南砺の病院家庭医が勉強記録を始めました。An archive of medical articles summarized by a family physician from Nanto Municipal Hospital.

An archive of medical articles summarized by a family physician from Nanto Municipal Hospital.富山県にある総合病院で働く病院家庭医です。勉強の記録を少しずつ書いていきます。

外部からのファシリテーターが予防的なエビデンスを実践する:家族医療で血管疾患を予防するためのファシリテーション介入において重要な要素は何ですか?

Preventive Evidence into Practice: what
factors matter in a facilitation intervention to prevent vascular disease in family practice?

BMC Family Practice volume 20, Article number: 113 (2019)

予防的なエビデンスを実践する:家族医療で血管疾患を予防するための促進介入において重要な要素は何ですか?

 

BMC Family Practiceより

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背景

プライマリケアの質の改善における永続的な課題は、介入が特定の状況では機能するが他の状況では機能しない理由を明らかにすることです。この研究の目的は、オーストラリアの家族医療におけるファシリテーション主導の血管健康介入の臨床実践への影響の変動を説明する要因を特定することでした。

 

方法
私たちの混合研究法は、家族診療における血管疾患のエビデンスに基づいた予防の取り込みを増加させるように設計された促進介入のクラスター無作為化対照試験に組み込まれました。この研究は、オーストラリアの4つの州で、16の介入実践のうち8つを使用して設定されました。ファシリテーターは、介入の実践と連携して、血管リスクファクターの監査によって通知された予防ケアの改善を開発および実施しました。臨床医、ファシリテーター、その他のスタッフとの半構造化インタビュー、実践観察、ファシリテーターの日記の文書分析から、各プラクティスの「介入ナラティブ」のケーススタディを構築しました。介入の物語は、介入前後の監査データと組み合わされ、介入に対する実践的対応の類型が生成されました。

 

結果
血管リスクの記録に加えられた変更には、プラクティス間にかなりのばらつきがあることがわかりました。コンテキスト(つまり、実践の規模)、適応の準備ができているか(つまり、対人関係、マネージャーと看護師の関与)、および時折のデータの特異性が相互作用して、この変動性に影響を与えました。

 

結論
調査結果は、実践の規模、臨床医の関与、そして批判的には、実践チームの組織力、および関係を調整するための調整介入の重要性を強調しています。

 

外部のファシリテーターがあるとプライマリケアの予防介入効果があるのか?本文を読んでみたくなりました。

 

はじめに

プライマリケアは慢性疾患の予防に重要な役割があります。心血管疾患(CVD)の予防に基づいたプライマリケア診療の改善においてアウトリーチ促進の価値に対するエビデンスが蓄積されています。

 

アウトリーチの円滑化は”外部のファシリテーターとプライマリケア実践の信頼関係を築き、ウェルネス、予防サービスの提供を含め、プロセスと結果の改善をするのための戦略”です。この10年間、成功したファシリテーションプログラムの最適な特徴について明らかになってきました。しかし、コンテキストやプライマリケア改革の取り組みの成功に関するエビデンスが増えてきたにもかかわらず、ファシリテーション介入のプライマリケアの実践の質については知られていません。

 

Preventive Evidence into Practice (PEP) 予防的エビデンスの実践はオーストラリアの4つの週の30の一般診療において、40~69歳の患者のCVD予防をサポートするアウトリーチファシリテーションのクラスター無作為化対象試験です。PEPのアウトリーチファシリテーション介入とは、①行動及び生理学的リスクの文書化、②リスク管理のためのガイドラインを遵守するために設計されました。(追加ファイル1参照)PEP介入により、アルコール消費、喫煙、腹囲、BMIなど行動リスク要因がわずかに改善されましたが、BMI、腹囲、血圧は中等度の患者には影響しませんでした。回帰分析では小規模診療所や2名以上の看護師がいる診療所が、血圧の評価と記録を改善する可能性が示唆されましたが、説明できていない診療間の変動性が残っていました。

 

混合アプローチを使用してオーストラリアのプライマリケアプラクティスのサンプルに提供されたファシリテーションによる血管健康介入の影響の変動性を説明できる組織的要因を特定しました

 

