南砺の病院家庭医が勉強記録を始めました。An archive of medical articles summarized by a family physician from Nanto Municipal Hospital.

An archive of medical articles summarized by a family physician from Nanto Municipal Hospital.富山県にある総合病院で働く病院家庭医です。勉強の記録を少しずつ書いていきます。

病院総合診療医に関して、思うところ(その2) 「普通の医師」とは何か

日本版(南砺版)ホスピタリストについて考える

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写真:病棟での教育回診の様子です。フィジカルを大事にする後期研修医の熱いレクチャーが繰り広げられています。(患者情報は伏せてあります)

 

数回にわたり、私が普段しているホスピタリスト(病院総合医)に関わるお話をさせていただきます。この話を何故することになったのかというと、最近総合診療界隈で、病院総合医というもののキャリアパスに対する動きがあり、私も後輩にキャリアを提示するうえで「自分が何をしているのか、どうありたいのか、なぜこのブログのタイトルが病院”家庭医”なのか。」を明確にする必要があると感じたからです。長くなりますが、温かく見守っていてください。

 

 

前回、富山の田舎の病院が総合診療に力を入れるようになった歴史についてお話ししました。総合診療について情報が乏しかった医学生時代から小規模病院で家庭医療が役に立つと信じて進んできた今までのキャリアに至った軌跡のような記事になっています。

 

moura.hateblo.jp

 

普通の医者になりたい若者達が南砺で研修を積んでくれていることを非常に嬉しく思いました。普通の医者とは何かというところをもう少し具体的にすることで、南砺版ホスピタリストのコアが何かわかるはずなので、下記の章立てで少しずつ言語化していきたいと思います。

 

南砺版ホスピタリストの考察

普通の医者とは何か(学習者のニーズ)

地域に役立つとは何か(患者や地域のニーズ)

アベンジャーズスタイルだけでは問題があるのか(家庭医療の必要性)

地域の小規模病院(コミュニティーホスピタルともいいます)をみる日本版ホスピタリストには何が求められているのか(諸外国のホスピタリストとの役割の違い)

ホスピタリストのキャリアパスについて(キャリア理論について)

領域別専門医からみた病院家庭医に足りないところ、病院家庭医と領域別専門医とは今後どう協力していくのか(今後の課題)

 

普通の医者とは何か

私も目指している「普通の医者」であるが、具体的にはどのような医師なのだろうか。

そもそも普通とは何かを確認する。デジタル大辞泉によると

ふ‐つう【普通】

 
[名・形動]特に変わっていないこと。ごくありふれたものであること。それがあたりまえであること。また、そのさま。「今回は普通以上の出来だ」「普通の勤め人」「朝は六時に起きるのが普通だ」「目つきが普通でない」
[副]
 たいてい。通常。一般に。「普通七月には梅雨が上がる」
 (「に」を伴って)俗に、とても。「普通においしい」

となる。すなわち「普通の医者」とは「ごくありふれた医者」「当たり前の医者」「一般的な医者(肯定的な意味)」となり、「日本中どこにでもいて、当たり前のことができる医者」というものを目指しているのである。

 

学習者側のニーズに当てはめると

「医者として特別なスキルは要らない。当たり前のことが当たり前にできればよい。」

となる。ここで大事なのは、①普通とは肯定的な意味であるということと、②学習者の考える「当たり前」と地域住民が要求する「当たり前」にギャップがあるという事である。

 

すなわち、「医者なんだから風邪が見れて当たり前」のような、医者としてこれぐらいできて欲しいという否定的な意味ではなく、「病院総合医と名乗るからにはこれぐらいは当たり前にできて欲しい」という質のラインは担保しておきたいということと、我々が勝手に設定した合格ラインが地域住民の考える「こうあってほしい姿」と乖離していていると役に立たないという事である。

 

では、病院総合医が当たり前にできて欲しい事とは何だろうか。

日本病院会の認定する病院総合医を例に挙げると

medicalnote.jp

  1. 病院において包括的かつ柔軟に対応できる総合的診療能力を有する医師を育成する
  2. 複数の診療科、介護、福祉との連携を調整し、全人的に対応できる医師を育成する
  3. 医療と介護の連携の中心的役割を担うことができる医師を育成する
  4. 多職種をまとめチーム医療を推進できる医師を育成
  5. 総合的な病院経営能力を持ち、地域医療にも貢献できる医師

