしてTVショーを見ていた30歳女性が、左目が夜に見えなくなった。とあります。診断名はついていませんが、この報告が最古と言われています。

 

最新の報告では両側性の報告もある

逆に最新の症例報告では2019年のNeurologyに両側性の一過性視力低下の原因としてスマートフォンが考えられていた症例も報告されています。(両側の報告はこの1例のみ)

高脂血症、高血圧、および椎骨動脈アテローム性動脈硬化症に続発する以前の右髄梗塞を有する68歳の女性が、検眼医の診療所から紹介され、過去数週間にわたって両眼視力喪失のいくつかのエピソードがありました。彼女が夜にトイレを使用するために立ち上がるたびに、彼女は数分間一貫して両眼の視力を失い、その後彼女の視力は自然に正常化した。頭痛、吐き気、脱力感、または平衡感覚の低下などの関連する症状は認めませんでした。視力、視野、眼底検査などの眼科的評価は正常でした。神経学的検査では、軽度の右ホーナー症候群、右声帯麻痺、左半身の体温低下など、以前の脳卒中の残留所見が明らかになりました。頭部MRでIは、慢性微小血管疾患と右髄質の古い梗塞を示しました。さらに病歴をとると、患者は頻繁にスマートフォンで長時間ベッドで読書し、イベントはスマートフォンの使用後にのみ発生することが明らかになりました。私たちは、彼女に知られていない携帯電話を調べて、最大の明るさに設定しました。彼女はそれ以上後処理することなく退院し、夜間のスマートフォンの使用を避けるように助言されました。アスピリンとスタチンの自宅投与は継続されました。彼女には再発イベントはありません。

文献には一時的なスマートフォンの失明に関する報告はほとんどなく、両眼式では報告されていません。症状は、網膜の光色素の退色が原因で起こると考えられており、光の感度は低下し、数分後に生理学的に回復します。明るい環境で長時間スマートフォンを使用する場合、これは両方の目に同時に影響を与える可能性があると仮定しています。したがって、不必要な精密検査と費用のかかる入院は、詳細な病歴の記録により防ぐことができます。

 

スマホ指導でよくなったらスマホのせいと言いたいのでしょうが、これは虚血の影響もありそうで少し心配ですけどね。実は当院での症例も両側だったので、これも貴重なデータかもしれません。もし本当なら世界2例目の症例報告ですね。当たっていればの話ですが…。

 

まとめ

半年間、起床時に持続時間は15分ほどの視力低下があるという病歴を聴いたら、睡眠時にスマホいじっていませんか?と聞きましょう。

 

また需要のない話題をしてしまったかもしれない…。

このブログの方向性が、いまいちよくわからなくなってきました。