方法

explanatory mixed methods study(混合研究法)にはPEPの介入部門に参加したGPの研究が使われました。介入ナラティブは定性的データを使用して作成され、介入に応じて実践ベースの定量的CVD予防パフォーマンスを説明しました。ケーススタディーアプローチは、特に分析の単位が組織である場合に、医療サービスの研究においてますます重要になっています。その中には定性的、定量的データの収集が含まれ、組織とそのコンテキストの特性を探索します。複雑性理論と複雑な適応システムに基づいたフレームワークを使用しました。PEP介入の取り込みコンテキストの影響はStangeとGlasgowの概念モデルに基づいています(コンテキストの要因  2013 May-Jun;11:①Practice 実践設定、②Larger organization 大規模な組織、③External environment 外部環境、④Implementation pathway実装経路、⑤Motivation for implementation実装の動機 この文献も重要です。)

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www.annfammed.org

 

PEP研究の募集についてはHarrisが記載しています(Harris, BMJ Open. 2015) 8つのGPのサンプルはオーストラリアの各州(ニューサウスウェールズ、ビクトリア、クイーンズランド、サウス)から2つのプラクティスを選択するための研究選択基準(プラクティスサイズ、場所)の最大変動サンプルを使用して、PEPの15の介入プラクティスから引き出されました。参加者には介入ファシリテーター、実践スタッフ(GP、PN、PM)がいました。

 

定性的データ

半構造化の対面・電話インタビューで収集されました。1回の訪問を終えた後に1回。介入の完了時にもう1回実施されました。インタビューガイドに従って行われました。スタッフインタビューは特に社会的に不利な立場にあるグループについて、CVDの関連する予防的ケアのガイドラインに対する臨床医の診療アプローチの理解が提供されました。PEPの実践経験が確認されました。

 

定量的実践パフォーマンスデータ

 データは40~69歳の患者のBMI、腹囲、血圧、アルコール摂取、喫煙、脂質、空腹時血糖値、CVDの危険因子に関する情報を抽出されました。

 

定性分析はNVivoソフトウェアでフィールドノートと実践プロファイルをコーディングし、介入経験の「介入ナラティブ」を生成しマトリクスを開発しました。外部・内部コンテキスト(空間、プロバイダ、役割、関係、人事の変化、経験年数など)を抽出しました。

 

定量分析は、CVDリスク(血圧、喫煙、コレステロール、糖尿病の有無)、介入内容はA~Hにランク付けされました。a)血圧、喫煙、コレステロール、BMI、腹囲、血糖、アルコールなどの割合、b)介入12カ月での記録の割合、c)変更された割合を算出し、介入前と介入後10%以上および20%以上異なるものをピックアップしました。

 

実践的なナラティブを検討することにより、定量・定性的結果を比較し主要な設定要因を特定しました。データセットから定性データを調査し、ナラティブについて議論しました。

 

結果

A~Hの8プラクティスは1~13人のフルタイムのGPでした。2つは準農村で、残りは首都の郊外でした。電子カルテがあり、PMやPNがいました。Table1は主要な特徴、Table介入12カ月後までのCVD予防プラクティスのパフォーマンスの変化を示します。

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ファシリテーターの日記の分析では、実際の頻度と内容に違いは見られませんでした。ファシリテータの活動は、コアファシリテーションの原則に従いまとめました。

参考:(Grumbach K, 2014) The 10 Building Blocks of High-Performing Primary Care 患者中心となるプライマリケアの重要な10要素の定式化(ビルディングブロック)

1992年のStarfieldのプライマリケア実践の4つの柱(first-contact care, continuity of care, comprehensive care, and coordination of care)から2007年のNCQA( National Committee for Quality Assurance) の提唱したPCMH( Patient Centered Medical Home )認証に関する具体的なガイダンスについての言及がありました

ところがNCQAのPCMH基準は過度に規範的であり、診療や患者のニーズに対応できないチェックリストアプローチであるということもあり、それらを実践的に評価するための10要素の定式化がGrumbachの10項目です。フレームの流れを把握するための必読文献だと思います。

 

 

www.annfammed.org

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4つの基本要素

①engaged leadership エンゲージメントリーダーシップ

②data-driven improvement データ駆動型改善

③empanelment, エンパネルメント

④team-based care チームベースケア

 

他の6つのビルディングブロック

⑤patient-team partnership 患者チームパートナーシップ

⑥population management 人口管理

⑦continuity of care ケアの継続性

⑧prompt access to care 迅速なアクセスの実装

⑨comprehensiveness and care coordination 包括性およびケアの調整

⑩a template of the future 将来のテ​​ンプレート

 