すなわち、総合的に患者さんを診療する能力があり、多職種協働や地域連携、病院経営など、医療全体を俯瞰して幅広く考えることのできる病院総合医を育成したいと考えている。実際にどうやってその能力があるのかを推し量るのかというと

www.medwatch.jp

をみると

【病院総合医】を目指す研修医(病院総合専修医)は2年間、▼急性中毒▼意識障害▼全身倦怠感▼心肺停止▼呼吸困難リンパ節腫脹▼認知脳の障害▼失神▼言語障害▼けいれん発作▼胸痛▼吐血・下血▼熱傷▼外傷▼褥瘡▼歩行障害▼排尿障害(尿失禁・排尿困難)▼気分の障害(うつ)―などの症例などを経験した上で、日病で「当該医師が病院総合医としての能力を保有しているかどうか」が審査されます。

【病院総合医】を目指す研修医(病院総合専修医)審査では、▼インテグレーションスキル(包括的診療の展開・実践)▼コンサルテーションスキル(必要な場合に専門診療科へ速やかな相談・依頼)▼コーディネーションスキル(多職種の連携・調整)▼ファシリテーションスキル(チーム医療の促進・実践)▼マネジメントスキル(地域包括ケアシステムや日本全体を考慮した病院運営)―の5能力を評価し、「要件を満たす」と判断されれば、【病院総合医】の資格を手に入れることができます。

 

とあり、プログラムの申請書の例文をみると「インテグレーションスキルに関するレポート(包括的診療の実践から学んだ知見と考察)」についてのA4フォーマットがあり、これを該当する項目分だけ記載すれば認定されるのであろう。

 

ここで、中身にあれが足りないこれが足りないというつもりはない(それは別項で言及する)。これを「普通に」できるようになるにはどのような研修をし(方略)、どのように評価すれば「普通にできている」と言えるのだろうか(評価)

 

ここでコンサルテーションスキルを例にしよう。

例えば、貧血の原因精査で胃がんが見つかった患者さんがいたとしよう。消化器外科医あるいは消化器内科にコンサルトして今後の胃がんのフォローアップを依頼したという流れをレポートに記載すれば、コンサルテーションスキルはOKなのだろうか。

 

一見すると、別にそれでいいんじゃないかと思うかもしれない。だが、この患者さんの年齢や社会背景、家族関係、基礎疾患、内服薬で紹介の内容は変わるだろう。アルコール依存症で治療を拒否している独居患者だったらどうだろうか?認知症の終末期だが家族がどこまでもしてほしいと切望されたらどうだろうか?そもそも家族の意向はどの程度反映させるべきだろうか。そもそも、消化器外科医、消化器内科医の価値に応じたコンサルテーションを使い分けられるだろうか?

 

そもそもコンサルテーションの語源となるコミュニケアというのはラテン語で "共有する" という意味である。つまり、コンサルテーションを受ける側も受け取る側も双方向性に気を配り、プレゼンテーションするという意識だけでなく、目的にあった情報の "共有" を意識すべきである。

 

ただ単にガイドラインの医学的知識やUpToDateに書いてある治療適応を確認するクイズではない患者の性格や気持ちを理解したうえでの個別性のある意思決定プロセスが必要になる(そしてこれからはEBMのステップ4にあたるだろう)。

 

また、お互いに気持ちよく話を進めるには、ノンテクニカルスキルと呼ばれるようなコミュニケーション能力も必要になるだろう。例えば環境設定や、状況によっては端的に情報をまとめるプレゼンテーション能力も必要であろう。

 

もちろん患者-医療者間のコミュニケーションスキルも必要であり、医師同士だけでなく看護師・薬剤師・放射線技師・MSWなどとの医療者同士のコミュニケーションも円滑に行う能力が必要になる。

 

また、紹介される領域別専門医の大切にしている価値観も重要である。例えば相手によって「適切な時期に、適切な相手に、適切な方法でコンサルトする」ことができるだろうか。外科医には手術可能かどうかの評価が必要になるだろう。たとえば転移の有無や全身状態、内科合併症、注意すべき薬剤の情報は必要であろう。内科のバックアップがあるかどうかも気になるだろうし、術式の選択次第では応援を呼ぶか、紹介するかになるだろう。その際の情報提供を手伝うだけでも立派なコンサルトである。

 

TeamSTEPPSも立派なコンサルテーションである。医師に多職種が上申するイメージだが、その根底は患者擁護と主張 (アサーション)である。もちろん、時として患者のためを思って領域別専門医の先生にお願いすることもあるだろう

 

これは総合医に限ったことではない。どんなプロフェッショナルも, 少なからずコンサルタントとしての役割をもっているはずである。その意味では, 「専門家の役割は何か?」という問いは, 「コンサルテーションとは何か?」という問いと大きくその内容が重複しているはずである。病院総合医はコンサルテーションの機会がおおいのかもしれないが、コンサルトを受ける能力も高くなくてはならないし、他の専門医が困ったときにおせっかいを焼けるのも立派なコンサルテーションである。

 

これらは、総合診療の雑誌の特集で組まれていたコンサルトの美学の抜粋に一部筆者がアレンジしたものである。(COIなし)

治療 2019年1月号 特集 「コンサルトの美学」  [雑誌]

治療 2019年1月号 特集 「コンサルトの美学」 [雑誌]

 

 

これをレポートで評価はできないだろう。レポートにしたらこれをうまく引用した作文は用意できるだろう実際にコンサルトしている様子や、領域別専門医からの評価なども有効に違いない。 また、初期研修医や多職種からコンサルテーションをされた時にはどのような対応をしているのだろうか。360度評価という多職種からの評価も有用かもしれない。

 

 この評価をどうしようかと悩んだため

STFMとSHMの合同ガイドラインを紹介したことがある。

moura.hateblo.jp

ここでは⑤Medical consultation and co-managementの到達目標には

知識:ホスピタリストのコンサルタントの役割を定義し、効果的なコンサルテーションを提供するための知識がある。

技術:主観的、あるいは客観的情報を組み合わせることで相談者に簡潔かつ具体的な提案を行う。
態度:相談には迅速に対応し、担当医との間で役割を決定し、潜在的な合併症やそれを回避する手段を教え、そして適切に介入されているかを頻繁にフォローアップする。

 

とあり、EPAには

EPA2 様々な状況で患者や家族のためにケアができる

EPA5 病気から早く回復させ、機能を改善させるケアを提供できる

EPA6 分類できない症状や複雑な状態を評価しマネジメントできる

EPA7 慢性疾患と多疾患併存を診断し管理できる

EPA8 メンタルヘルスの問題を診断し管理できる
EPA9 急性期の病気や怪我を診断し管理できる

EPA10 外来あるいは入院の状況で共通の手技が実施できる

EPA12 終末期と緩和ケアの対応ができる

EPA13 入院患者のケア、退院患者のマネジメント、ケアの移行がマネジメントできる

EPA14 救急症例の対応ができる
EPA16 個人、家族、集団のケアにデータを最適化して活用できる
EPA17 患者さんと御家族の健康観とコンテキストにおいて、相互に健康を達成するための目標を設定し、健康を与える可能性が最も高いサービスを提供できる。
EPA18 患者、家族や地域社会のためにヘルスケアの目標を最適化し、格差を最小限にできる。

EPA19 多職種連携のヘルスケアチームでリーダーシップを提供できる。

EPA20 患者の求める状況に応じて、個別性の高い適切なコンサルテーションとケアを提供できる。

 

と様々な項目から評価すべきとあり、これができて「普通」なのである。

 

すなわち、普通とは、最低限このぐらいはできて欲しいという消極的な目標ではなく、「このぐらいできて当然と思える水準を高く目指そう」という気持ちの表れであり、その質を担保するための方略や評価は非常に難しい。という事になる。

 

例えばシミュレーション教育やロールプレイ、ケースの振り返り、ポートフォリオにまとめることで言語化する作業を何度も繰り返すことで、徐々に自分のものに浸透していくプロセスが重要であり、その評価もEPAや360度評価で多面的に行う必要があるのである。

 

少々熱くなってしまった。

①~⑥まで話そうと思っていたがまだ①しか話せていないことに愕然とする。

そして文字数もまさかの5000字オーバーである。

 

②の地域のニーズについてはまた明日でご容赦いただきたい。

最後まで読んでいただきありがとうございました。