ベースラインでは、有病率、CVDリスク(3.6~70.1)、喫煙(35~95%)、空腹時高血糖(0.6~42.9%)と大きなばらつきがありました。腹囲とBMIは一貫して低かったです。ベースラインA,B,Eでのプラクティスは小規模で(3人のフルタイムGP)、予防活動に非GPをつけ、診療看護師に予防責任を与えられました。

 

ベースラインの成績が悪いプラクティス(G,H)は、社会的地位が低い地域で、多文化のクライアントがいて、開業から2年でした。プラクティスGは中規模のプラクティスで5人のGPがいました。プラクティスHは英語を話さない高齢のクライアントを診ているソロプラクティスでした。

 

ほとんどの診療所では、CVDリスク因子とコレステロールに10%以上の改善がみられました。C,G以外で喫煙の改善が10%以上みられました。空腹時血糖が改善していたのはHのみで、BMI、腹囲、飲酒を改善できたのはDのみでした。ベースラインで低かった2プラクティスは3,4の指標に大きな変化をもたらしました。

 

それぞれのプラクティスのストーリーの振り返り

・事務職員と看護職員が予防業務のカギを握っていました。

・特に予防コーディネーター(PM,PN)が重要でした。

・職業間の分業よりも多職種がオーバーラップした仕事をすることが重要(医師も受け付けも予防活動をする)

・予想しないパフォーマンスの改善はDのケース

→GP1人、PM1人(妻)、患者の多くは非英語圏あるいは海外の学生だった。看護師も1人やめてスタッフも減っていた。しかし、喫煙、BMI、アルコール、ウエスト改善した。スタッフが減ったことにより、予防を焦点にすることを明確にした。スタッフの作業方針を作成し、待合室で予防の優先順位を公表し、GP相談前に看護師に相談していました。

・プラクティスCでは、GPは問題が多くてもプラクティスを変更することはほとんどないと感じていました。すでに予防策を講じていたつもりだったが、多職種ではプロセスを共有できませんでした。

・プラクティスFはGP是認が予防的ケアの責任を負っていましたが、ファシリテーターはPNが電子カルテ記録をしたり空間を創出する役割があることに気づきました。

・成績の悪いプラクティスGはPMに予防を依存していました。しかし、CVDリスクが5倍記載され、コレステロールの記録も劇的に増えていました。診療データをカルテにダウンロードする新しいシステムを導入したためでした。

 

まとめ

ファシリテーターがいると複数のレイヤーで変化を生み、結果的にPNやPMを中心とする関係改善を示しました。他のコンポーネント(コンテキストなど)もファシリテーション介入による恩恵があると思われます(さらなる研究の余地あり)

 

感想:

診療所のスタッフが縦割りで役割分担をするのではなく、どこを強化したらいいのかをファシリテーターが見つけて多職種共同など関係性の強化をすると20%の予防効果があった。という研究はまさにプライマリケア研究といえますね。他のコンポーネントへのファシリテーターの介入も楽しみですね。

 

 

本論文とは直接関係ありませんが

StangeとGlasgowの概念モデル( 2013 May-Jun;11)

①Practice 実践設定

②Larger organization 大規模な組織

③External environment 外部環境

④Implementation pathway実装経路

⑤Motivation for implementation実装の動機

 

Grumbach K, 2014) The 10 Building Blocks of High-Performing Primary Care 患者中心となるプライマリケアの重要な10要素の定式化(ビルディングブロック)

4つの基本要素

①engaged leadership エンゲージメントリーダーシップ

②data-driven improvement データ駆動型改善

③empanelment, エンパネルメント

④team-based care チームベースケア

他の6つのビルディングブロック

⑤patient-team partnership 患者チームパートナーシップ

⑥population management 人口管理

⑦continuity of care ケアの継続性

⑧prompt access to care 迅速なアクセスの実装

⑨comprehensiveness and care coordination 包括性およびケアの調整

⑩a template of the future 将来のテ​​ンプレート

 

その前駆になった

1992年のStarfieldのプライマリケア実践の4つの柱

①first-contact care,

②continuity of care

③comprehensive care

④coordination of care

 

2007年のNCQA( National Committee for Quality Assurance) の提唱したPCMH認証に関する具体的なガイダンス

もよい復習になりました。